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記憶の印  作者:
18/26

17.願望

「えーっと、スタージュさん、当てとかありますか」

 エスラルは地図を見ながら言った。

 といっても世界地図なので、町の名前はぽつりぽつりとしか載っていない。

「うーん……あ、噂なら……」

 城でずっと王子といたのに何処から噂が流れてきたんだ、という突っ込みを呑み込んで、エスラルはフレアを見た。

「何処ですか?」

 考えながら、フレアは指を動かす。

「此処よ」

 指したのは、そう遠くない村だった。

「何の変哲も無い村に見えるらしいんだけどね」

 フレアはトントンと指で地図を叩く。

「訪れた旅人が、消えてるらしいのよ」

「妙ですね……何かあるんでしょうか」

「行ってみましょう?」

「はい、でも旅人が狙いなら、気をつけなければいけませんね」




 田舎の、農村。

 あちこちに藁で造られた小屋が並び、田畑が視界の大部分を埋めている。

「和むわね……」

 フレアは小さく深呼吸した。

 田舎の空気は美味しい、という噂は本当らしい。

 吹き渡る風が、心地良い。

 しかし、今は田舎に静養に来ているのではない。

「怪しい人を見つけたら、見つけないと。危険です」

 そう、復讐の旅の最中なのだ。

 リラックスしている場合ではない。

 しかし大自然に囲まれていると、復讐のことなど吹き飛んでしまいそうだった。

(……駄目)

 フレアはぶんぶんと首を振った。

 復讐に必要なのは、強い精神力。

(王子を殺されたこと、忘れられる筈がない)

 途端に、どうしようもない虚無感がフレアの中で広がった。

 王子に、もう会えない。

 その事実を再確認してしまって、フレアは俯く。

 そして当の王子は、和やかな自然の香りにうっとりとしていた。

 俯くフレアに気がついて、不思議そうな顔をする。

「どうかしたんですか?」

「ちょっと……王子のこと思い出して」

「あぁ……」

 エスラルは納得し、また景色を眺める。

「早く、奴等を見つけないといけませんね」

 慰めることはできない。

 エスラルは、死の悲しみを知らないのだから。

 気持ちを知らない者の慰めは、効果が無い。

(……いつか、僕にも分かってしまう時が来るのかな)

 ふと考えて、エスラルは未来に思いを馳せる。

(来ないといいな)

 空を見上げ、そんな当然の願望を、抱いた。

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