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記憶の印  作者:
13/26

12.居場所

 次の瞬間、エスラルは床に倒れ込んだ。

 腹と肩から大量の血を流し、必死に意識を保とうと重い瞼を開ける。

「スタージュ、さん……あと、よろ、しく、お願い…します」

 部屋の入り口に立ったままのフレアに、エスラルは声をかけた。

 そして、ぐったりと目を閉じた。


「あれ?死んだ?……死んでないわね」

 カーラがナイフの先でエスラルを突く。

 小さく上下するエスラルに、カーラは吐き捨てるように言った。

「あんた、なんかムカつくのよね。そういう素直っぽい奴って、きっと何の苦労もしてないのね」

 憎しみを込めて、カーラは呟いた。

 ナイフを、エスラルの首へと振り下ろす。

 ――だが次の瞬間、その行為は中断された。

「……何?」

 その手首を掴んでいるのは、フレア。

 細い手首を、折れそうなほどにきつく握っている。

 フレアは言葉を返さず、ただ何かを呟き続けていた。

「!」

 フレアが呪文を唱え終え、カーラはようやく気が付いた。

 この魔術師が、この部屋の仕掛けを全て解除させたことに。

「トラップの多い部屋だったけど……」

 フレアは空いた左手で額の汗を拭った。

「なんとか間に合ったわ。エスラル君のお陰」

 カーラはフレアの手を振り払い、後ずさる。

「何故貴方が?」

 フレアは悲しげな表情を浮かべ、訊いた。

 静寂が、訪れる。

 月が雲に隠れ始め、部屋はだんだんと暗くなった。

 やがて、カーラが拗ねたような口調で呟いた。

「……誰も、私を認めてくれないの」

 哀愁が込められたその答えに、フレアは顔を顰めた。

 静かな部屋に、カーラの声だけが響く。

「私の親は、濡れ衣を着せられていたの。殺人の罪のね。でも誰も信じてくれない」

「……」

「誰も、私を町の仲間として見てくれないの。皆、蔑みの目で私を見るし……この町に、私の居場所なんて無い」

「……」

「両親はひっそりと町を出て行ったわ。何もしてない、善い人達なのに」

「……」

「だから、こんな町、潰してやる。この町に来た人も。これ以上、私の親のことを広めない為にも」

 最後は涙声になりながら、カーラは断言した。

「人間なんて、嫌いよ」

 フレアは立ち尽くしたまま俯いた。

 認めてもらえない悔しさが、フレアには分かった。

 ――孤児から魔術師に成り上がり、周りから軽蔑されていたフレアには。

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