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序奏/atonemento for one's sin〜悲愴にて〜

 もしも希望が闇の中に眠っているなら 彷徨いながらそれを手に入れる勇気はあるか―――

 

 

 

 

 ……そこでは、空には黒煙が舞い、地には灼熱のほむらが燃え盛っている。

 

 人々は逃げ惑う。

 荒れ狂う炎から。崩壊する建物から。そして、魔の者達から。

 

 彼らがいつこの世に現れたのかは誰も知らない。

 彼らは人間を襲い始めた。

 彼らは、異形をしているかと思えば獣の姿をしているのもいる。

 獣の姿をしているかと思えば人の姿をしているのもいる。

 人の姿をしているかと思えば巨大な兵器の姿をしているものもいる。

 

 人は呼ぶ。彼らをケルト神話の「狂乱」の神の名で。

「ネヴァン」と……。

 

 

 

 2017年 9月7日

 

「う、うわわわああぁぁっっ!!。ネ、ネヴァンだぁッッ!!」

「逃げろーッ。急げぇッ!!」

「いやぁぁぁっ!!」

 

 

 それは、確か俺が15の時だったと思う。

 

 

 

 その日……ついに、俺の住む街にもネヴァンが現れた。

 現れたネヴァンは異形や獣の容姿をしている「セプテム」と、漆黒の身体と四肢を持つ「マズル」。

 奴らは、街のはずれにある山から侵攻してきて街にいる人たちを・・・・動くもの全てを攻撃しだした。俺は、奴らが街に侵攻してきたのを家の二階の自分の部屋からみて背筋がゾッとするのを感じた。

 そして、すぐさま妹が俺の部屋に入ってくる。

「に、兄さんアレ、ネヴァ・・・」

「馬鹿、静かにしろ!!!」

 俺は妹の口を手でふさぐ。

 そして、すぐさま妹の手を引き、天井にある取っ手を引いて天井裏への階段を降ろし、急いで上り階段をあ再びあげる。

 そして、その後は物音一つ立てずじっとしておく。

「・・・・・・兄さん・・・どうするの・・・・?」

 妹の問いかけに、俺は音をたてないように身振り手振りで『ちょっと、黙ってろ』と云う。

 それを見て妹は黙る、

 

 それは、とても長い時間だった。

 外からは、人の断末魔の声や爆発の音が幾度も聞こえ、そのたびに俺と妹は声を出しそうになるがその衝動を必死にこらえる。

 そして、ついに俺の家にも奴らが入り込んだのか、下のほうで様々な物の破壊音が聞こえる。

 さらに、奴らは階段をのぼり二回へと来ようとしていた。

 

 ギッ、ギッと一段一段階段を踏み鳴らす音が聞こえる。

 そして、奴らはとうとう二回へとたどり着く。

 部屋部屋を探索しているのか、すぐ真下からガサガサと音がする。

 隣にいる、妹の体が強張るのがわかる。

 

 

 ・・・・・・永遠にも、思える時間、奴らは部屋の中を探索していたが、ついに奴らは窓を突き破り外に出ていった。

 そして、しばらくした後、奴らの気配は消え去った。

 

 

 

 ・・・・・・街は酷い有様だった。

 家々は破壊され(そのなかで何軒かは燃え盛っていた)木々は薙ぎ倒され、全ての生き物は

 蹂躙じゅうりんされつくされ、殺されていた。

「うっ・・・く・・・、酷い・・・・」

 妹は当たりに散らばる死体を見て、嘔吐している。

 俺は・・・・空虚だった。無残に惨殺された知り合いを見ても顔色一つ変えずに、ただ・・・その光景を頭の中で否定していた。

 

「おぉーーい」

 そんな声が聞こえる。

 声のした方向を向くとそこには、対ネヴァン用の装備をした自衛隊の人が居た。

 

 

 ・・・・・そこに、・・・・一人・・・で。

 

 ――――――――――!?

 

 

 俺がそのことに気付いた瞬間妹はすでに駆け出していた。

 

 近づく妹。それを、見てそいつは笑った。人間ではできないほど顔を引きつらせて。

 

「――――――――っっ!!戻れッ!!そいつから離れろ!!」

「えっ?」

 

 刹那、そいつの身体から無数の触手が伸び・・・・・・・・・妹の背後に紅い華が咲いた。

 触手はグチャグチャと、妹の体を破壊する。

 

 

「あ・・・・にいさ・・・・・逃げ・・・・て・・・」

 

 

 そいつは、血に塗れた触手を下卑た笑みを浮かべながら深紅の舌で舐め採っている。

「あ、ああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッッッ」

 

 俺は呻く。

 そして、やつはその呻きに呼応するかのように、触手を一瞬で俺に伸ばしてくる。

 

 

 そして・・・・・俺は・・・・・・・。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ―――

 

 

 

 

 ゆさゆさ・・・・・ゆさゆさ・・・・

 ・・・・・誰かが、俺の体を揺さぶっている。

 俺は、重たいまぶたをそっとあける。

 すると、目の前に一人の少女の顔が現れる。

 日本人らしい清楚で緩やかな顔立ちをしており、前髪は少し目に掛かっている。俺の顔を覗き込むその蒼い瞳だけが、彼女の家系に外国人が居るのをあらわしている。

 

 

「ん・・・・・どうした・・・・詩織しおり

 俺は、眩い電灯の光が起きぬけの目に痛く、目を細めながら少女・・・・桜木詩織さくらぎしおりに言う。

 すると、詩織は服のポケットからメモ帳とペンを出し、流暢にペンをメモ帳上で動かす。

 書き終わると詩織はそれを俺に見せてくる。

『京介、うなされてた。すごく、うなされてた』

「そんなに、うなされていたか?」

 俺がそう言うと詩織は『うん』とメモ帳に書いて俺に見せる。

「そうか・・・・・そんなに、か・・・・・」

 

 ・・・・・・俺の中では、あの出来事は今も忘れられることなく、俺の精神こころを蝕んでいる。

 

 だから、俺は奴等を殺す。

 別に俺は人類がどうなろうと知ったこっちゃない。

 善良で無力な一般人を護るというのはあくまで建前。

 

 俺は・・・・・・奴らが滅びるまで戦う。

 

 

 それが、終わりなき戦いであっても、俺は死ぬまで戦う事をやめはしない。

 

 

 それが、生き残った俺の責務だから。

 

 それが・・・・・俺なりの贖罪しょくざいだから・・・・・・。

 


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