第一章 四話
「…桜木、脇道から敵が流れている。俺はそいつらを片付ける。お前は、ここを
守ってくれ」
そう言い、京介は詩織を残して路地裏に駆ける。
詩織は、それを横目で見届けた後、視線を目の前のセプテムの群れに移す。
ざっと見て、確認できるのは四足歩行、犬型。虎と、兎が合体したような異形のセプテムがだいだい半数ずつ、凡そ40体が居た。
通常、歩兵がセプテムを相手にする場合、相手にするセプテムの五倍の数を必要とするのがセオリーである。しかし、詩織はまるでその様なことなど気にもしないように、セプテムとの距離を詰める。
そして、対峙する距離が5メートルに達した瞬間、最先頭に居た犬型セプテムが雄叫びを上げ飛びかかってきた。
詩織は、そこから動こうとせずに、ただ手を前に突き出す。
セプテムの牙が、詩織に届く瞬間―――そのセプテムは、真後ろに目視出来ない
、謎の「絶対」的な力にはね飛ばされた。
『対有絶対不可侵領域』
その名称を持つ、詩織の能力。
それは、呼んで字の如く『有体』…つまり、森羅万象に於いて、その存在が『
有』のモノ総てを拒む、詩織が纏うパーソナルスペース。
それが、詩織のドミナントとしての能力。
先程の一体は、ふっとばされ、仲間に踏み付けられ死んだ様だが、次は別のセ
プテムが我先にと詩織に殺到する。今度は、一直線にではなく広く個体個体が散
っている。
詩織は、突き出す腕をそのままに、くるりと一回転し、言葉にはならないが心
の中で呟く。
『……Hemisphere展開』
Hemisphere……半球の意。
まさしく、単語通りに詩織の中心に周囲を囲む様に、詩織の念がドーム型の障
壁を展開する。‘壁’は、目視する事が出来ず、何も知らずに突っ込んで来たセプ
テム達は次々と犬型セプテムと同様に、壁に干渉を拒否され勢いを付けて後ろ
に飛ばされる。それにより、後に続々と続いていたセプテムの長蛇の列は大きく
乱れた。
互い互いがぶつかりあい、押し揉まれ、時には鋭利な外殻や、爪・牙等にその
身を裂かれるセプテムもいた。