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第3話

ルーアルテから呼び出しを受けたアイリスは、これから何を言われるのかと緊張に身を固めながら司令室のドアを叩いた。間を置かずに奥から「入れ」とルーアルテの声が聞こえてくる。


「失礼します!」


吃るのを抑えた自分を褒めてやりたい。

緊張を抑えようとするあまりややぎこちない動きになりながら司令室に入ると、ルーアルテに対して敬礼。そのままの姿勢で彼女の言葉を待った。


「先ず、これは叱責や機密の通達ではない。ただほんの少し……興味だな。アイリス・エレンバーク。『信頼級(トラスト)』パラティオン第三小隊隊長、兼、パラディオン開発プロジェクトメンバー。」


叱責や機密の通達でないと聞かされひとまず身の危険ではないと少しだけ肩の力が抜けるものの、司令室で総司令と2人きりという状況はちっともアイリスの緊張を緩めない。空で名前と肩書きを読み上げられ、この人はまさか『アーク』全住民のデータを覚えているのかとさえ錯覚した。


「君も見ての通り、科学者と魔術師の溝は深い。それこそ、先程のように私が手を入れてやらねばいつでもいがみ合っているようにな。しかし、君はそのどちらにも立たずどちらの理論も理解し、そしてあの場で最も正しくパラディオンという研究物を理解していた。私は兵士だからかとも考えたが、兵士はパラディオンを兵装として理解する。言うなれば君は……私が理解するパラディオン像と最も近いパラディオン像を理解している人物、となるわけだ。」


あのルーアルテに最も近い理解。随分と高く買われたものだ。アイリスはただでさえ固まった背筋が更に伸びるのを感じた。


「だからこそ分からない。君は科学者なのか?それとも魔術師なのか?生憎と我々が管理している住民の生体データにその人物のバックボーンは含まれていない。もし良ければ、君がなぜ、どのようにその視座を獲得するに至ったかを聞きたい。」


「わたしは科学者です。」


考えるより先に言葉が出ていた。「ほう?」とルーアルテが眉を上げたのが見える。


「わ、わたしは、父親が科学者でした。幼い頃は父の仕事を見ているのが好きで、形も大きさもバラバラのパーツが1つの道具に纏まっていく様子が手品みたいで面白かったんだと思います。それでボクもやってみたい、ってせがんで簡単なモーターを作らせてもらったりして。えっと、魔術も使えるんですけど……多分、人並み以上に。でも、ボクのルーツは科学技術にあります。……とは言っても、魔術を嫌う感覚も科学を嫌う感覚もボク……じゃなくて、わたしには分かりませんけどね。だからさっきも口論みたいにヒートアップしちゃって……」


己の過去から自己嫌悪に移りかけたアイリスを、ルーアルテは「結構」と片手を挙げることで制止した。


「成程。君も、科学と魔術のどちらも修める人間だったのか。そしてエンジニアの合理主義を受け、パラディオンの大まかに解明されている原理をその目で見ると両方を用いて動かすのが良いと映る。……成程。」


何か考えを纏めるようにルーアルテは机を数度指先で叩く。


「理解した。急に呼び出してすまなかった、アイリス君。もう下がって良い」


短く瞠目し、その思考回路がどのようなことを理解したのかはアイリスには分からないが……どうやら総司令の興味は満たされたらしい。

「失礼します」

と敬礼してからアイリスは司令室を後にした。

「アイリス・エレンバーク。15歳、後見人、無し。恐らく死んでいるな。それでいてあの思想と落ち着きようか。……ふむ。」

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