11.刃物
「エスラル君っ!」
背後からフレアが追いついて、エスラルは振り返った。
「スタージュさん、大丈夫でしたか?…訊くまでもありませんが」
「エスラル君こそ。15人も行ったんでしょ?」
「大したことないです。……急ぎましょう」
二人は沈黙して、走り続けた。
「カーラさん!」
エスラルは勢い良くドアを開けた。
月光に照らされ、部屋の様子が浮かび上がる。
一人の男が、カーラに槍を向けていた。
「あ……」
カーラが呟く。
室内の残りの9人が、一斉にドアを開けた二人を見た。
「カーラさん一人に対して10人ですか?」
エスラルは剣を抜く。
切りかかるより早く、フレアが呪文を唱えた。
部屋の中が一瞬明るくなり、すぐにまた暗くなる。
敵は半分に減っていて、その5人は魔術を防ぐように手を出していた。
その手首には、魔封石のブレスレットが嵌っている。
「スタージュさん下がって!」
エスラルはそう言って、剣を構えた。
周りの敵を薙ぎ払い、カーラに槍を向けている男に向かっていく。
突き出された槍は、その瞬間しゃがみ込んだカーラの頭上を通過した。
男が叩き切られ、血が飛び散った。
倒れた体からも血が溢れ出し、床を汚していく。
「や……」
服に血が付き慌てて立ち上がったカーラを護るように、エスラルは敵の前に立った。
4人の敵にそれぞれ一撃を与え、気絶させる。
その動きは速すぎて、相手は対処する暇も無く床に転がった。
次の瞬間――――
グサリという音がしたな、とエスラルは思った。
自分の腹から銀色に光る切っ先が覗いていることに気づくのに、そう時間はかからなかった。
「な……」
エスラルの背後から、カーラのカーラの声が響く。
「結構早かったわね」
背中からナイフが引き抜かれ、エスラルはびくんと痙攣する。
「…犯人の一味、だったんですか」
ほんの少し苦しげに、エスラルは声を発した。
ズブ、とまた音がする。
「そうよ。悪い?」
肩口に激しい痛みを感じながら、エスラルは答えた。
「ええ、悪いです」