3月 出会い
1人の少年がいました。その子は平日と言うのに、お気に入りのバイクで街に、時間を潰しに……なのか、毎日、同じ場所にいるの。
青い大きなバイクで、レースなどでも活躍しているバイクのシートに腰を下ろして、いつも街を見つめているんです。
え? バイクに詳しいって? ちょっと気になって調べただけです。他意はありません。
だから、今日はその男の子にお喋りしに行こうと思います。
私、藤宮奈々(ふじみやなな)が初めて恋をした物語を、恥ずかしいのですけど、読んでいただけたらっと思います。
病院の個室に1人の少女がいる。
藤宮奈々、それが彼女の名前。
生まれた時から、病気を患っている少女は、人生の2/3はこの病室で過ごしている。
家族構成は父・母・私・妹の4人家族、父と母は朝から仕事で、妹はまだ中学生なので、この時間はいつも1人。
奈々には、毎朝の日課があった。それはいつもバイクに跨って来る、1人の少年を眺めること。
その子は雨の日でも現れる。365日、毎朝、いつもの場所に現れるのだ。
奈々はその男の子に興味を持っている。
なぜなら、その男の子は、なにもしない。ただ、バイクでいつもの場所に来て、バイクのシートに座って、街を眺めているだけなのだから、興味が沸いてしまうのも無理はなかったのかもしれない。
奈々は行動に移した。
パジャマの上にカーディガンを羽織って、寒さ対策をする。
まだ3月が始まったばかりの肌寒い日が続いていて、冷え性の奈々にはとても辛い季節でもあった。
ナースステーションを通り過ぎる時に、声をかけられ、一瞬 ビクッ! っと体を震わせしまった。バレてないといいけどっと、心に動揺が走る奈々を知ってか知らずか
「もうすぐ回診だから、散歩ならすぐ戻ってきてね」
いけない事をしようとしている人間は、些細なことでも、同様が走ってしまう。
奈々も例外ではない。
心の中では、心臓がいつもの2倍ぐらいの速度で鼓動を促す。
だから、「大丈夫」と心で囁き続ける。
「はい。わかりました」
我ながら完璧だった、とエレベーターに向かって歩みを進める。
エレベーターの前に着くと↓のボタンを押して、エレベーターが来るのを待つ。
待っている時間がものすごく長く感じる。それだけ、奈々は男の子に対する興味が大きかったのだ。
エレベーターのドアが開くと、1のボタンを押して、閉のボタンを押す。
幸いなのが、誰も乗っていないと言うこと、ハァ……と深呼吸して、ドクンドクンっと騒ぎ立てる鼓動を沈めるように勤める。
1階に着いた、エレベーターは降りる奈々のために、ドアを開く。
1階は診察の人でごった返しになっていて、今から奈々が病院を抜け出すとは思ってもいないだろう。
なので、早まる気持ちを押さえ込み、自動ドアに向かって歩き出す。
大丈夫……あと少し……そして、自動ドアを超えて、外の世界に1歩踏み出した。
外は両手で自分の体を抱きしめるぐらい、今日は寒かった。
もう少し、暖かい日にすればよかった と思いつつも、決心が鈍らないうちに……
「奈々ちゃん、どうかしたの?」
そこで、奈々は焦った。
私服の看護士さんと出会ってしまったのだ。
さっきも言った通り、奈々は今から、病院を抜け出す。
普通の子なら、動揺しない事でも、奈々にとっては、万引きをして見つかった中学生ぐらいの動揺が走ってしまったのだ。
だから、おもいっきり走り出したのだ。
だから、看護士の人も追いかけてくるのだ。
「中庭をちょっと散歩に~」など機転を利かせたら、こうにもならなかったはずなのだが、奈々にそんな余裕はまったく無かったのだから、仕方が無い。
ずっと追いかけてくる看護士さんをチラチラ見ながら、男の子が居る場所に走っていく。
そして、男の子を見つけた。
ゆっくりしている余裕は奈々にはない。
だから、こんな行動を取った。
「早くどこかに連れてって!」
奈々は男の子のバイクの後部座席に飛び乗ったのだ。
男の子も、『ハァ?』と問い返すのが精一杯と言った感じに、奈々を見つめる。
奈々の焦りように男の子は、奈々の走ってきた道を見ると女の人がこっちに走ってきている。「早く! お願い!?」とせがむ奈々に気負けして、男の子は奈々の頭にヘルメットを押し込んで、バイクのサイドスタンドを戻して、キーを回し、ブレーキを踏みながらセルでエンジンを付けて、バィイイイイイイイイインっと1度、アクセルを回して、ギアを1速に落として、走り出したのだった。