17.願望
「えーっと、スタージュさん、当てとかありますか」
エスラルは地図を見ながら言った。
といっても世界地図なので、町の名前はぽつりぽつりとしか載っていない。
「うーん……あ、噂なら……」
城でずっと王子といたのに何処から噂が流れてきたんだ、という突っ込みを呑み込んで、エスラルはフレアを見た。
「何処ですか?」
考えながら、フレアは指を動かす。
「此処よ」
指したのは、そう遠くない村だった。
「何の変哲も無い村に見えるらしいんだけどね」
フレアはトントンと指で地図を叩く。
「訪れた旅人が、消えてるらしいのよ」
「妙ですね……何かあるんでしょうか」
「行ってみましょう?」
「はい、でも旅人が狙いなら、気をつけなければいけませんね」
田舎の、農村。
あちこちに藁で造られた小屋が並び、田畑が視界の大部分を埋めている。
「和むわね……」
フレアは小さく深呼吸した。
田舎の空気は美味しい、という噂は本当らしい。
吹き渡る風が、心地良い。
しかし、今は田舎に静養に来ているのではない。
「怪しい人を見つけたら、見つけないと。危険です」
そう、復讐の旅の最中なのだ。
リラックスしている場合ではない。
しかし大自然に囲まれていると、復讐のことなど吹き飛んでしまいそうだった。
(……駄目)
フレアはぶんぶんと首を振った。
復讐に必要なのは、強い精神力。
(王子を殺されたこと、忘れられる筈がない)
途端に、どうしようもない虚無感がフレアの中で広がった。
王子に、もう会えない。
その事実を再確認してしまって、フレアは俯く。
そして当の王子は、和やかな自然の香りにうっとりとしていた。
俯くフレアに気がついて、不思議そうな顔をする。
「どうかしたんですか?」
「ちょっと……王子のこと思い出して」
「あぁ……」
エスラルは納得し、また景色を眺める。
「早く、奴等を見つけないといけませんね」
慰めることはできない。
エスラルは、死の悲しみを知らないのだから。
気持ちを知らない者の慰めは、効果が無い。
(……いつか、僕にも分かってしまう時が来るのかな)
ふと考えて、エスラルは未来に思いを馳せる。
(来ないといいな)
空を見上げ、そんな当然の願望を、抱いた。