13.夜の惨劇
――――新月の夜の話。
暗い暗い小屋の片隅で、少女が一人、泣いていた。
傍らには、両親の死体。
その体からは、未だ血が流れ続けていた。
城に仕える中級魔術師だった。
外には、今まで二人に圧力を掛けてきた上級魔術師。
魔術師は二人をこの小屋まで追い詰め、命を奪った。
先に妻を護ろうとした夫が死に、次に娘を護ろうとした妻が殺された。
「終わりだな」
笑い、魔術師は呪文を唱える。
――だがその呪文は、途中で断ち切られた。
その胸を、鋭い角が貫いていた。
「な……」
角の持ち主は、本来伝説上でしか登場しない生物。
一角獣だった。
額に長い一本の角を持ち、馬のような体をしたそれは、魔術師から角を引き抜くと、少女の元へ向かった。
少女は、いつのまにか小屋の入り口に立っている。
「それは……貴様の守護獣か?」
魔術師は信じられないという風に言った。
――守護獣。
生まれた時から一人に一匹だけ憑いていて、目に見えない形で主人をサポートする。
その守護獣を魔術で具現化すると、獣の姿になる。
故に、守護獣と呼ばれている。
具現化された守護獣は、主人に付き従う。
魔術や剣術への耐性もあり、ほぼ無敵といってよかった。
しかし、彼のような上級魔術師でも、そう簡単には扱えない術であった。
使用すると、激しく体力を消耗する。
鍛錬していない者は術を成功させること無く十中八九気絶し、運が悪ければ命まで落とすこともある。
よく鍛錬した者でも、短時間しか術を維持できない。
しかし、この少女は。
きちんと魔術を習ってもいないこの少女は、おそらく使うのは初めてであろうこの守護獣の魔術を、一発で成功させてしまった。
「何故……」
倒れ、最期に呪文を唱えようとした魔術師を、一角獣は踏み潰した。
容赦無く、頭蓋骨を踏み割る。
ぐしゃり、という音と共に、脳髄が漏れ出した。
「ひっ……」
少女は恐ろしくなって、小屋のドアにしがみ付いた。
気が付いたら口が勝手に動いていた、という事実が、一角獣を呼んだのが自分だという事実が、少女には分からなかった。
一角獣が少女をじっと見つめる。
少女は怯えて、体を小さくした。
しかし、一角獣の目は優しくて。
次第に、恐怖は薄れていった。
そして、日が昇る頃。
少女を見つめていた一角獣は、すっと消えた。
まるで、煙が空に消えるように。
それと同時に唐突に疲労が襲い、少女は気を失ってその場に倒れた。