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3月 出会い②

 十分ほど走って、男の子はバイクを道路の端っこに止めて、ハザードを点灯させる。

 ギュッと男の子の背中を抱きしめている奈々が小刻みに震えているのを、気にしたのだ。

 その当人は病院を抜け出した罪悪感で寒さすら忘れていたぐらい動揺していて、男の子に奈々の心臓の鼓動が伝わるぐらい、ギュッと抱きついている。

 止まったことにも気づかない奈々に男の子は「ちょっと離れろ」と声をかける。

 そこでやっとバイクが止まっていることに気づいた奈々は慌てて、ヘルメットを脱いで降りようとするが、落ちそうになってしまう。すかさず男の子は奈々の体を掴み。体制を整える。

 

 「ご……ごめんなさい!」


 奈々は顔を真っ赤にして、今度はゆっくりとバイクから降りる。

 別に降りろとは言っていないのだけど、奈々はなぜかバイクから降りてしまったのだ。

 緊張と罪悪感がミックスすると、人間はなにをしているかわからない典型的な行動でもあるから、男の子はなにも言わず、上着を脱いで、奈々に渡す。


 「寒いんだろ。これ着てろよ」


 そっけない態度ではあるものの、それは男の子なりの優しさだった。


 「ありがと……あなたの名前は?」


 奈々は手渡された男物のジャンバーを羽織る。男物の香水の匂いとさっきまで男の子が着ていたので、とても暖かくて自分を抱きしめる。

 

 「とおるあんたは?」


 「私は奈々! 藤宮奈々!?」


 そっけない透とテンションの高い奈々は自己紹介を終えるのだけど、奈々のテンションに透は付いていけず、少し引き気味になる。それを見て、奈々はテンションの高いまま

なにを喋っていいのかわからず、「えっと!」「あの!」とその後の言葉が見つからない。

 

 「ちょっと落ち着け」


 そこで奈々は自分がとてもテンパっていることを知り、深呼吸を何度かして、心を落ち着かせる。「おし、大丈夫」と小声で自分に言い聞かせると、病院に入院していること、病院から抜け出してきたことなどを説明する。


 「で、それがバレて看護士に追いかけられて、俺のバイクに乗ったって事か……」


 奈々は少し照れながら


 「その通り///」


 「褒めてねぇよ」


 間髪いれずに透は奈々につっこみを入れる。

 奈々は数秒シュン……とするけど鶏のように三秒もすればテンションは正常値にまで上がっていく。なんてやっかいな性格なんだ。と思う透なのだが、奈々のズボンがパジャマなのを見て、さすがに上着だけでは、寒さを凌げないだろうし、病人が風邪でも引いたら厄介でもあるため、バイクのキーを抜いて、「付いてこい」と先に歩き出す。

 奈々も「うん」と返事をして、透に付いていこうとするけど、歩くのが早いため、小走りになってしまう。それを見た徹は、奈々のスピードに合わせるようにゆっくりと歩き始める。

 それにともなって奈々はやっと透の隣を歩けるようになり、あっちこっちのお店を見ながら歩いていく。それが奈々にとって異性と二人っきりでいることが初めてであり、デートと呼べる出来事も初めてだった。

 歩いている最中は二人とも無言だった。

 二人してなにを喋ればいいかわからない。

 奈々は付いてこいと言われただけで行き先を聞いてはいなかったので、それを聞こうとしたのだけど、先に目的地に着いたらしい。

 透が足を止めたお店はレディース服のお店で、派手な外装をしており、中には金髪のギャル風な店員さんや茶髪で少しお姉さん風な店員さんがいる。

 透は躊躇うこともなく中に入っていく、奈々も一緒に入っていく。

 

 「この子の服、見繕ってほしいんだけど」


 茶髪の店員さんに声をかけると、すぐに「どんな服をお探しですか~?」と営業スマイルで話しかけてくるので、透は「とりあえず彼女に合う服装を頼む」と店員さんは奈々を上から下を見て、何着か服を選んでいく。


 「透くん? 私、お金なんて持ってないよ」


 お金は必要ないだろうと思っていたので奈々は財布を持ってきていなかった。


 「金は俺が出す。気にするな、そんな格好で居られたら俺が犯罪者扱いされかねない」


 透の貸したジャンバーを脱げば、カーディガンに薄いパジャマ一枚と言う格好は、一般人から見れば、外を歩く格好とは程遠い。

 それに透はバイクに乗っていたときに、奈々が寒さで震えていたのを知っていたので、服の購入を最優先と考えていたのだ。

 その優しさを汲み取った奈々は「ありがとう」っとお礼を言うしかできない自分を少し悔やんだ。

 

 

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