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第一章 二話

「ねぇ…ちょっと」

 先程、鮨詰め状態であった、作戦立案室(ブリーフィングルーム)よりも、更に狭隘(きょうあい)な、現在のよりも四世代ほど旧型の陸自の装甲輸送車の車内、また左右で座るのを分けて見た時、左側の座席の前から順に、たった今、誰に対してもでもなく、声を放った、見た目「普通」と言うのが一番相応しい風貌の生天目優。寡黙に徹しているのか、只たんに話したくないのか、もしくは失語症なのか…。とにかく、声を全く出さない桜木詩織。そして、名前で分かる様、親に外人が居るのを表す様な、亜麻色の髪をポニーテールにしているのが印象強い、Recheca=申道。

「私達、もうだいぶ前から、Dトルーパーに在籍してた訳だけど、顔を合わせたのは、今日が初めてな訳じゃない?だけど、統轄ラボに着いて直ぐに、会議になったから、自己紹介も何も出来なかったから、今軽くしときたいと思うんだけど……」

 優は、特にDトルーパーの主力で、自らと同じ「ドミナント」である、京介と詩織とレシェッカの顔を伺いながら言うも、三人とも沈黙のみを返した。

「えーと……」

 戸惑う優を尻目に、右側の一番後ろに座る総司が静かにため息をつく。

「やれやれ、お前達これから生死と生活を共にするんだぞ?全く……。俺は、小倉総司。新選組の沖田総司の総司な。年は、23と、お前達とは少し離れてるし、一応俺は、お前の管理官と言う事になってるが……まあ友達感覚で付き合ってくれ。宜しくな」

 言葉を紡ぎ終わった後、総司は隣りに座る號を肘でつつき、自己紹介をする様促す。が、號は相も変わらず、厳めしい表情のまま、口を開かない。

「あー……見た目によらず、シャイなんだ。…コイツは、新冠號。怖くて、ゴツイ顔してるが、一応俺と同期だ。いい奴だ。…厳めしいが」

 號は、最後に付け加えられた一言に、言い過ぎだと言わんばかりに、厳めしい顔のまま、目だけをギョロリと向かせ睨むが、既に目の前に座るレシェッカに自己紹介をする様に促す為、外方(そっぽ)を向いている総司は全く気付かず、代わりに(顔を)見ていた優と視線がぶつかり、優を恐怖で震え上がらせた。

 拒否をするも、執拗に自己紹介を促されるレシェッカは、渋々と言った感じで口を開く。

「……Recheca=申道。14歳。両親は知らない。EXクローン体だから」 素っ気なくレシェッカはそう言うも、彼女以外の全員は、目を見開いた。

 EXクローン体。それは、遺伝子…特にクローンに関しての研究促進の為に、研究者が自らの遺伝子を元に作り出し、「科学の発展のためには、犠牲が必要」という、暗黙のスローガンの元に、非人道的な研究の対象となる者…。それが、Experiment clone。略称、EXクローン。

 現在、クローンやES細胞等の、バイオエシックスに関わる研究は、地球上に於いては、法度の事であり、研究が露見すれば、どの国でも無条件で極刑となる。

「私のオリジナルは、既に亡くなっていて、私はオリジナルのEXクローンの二次クローン。去年の今頃私を研究してるのが、見つかったんだけど、たまたま私にドミナントとしての能力が備わったから、私の徴兵許可証への調印と引き換えに、無罪になったから、その人が一応の親代わり。」

 そう言い切り、隣りに座る詩織に、どうぞと静かに言う。

 が、また詩織も又何も口にしない。ただ、その代わりに懐を探り、取り出したメモ帳に、一緒に出したボールペンで、サラサラと何かを書く。一分弱。それで書き終わった詩織は、メモ帳を皆に向ける。そこには、少々乱れているも、完璧な楷書で、自己紹介が書かれていた。

『私は桜木詩織。14歳。訳があって喋ることが出来ない。能力(ちから)は、“AEGIS(イージス)”と呼ばれている。宜しく。』

 全員が見たのを確認し、詩織はボールペンで優にどうぞ、とジェスチャーをする。

 言い出しながらも、少々の逡巡の間の後、優は口を開く。

「えっと、あたしは優。生天目優。15歳。戦いとか、争い事とか苦手なんだけど、その…お父さんが、陸上自衛隊の統幕議長をしていて、だから…徴兵されました。皆の足を引っ張るかもしれないけど、宜しくお願いします」

 そう言い、頭を下げる。そして、全員の視線が京介に向く。

「鷺沢京介。16歳」

 それだけを言い、京介は俯く。

「おいおい、京介って言ったか?ちょっと簡潔過ぎるだろ」

 総司がそう言うと、京介は俯いたまま呟く。

「それ以外に何か?何かあるんでしたら、質問して下さい」

 総司は、これからの管理官としての業務に一抹の不安と、軽い頭痛に襲われながらも言う。

「分かった、なら質問しよう。なんでお前階級が他の奴と違って、一等兵なんだ?」

「………多分俺が、自分からDトルーパーに仕官したからじゃないですか?」

 その言葉に、総司が驚きの声を上げる。

「マジかよ。物好きだなぁ、お前も」

「……………」

 

 京介は、自分の境遇も知らず、ベラベラと喋る、総司に対して強い嫌悪感と殺意を抱いた。

 

 

 

 しかし、それは次に総司が口にした言葉で完璧に、払拭された。

 

 

「………大事な者を亡くした奴は、お前だけじゃない。哀しむなとは言わねぇが、フっ切らない奴は、管理官権限を使って、出撃させないからな」 

 

 

 そう言う、総司の。自分を見る、詩織の、優の、レシェッカの、號の。

 皆のその双眸に、自らが携える、哀しみと同じ色彩を京介は感じた―――――。

 

 

 

 〈作戦領域に到達。総員下車〉


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