第9話 婚約
「本当にしゃべるなんて……」
驚きしかないわ。まさか、ウールドールがしゃべるなんて……どうなってるの?
「色々あってね……今度詳しく話すよ」
「ぜひ今教えて欲しい所なんだけど」
「あまり遅くなるとイティルラに悪いからね。ここに人が来ないようにって頼んでいたから。それと……」
こそっとディフェクトに耳打ちされる。
(チェリちゃんの事は秘密に、か。そうよね)
話をするウールドールなんて知られたらまずいものね。
「あの人たちはいいの?」
少し離れたところにいる護衛の人たちをちらりと見る。
「信頼できる者達だから、大丈夫」
「あの人たち偶におやつくれるのにゃ」
ぺろりとチェリちゃんが舌なめずりしている。
(おやつ、食べるんだ……)
何だか意外なような、そうでもないような。
一体何を食べてるのかしら?
「私ともこれから仲良くしてもらえるかしら」
おずおずと手を伸ばせば、チェリちゃんが私の手に乗ってくれる。
「もちろんだにゃ。というか女の子の方がやはりいいにゃあ、ディフェクトは扱いが雑でにゃ」
「そうなの?」
普段チェリちゃんはイティルラ様と共にいるのだけれど、今回ははっぱをかける為にディフェクト様についてきたらしい。
押しの弱いディフェクト様が心配になって、つい口出ししてしまったそうだ。
「エストレアもあまりネガティブになるんじゃにゃーよ。あんたは本当にいい子にゃだからね」
「ありがとう……凄く流暢にお話出来るのね、凄いわ」
こんなにもぺらぺらと話せるなんで、どんな勉強をしたのかしら。
「チェリちゃんはいつから話せるようになったの?」
「んー、ディフェクト達のところに来た時くらいかにゃ」
「なんで話せる事が出来るようになったの?」
「エストレア、それは後で詳しく話すからそろそろ戻ろう。時間だいぶ経ってしまったし」
「そうね」
謎は残るものの、ディフェクト様のうながしで会場に戻る事にした。
確かにあまり会場を離れすぎるのは良くないわね。私の誕生パーティーとして集まってくださっているのだから。
(私の部屋にいる子たちも、お話出来るのかしら)
部屋にいくつかウールドールはあるけれど、話をしたり動き出したなんて見たことはない。
他の人からもそういう話は聞かないし、なんでチェリちゃんだけそうなったのかしら?
(そう言えば、いつの間にか呼び捨てになっているわ)
いつの間にかディフェクト様の呼び方が変わってるのに気づく。意識してしまったからには顔は熱くなるし、汗もかくし。
(どうしよう、他の人にも気づかれたら……)
下を向き、頬を手で隠す。どうかバレませんように。
◇◇◇
「何とめでたい」
あの後私はディフェクト様と共に戻り、パーティー終わった後にお父様に報告をした。
チェリちゃんの事は一応伏せている。
(まだわからないことがあるけれど、後でイティルラ様と共に説明してくれると言っていたし)
とりあえず、ディフェクト様を信じて余計な事を言わないようにしよう。
「それにしてもあの幼かったエストレアが婚約なんな、本当に嬉しい……」
お父様が泣いているけれど、そこまでの事だろうか。
「ずっと気にしていたもの、少し泣かせてあげて」
お母様の言葉になるほどと思った。
きっとずっと前のあの事を気にしていたのだろう。
「もう、大丈夫よ。お父様……私は大丈夫」
「大丈夫です、これからは僕が守りますから」
私とディフェクト様は共にお父様と約束する。きっと大丈夫よ。
「ディフェクト様ありがとうございます、そう言ってもらえるだけでも心強いですわ」
お父様の前でも私を気遣う言葉を言ってくれて嬉しい、そんな思いだったのだけれど、ディフェクト様の表情がややいつもと違うような?
「むしろそいつが何かしてきたら潰すから安心して」
「?」
きっと冗談であろう、だって変わらず笑顔だし。冗談、ですよね?
「それにしても良かったわ、どうなるかと思っていましたもの」
イティルラ様が私の腕を取り、その身を寄せてくる。
「あの、イティルラ様、近いです」
良い匂いがふわりと香ってくる。女性同士とは言え、こんなにも美しい顔が近くに来ると照れくさいわ。
「あら、良いじゃないの。だってディフェクトと婚約という事はエストレア様とわたくしは義姉妹になる、つまり家族ですわ」
より強くイティルラ様に抱き着かれ、困惑してしまう。
「ずるい、イティルラ」
ディフェクト様はなんだか悔しそうだ。
「ふふん、あなたばかりにエストレアを渡せませんからね」
勝ち誇る表情のイティルラ様は、ちょっぴりいじわるな感じに見えてしまう。
「シルバーニュ伯爵様、今度王都に来た際には王城へとお越しください。この婚約についての書類を交わしましょう」
そうだ。家同士の繋がりでもあるから当主であるお父様の承認やサインが必要になるのだわ。
「ぜひよろしくお願いします」
「そう言えば私一人っ子なのですが、ディフェクト様がここに婿に来てくれるって事でしょうか?」
王族なのに、こんな特徴のない伯爵領でいいの?
「そうだよ、僕、一生懸命勉強して、シルバーニュ領を支えるから安心して」
「わたくしも、形は違えどエストレア様を助けるお手伝いをします。えぇ、必ず」
「よく国王陛下が許してくれたわね……」
思わずぽつりと呟いてしまう。
「まぁ容易ではなかったけれど、僕とイティルラで説得したからね、許してもらえたよ」
お父様もイティルラ様も頷いている。
「そこまでしていてくれたなんて……」
私の知らないところでみんな色々な事をしてくれていたようだ。
(私に出来ることは多くないけれど、出来る限りの事をしたい)
二人が私を支えてくれるというのなら、私もその期待に応えたい。
守られてばかりではいけないわ、私も頑張らないと。
「でもあと数日で王都に帰らなきゃいけないんだよね……婚約したばかりで離れるのは寂しいけれど、あと一年で学園に入学する。そうしたら一緒の寮で過ごせるだろうから、それまで待っていてね」
ディフェクトが悲しそうな顔をする。
「あと一年、私も勉強を頑張りますから。それまでどうかお二人共お元気で」
「そう言われると帰りたくありませんね。わたくしここに残ろうかしら」
「イティルラずるい、僕だって残りたいよ」
「それはちょっと……」
お父様とお母様が苦い顔になっている。
その数日後、二人と約束をして別れた。
手紙での交流が主なのは変わりないけれど、それでも気兼ねないやり取りでより親密に交流は深まっていく。
それとディフェクト様との婚約により、新たな夢が出来た。
「ディフェクト様の隣に立つにふさわしい女性にならないと」
学園に通うようになれば色々な人に会う。お見合いの時の男性にも。
その時にディフェクト様に恥をかかせるような事はしたくない。
「私一人の力ではどうしようも出来ないわ」
まず何からしたらいいのかを考え、イティルラ様に相談をする。どうしたら痩せられるかと、その体型を維持できるかと。
「まずは間食を減らす事、そして適度な運動でしょうか」
イティルラ様はそう言って、色々な方法を教えてくれた。運動や好きなものを我慢するというのは大変だけれど、以前よりもシュッとしてきた気がする。
それと共にディフェクト様とお父様にそれとなく頼んでくれたみたいで、二人から贈られるお菓子のプレゼントも極端に減った。
ここまでしてもらったんだもの、入学まで絶対に痩せてみせるわ!
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