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記憶の印  作者:
19/26

18.村

「旅人とは珍しい。最近めっきり減ってしまってなぁ」

 村を案内する男は、二人を見て喜んだ。

 噂が流れ出してから、此処には人が来ないと言う。

 エスラルはうんうんと頷いた。

「その噂、本当なんですか?」

「それがなぁ、本当だから困ったもんだ」

 男は溜息を吐いた。

 若くもなく、かといってそれほど老いているわけでもない。

 中年の男だった。

「夜の間に、いつのまにか消えているんだ。この辺の人々は神隠しだと言っている。村に余所者を入れるな、と地神様が怒ってるんだとさ」

 言い方からして、男は神隠しを信じていないらしい。

「対策とか、されていないんですか?」

 エスラルが訊くと、男は困ったように肩を竦めた。

「それが、夜の間見張りについた者が殺されているんだ。一人残らずなぁ。だから今じゃ、わざわざ見張ろうなどと言う者はいなくなった。旅人も来なくなったしな」

 エスラルはフレアと顔を見合わせた。

「可能性あり、でしょうか」

「そうみたいね」

「何の話だ?」

 男が不思議そうは不思議そうに首を傾げたが、

「いえ、こっちの話です」

 とエスラルが言うと、それ以上食い下がることはしなかった。




「あー……城のベッドが恋しい」

 違う場所で、エスラルとフレアは同じことを言った。

 一応男と女ということで、二人は小屋を分けられたのだった。

 見張りについて殺された大半は独り身だったので、村には空き小屋が幾つもできてしまったらしい。

 だがその生活は粗末なものだったらしく、小屋の中にはベッドはおろか一つも家具は見当たらず、床に布のようなものが転がっているだけだった。

 壁には鍬が立てかけてあり、既に錆びている。

「此処で寝るのかな……」

 小屋を見渡しながら、エスラルは呟く。

 ボロ小屋の、天井の隅の蜘蛛の巣や穴の開いた床が目に留まる。

 さらには、天井裏を鼠が駆ける音まで響いてきた。

 エスラルは一瞬だけ真面目に、城の自分の部屋へ帰りたいと思った。

 ふかふかのベッドが、頭を過ぎる。

「何これベッド……?」

 フレアは布を見つめ、眉を(ひそ)める。

 布はボロボロで、埃に塗れている。

 床に開いた穴からは、百足(むかで)が這い出していた。

 フレアは、魔術で城へ帰ろうかと本気で思い悩んだ。

 二人はこういうところだけ妙に綺麗好きらしい。

(この村からは早く出よう……)

 同じことを、二人は考えていた。

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