第一章「出逢い‐first contact‐」
ネヴァンが拠とする関東に代わり、遷都を受けた兵庫。その神戸の市街の中心、新議事堂を囲む様に設立される、最高裁や、警視庁や他省庁の建物の一角。
4月5日、新防衛省は例年通りに全国に、災害勧告を発布する。
十数年前突如として 地球上に現れた、破壊の為に生き、破壊の為に死す、ケルト神話の狂乱の名を冠する生命体「ネヴァン」。春先、日本中のネヴァンの一種である、セプテムと呼ばれる、異形、又は獣の姿を取る者達は、日本侵攻の戦「大破壊」の折、巣とした東京へと一斉に回帰する。理由は、深い鈍色をする球体……セプテムの卵。そこから生まれ来る子の育児の為。
回帰事、育児事のセプテムは、どの様な時と比べても、凶暴となる。しかし、その進路を阻害する事が無ければ、本能的に育児を優先とするセプテムが襲ってくる可能性は少ない。その為、この時期様々な方面、場所に展開している自衛隊の三分の一は、例外なくセプテムの予測される進路に入る街の防衛任務に着く。そして、残りの者達は、この隙を突き侵攻してくる、他の種類のネヴァン……漆黒の体に四肢を持つ人型「マズル」。巨大な蝙蝠と言うのが最も近い形容である「ルムド」。生命体としては疑いたくなる、金属感を体に表す、巨大な生体砲台「ソクラート」。
その姿通り、粗暴な行動をするセプテムに比べ、他の三種は計算された「軍団」で動いており、多少なりとも油断し、隙を見せれば、“そこ”を狡猾に狙い、破壊の限りを尽すだろう。
2020年 4月5日
事務的な部屋。
まず、第一印象に狭さと、低い天井が、圧迫感を与えて来る。また、その室内に、8の人間が居る事が、その事を更に強烈にしていた。
部屋の狭さを作り出す原因の一つを担う、両側にある鉄製の厳めしい本棚に挟まれ、二列に並ぶ三つのパイプ椅子と二つの折り畳み可能な、長いパイプの机。その椅子の前列、そして後列の左端には、二人の少年と二人の少女が。後列左から二番目、右端には自衛官が毅然たる態度で席に着いている。
そして、彼等の正面、この場所に似つかわしくない、最新の電子モニターを背に、精悍な顔立ちをする男が立って居る。男は、その厳つい顔に、沢山の傷を勲章と言わん許りに刻んでおり、その漂わせるオーラは、紛れも無い歴戦の「兵」が纏う雰囲気であった。
「本日、防衛省より、災害勧告が発布されたのは、諸君とも既知であろう。だが、それとは別に、ある一つの命令も同時に自衛隊に下った」
男は、一呼吸間を開け、口を開く。
「Operation Awaken Dominant……その名の元に、自衛隊は、我々の行動を一切黙認するそうだ」
「つまり…、それは何があったととしても、完全に秘匿される……と言う事ですね」
そう、前列の左端に座る少年……鷺沢京介が言う。
「うむ。自衛隊の高官や、官僚共は目に見える力と戦果にしか興味を示さない。…自分達に利があるものしかな」
「…彼等は、世界の破滅なんかは、目に入らないのでしょう……。目先の物欲のみに固執…いや、妄執して」
後列中央に座る、自衛官、小倉総司曹長がそう呟き、それに呼応し、隣りに座るもう一人の自衛官、新冠號軍曹が、無骨な表情と無言で頷く。
「…まぁ、暗澹とする政治機構に、今更文句を言っても始まらん。とにかく、今一番重要なのは、遂に我々にも、出撃許可がおりた事だ。我々は、以後“ラボ”を拠点に、対ネヴァンの独立遊撃隊となる。ここ、広島に展開する自衛隊のうちの一つ、私が統轄する第2312機巧中隊の微力な支援のみを元にな」
その言葉に、全員が息を飲んだ。
「そして、さっそく出撃要請が来ている」
「Dトルーパー、鷺沢京介一等兵、桜木詩織二等兵、生天目優二等兵、Rechecca=申道二等兵。及び支援戦闘要員、小倉総司曹長、新冠號軍曹。…総員出撃……!」