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記憶の印  作者:
16/26

15.灰色の空

「何よ、あんたも私を嫌うの?そうよね、私は悪だもの」

 半ば自棄になって、カーラは叫ぶように言う。

 フレアは答えない。

 ただ俯いて、床の木目を見つめている。

(どう答えたら良いのかしら)

 フレアは本気で悩んでいた。

 認められない悔しさ。

 後ろ指を差される悲しさ。

 居場所の無い寂しさ。

 分かってしまうから、余計辛い。

 寂しさを紛らわすための少女の行為が、フレアには否定できなかった。

「それでも……」

 フレアは同情を押し殺し、言い放った。

「貴方のしていることは、人としてやってはいけないことです」

「分かってる、そんなの」

 カーラは目を細め、ナイフを構え直した。

 フレアは溜息を吐き、指先をカーラに向ける。

「もう殺人はしないと誓うなら、許すわ」

 フレアの言葉は、カーラの目に憎悪を宿らせるだけだった。

 ナイフを(かざ)し向かってくるカーラに、フレアは呪文を唱え軽く指を振った。

 部屋が一瞬、真昼のように明るくなった。

 炎の赤色が、周囲を照らし出す。

 そして、炎は消えた。

 跡には、銀色の灰がちらほらと。

 さっきまで其処に存在していた、少女の姿は消えていた。

 まるで、初めから無かったかのように。

「居場所っていうのは、周囲に認められることじゃない」

 フレアは一人、呟いた。

「自分が存在したいと思った空間が、居場所なのよ。でも、その為に誰かを傷つけるのは間違ってるわ」




「怪我、治してくれたのスタージュさんですよね?ありがとうございます」

 目を覚ましたエスラルが言った。

 傷は完全に塞がり、跡形も無い。

「エスラル君だって敵を倒してくれたでしょう?お互い様よ」

 そう答えたフレアの顔は、少しやつれている。

「……何かあったんですか?事件は解決したじゃないですか」

「少し、昔の事を思い出してしまってね……」

 暗い声で言い、フレアは空を見上げた。

 灰色の雲が空を(おお)っているものの、日の光はその隙間から溢れている。

「結局あの事件、アサシンとは関係ありませんでしたね」

 エスラルの言葉にも、フレアは上の空だった。

(まぁ、フレアさんのことだから、時間が経てば元に戻るだろうなぁ)

 しばらく話は止めておこう、とエスラルは沈黙する。

 そして二人は、黙々と歩き出した。

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