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第2話

『アーク』に帰投するなり、アイリスは工業区からの呼び出しを受けていた。

どうせまた科学者か魔術師が片方の技術でパラディオンを作ろうとしてコケたのだろう。なんだか頭痛がしてきた。

「すみません、司令部への報告は任せます」

と小隊の2人に頭を下げてからアイリスは工業区に繋がる道へと駆けて行った。


「外に出りゃパラディオン、中に居りゃ技術者か。あのちみっ子、いつ休んでんだ?」

「ちみっ子なんて言って、また撃たれても知らないからね。……まぁ、天才様には責任ってやつがあるんじゃない?私には分かんないけど」


2人はその背を見送ってから軍区画へ続く道に別れて行った。



当のアイリスはと言うと、工業区のパラディオン研究施設の一室で大の大人を相手に舌戦を繰り広げている。

「ですから、使用者にこんな微細な魔力操作を求めなくてもここは電気回路で回せば良いじゃないですか!わざわざ魔術で動かそうとするからこうやって無理ができるんですよ!」

「ハッ!それで本当に動くのなら良いのだが。生憎と私は魔術師だ、ゼンマイ仕掛けには疎くてね。」

「ゼンマイ仕掛けじゃありませんし、この原理、あなたに説明するのは4回目ですよ!この注意も3回目ですけど、わたしの講義をロクに聞いていませんね?……そこ!あなたもボク……わたしに何度も同じ説明させてるんですよ!」

「自分では扱えない技術を前提に設計を組めと?全く羨ましい才能だ、分からない者の気持ちを考えなくて良いのだから。」

「だ、か、ら!パラディオンは科学だけでも魔力だけでも動かない!!だから教え合いましょう手を取り合いましょうって総司令も仰ったんですよ!?それをあなたたちはいつまでも下らないプライドでグチグチネチネチ……!」


研究に関する議論からただの口論へとヒートアップしかけていたその時、一際存在感を放つ足音が廊下から響いた。

徐々に大きくなる音は遠ざかることなく扉の前で足を止め、やがて扉の奥から足音の主が現れる。


『軍』の制服を一分の隙もなく身に纏い、艶やかなブロンドの髪は腰まで届き、鋭いダークブルーの瞳はこちらの奥底まで見通すかのよう。

その姿を見て誰もが揃って敬礼を送った彼女こそ『アーク』の指導者にしてパラディオンの開発者、そして最強のパラディオン。

人類の希望、ルーアルテ・ハイドランジアその人だ。


「失礼、興味深い主張が聞こえてきたものでな。」


ルーアルテは研究室内を見渡すと、アイリスの姿に目を止める。


「先のパラディオンは科学だけでも魔術だけでも動かないと言ったのは、君か」


確信を持って投げ掛けられた問いにアイリスは緊張で上擦った声で「へゃっ、はい!」と返答する。

ルーアルテはガチガチに固まったアイリスの傍まで歩いてくると、その全身をじっと観察した。


「…………成程。」


誰にも聞こえないほどの小さな呟き。

それからルーアルテは再び室内へと視線を戻すと、『演説』を始める。


「諸君、確かに魔術と科学の溝は深い。魔術の門は素質ある者にのみ開かれ、科学の門は通る者を選ぶ狭き門。だが、私は諸君が相互に理解をすることを期待していた。なぜか?それは諸君らの能力を見込んで、だ。魔術の門に選ばれた諸君ならば、科学の門を潜るに十分な素質を備えているだろう。そして此処には私が選んだ最高の科学者、即ち最高の先達がいる。そして科学の門を潜った諸君らならば、魔術の門の輪郭からでもその構造の一端を掴むことが可能だろう、此処には私が選んだ最高の魔術師、即ち最高の手本がいる。茨の道とは百も承知。だが、だが!人類の存続には諸君らの団結が不可欠だ。どうか、諸君らが賢明で人類の未来を憂う者たちであることを、そして私の眼が節穴ではなかったことを祈る。」


ルーアルテが言葉を締め括ると、研究室内は先程までの険悪な空気はどこへやら、凄まじいほどの熱狂と団結に包まれた。


「うおおおおおおおおぉぉぉぉぉっ!!!!」

「ルーアルテ様!!ルーアルテ様!!!」

「おい、さっさと設計組み直すぞ!お前魔術師だろ?手伝え!」


(この人、ボクがどんなに言っても聞かなかった人たちをこんなあっという間に……)

アイリスもルーアルテのカリスマに当てられていたが、同時に異様とも言える研究室の様子に背筋を冷やしていた。そしてルーアルテから視線を向けられていることに気付くと慌てて自分も作業に取り掛かろうとし──────


「この後、司令室に来るように」


アイリスにだけ聞こえるようにそうルーアルテは言い残すと、そのまま研究室を後にした。

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