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記憶の印  作者:
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0.童話

 カタン

 棚の上段から一冊の本が抜き出される。

 その小さな両手には大き過ぎる大きさで、彼は僅かによろめいた。

 空が描かれた表紙には、こう題名が書かれていた。

 【空の童話集】

 静かな部屋の真ん中で、少年は本を床に置きページを捲る。

 彼がその手を止めた時、そこにはこんな物語が記されていた。




 3.『とある魔術師の話』



 まだ、魔術があまり知られていなかった頃のお話です。

 昔々あるところに、小さな村がありました。

 古くからあり、深い深い森の中にある村です。

 そんな村で、ある日、一人の男の子が生まれました。

 名前を、ロウ・ロットといいます。

 ロウは、村の商人の小屋で生まれました。

 この村で子供が生まれることはとても珍しいので、村人達は皆喜びました。


 ロウには、生まれつき魔術の才能がありました。

 家に残っている古文書を見ては、呪文を唱え練習します。

 唱えた呪文は大抵一回で成功したので、彼は呪文とその効果を覚えるだけで殆どの魔術を使うことができました。

 ところが、彼の村では魔術は邪悪なものとされていました。

 彼はやがて、村人達に迫害を受けるようになりました。

 両親さえも、気味悪がって近寄りません。

 殴られ、蹴られ、火の点いた松明を押し当てられました。

 しかし、彼は決して人に対し魔術を使いませんでした。

 彼の姉のお陰です。

 彼女は迫害する村人達を追い払い、一人で彼の味方をしました。

 ロウにとって、姉だけが唯一信じられる存在でした。

 けれど村人は、そんな彼女を放ってはおきませんでした。

 彼等の親を殺し、姉を他の村に売り飛ばしてしまいました。

 ロウはこれにとても怒りました。

 自分が何をしているのか分からないほどに怒りました。

 そして強力な呪文を唱え、村を焼き払いました。

 逃げ惑う人々が、宙に浮くロウを見上げて泣いています。

 ロウは、そんな人々を一瞥すると、更に呪文を唱えました。

 村は、あっという間に灰になってしまいました。

 古文書は無くなってしまいましたが、その全ての内容は、彼の頭の中にはありました。

 彼は人間達を憎むようになり、次々と街や村を焼失させて回るようになりました。

 人々は彼を、「怒りの魔術師」と呼ぶようになります。


 やがてやってきた街で、ロウは呪文を唱えようとしていた口を閉じました。

 その正気を失った瞳に映ったのは、姉の姿でした。

 遠くからでしたが、はっきりと映ったのです。

 ロウは急いで追いかけました。

 姉は、げっそりと痩せ細っていました。

 ボロボロの布の服を着せられ、伸び放題の髪は乱れています。

 彼女はロウの姿を見つけると、抱き付きました。

 彼は何も言わず、姉を抱き返します。

 そのとき、二人は鋭い痛みを感じました。

 二人の胸を、一つの剣が貫いています。

 「怒りの魔術師」を追っている、剣士でした。

 心臓を貫かれた二人は、お互いを見つめ合いました。

 そして、ふっと笑います。

 ロウは治そうと思えばどんな怪我も治せる自信がありましたが、何もしませんでした。

 二人の魂は、ゆっくりと昇っていきます。

 そしていつしか光となって、世界に降り注ぎました。

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