表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

9/10

新たな日常と、小さな異変



◆遠征帰還後のギルド ― “静かな変化”


 ユージンがソロ遠征を終えてから、三日が過ぎた。


 ギルドに入った瞬間──

 妙な視線を感じた。


(……また見られてる?)


 冒険者たちの一部がちらりとユージンを見て、ひそひそ声を交わす。


「あいつ、1人で遠征任務こなしたんだろ?」

「マジらしいぞ。しかも死傷者ゼロで戻ってきたって」


 ユージンは肩をすくめた。


(……いや、本当にただの地道な旅だっただけなんだけど)


 照れくささを抑えつつ受付に向かうと、ミラが笑顔で手を振る。


「ユージンさん! おはようございます!

 遠征の詳細報告、ギルド本部からも評価が来ていますよ!」


「まじで……? そんな大したことしてないけど」


「いえ! 丁寧さと安定度は高評価なんです。

 ソロで危険回避しながら旅を成功させるのは、特別なんですよ?」


(……そう言われると、ちょっと嬉しいな)


「今日はどうします? 軽い依頼にします?」


「うーん……索敵系のスキル、もっと鍛えたいんだよな」


「では、森の小型魔物の生態調査なんてどうです?」


 ユージンはうなずき、依頼票を受け取った。



◆森の調査依頼 ― スキルの“地味な進化”


 久しぶりの森は、湿った土の匂いに満ちていた。


(ここは……やっぱり落ち着くな)


 ユージンは歩きながら、

 索敵・気配察知の微調整を繰り返す。


 そして新スキルの練習も始めた。



●新スキル:“気配隠蔽ステルス・ヴェールLv1”


 忍足と組み合わせると、足音だけでなく存在感ごと薄くすることができる。

 まだレベル1なので、数秒しか持続しない。


(ふっ……っ)


 ユージンの影が薄れる。


(……よし、数秒だけど成功)


 地味だが、これがユージンの強みだ。


 丁寧に積み上げる。



●新スキル候補:“微弱魔力感知マナフィール


 解析のアナライズ・アイの副次効果として、

 魔物の放つわずかな魔力を感知できるようになってきていた。


(魔力……反応が……小さいのが二つ……)


 その瞬間、木の影から魔物が飛ぶ。


「シャアッ!!」


 森ネズミ型の魔物フォレスト・ラット二匹。


「数は分かってた……いく!」


 ユージンは棒を構え、

 忍足+気配察知で先手を取る。


 風を切った棒が一匹を叩き倒し、

 もう一匹は投擲で仕留めた。


(うん、動きが前よりスムーズになってる)


 習熟加速グロース・ブーストは相変わらず強力だ。



◆森の奥 ― “気配が消えている場所”


 生態調査のため、普段より奥へ。


 ユージンは違和感に気づいた。


(……この一帯だけ、魔物の気配が薄い?)


 まるで“何かが魔物たちを遠ざけている”ような空白地帯。


 ユージンは解析のアナライズ・アイを発動。


【環境情報:魔力濃度が局地的に乱れています】

【原因:外部要因の可能性】


(外部要因って……何だ?)


 木々が倒れ、草が焼けたように枯れている。


 まるで“何かがここを通った”とでも言うように。


 やがて小さな円形の跡を見つけた。


(……何だこれ? 地面が丸く抉れてる?)


 中心に残る微細な黒い粉。


 解析する。


【物質分析:魔道具残渣。属性:影】

【想定される存在:魔道具使い、または影属性魔法の使用者】


(影属性……?)


 この街ではあまり聞かない属性だ。


(調査報告に追加しよう。何かの痕跡かもしれない)


 ユージンはサンプルを丁寧に採取した。



◆ギルドでの報告 ― 受付嬢ミラの表情が変わる


 ギルドに戻る。


 受付でユージンは森の異変を細かく報告した。


「魔力が乱れてる区域……? それに、“影属性の痕跡”……?」


 ミラの顔から笑みが消える。


「ユージンさん……ちょっと奥で話せますか?」


 案内されたのは、

 ギルドの奥にある“相談室”。


 いつもの軽い雰囲気とは違った。


「その……影属性の痕跡……

 実はギルドでも調査している案件なんです」


「え? もしかして……危ない?」


「いえ、断定はできません。ただ──」


 ミラは手元の資料を出す。


「最近、エルド周辺で“影の魔力痕”がいくつも見つかっていて。

 本部から“注意報”が出ています。

 ユージンさんの発見は……正直、かなり重要です」


 ユージンの胸がざわつく。


(……小さい調査のつもりだったのに、そんな大事に?)


 だがミラは続けた。


「ギルドとしては、正式に調査班を編成する予定ですが……

 ユージンさんには“個別の依頼”をお願いしたいんです」


「俺に……?」


 ミラは頷く。


「あなたの索敵能力と丁寧な仕事は、

 本当に……信頼できますから」


 その言葉に、ユージンはほんの少し照れた。



◆依頼書に記された名前 ― “新たな人物”


 ミラが差し出した依頼書。


【依頼名:影痕調査のための補助活動】

【依頼主:ギルド魔道具技師 ブラム】

【内容:影性魔力による損壊物の回収および分析補助】

【必要ランク:F〜E】


「ブラム……?」


「はい。ギルドの古株魔道具師です。

 扱ってる研究が特殊で、依頼を出すのも珍しいんです」


「なんで俺を?」


「“誠実で、慎重で、観察が丁寧な冒険者をお願いしたい”と、

 指定があったんですよ」


「……俺の名前、そんなとこまで届いてたのか」


「ええ。隠れて頑張っても、ちゃんと見てる人は見てますよ」


 ミラの微笑みが、ほんのり暖かかった。



◆こうしてユージンは、“ギルドの裏側”へ足を踏み入れる


 依頼書を胸にしまいながら、ユージンは思う。


(影属性の痕跡……森の異変……

 何かが動いているのか?)


 冒険者としては、小さな一歩。

 だがギルド内部の視点に触れるのは、ユージンにとって大きな転機だった。


(……よし。せっかくだし、全力でやってみるか)


 夕焼けの中、ユージンは魔道具技師ブラムの部屋へ向かって歩き出した──。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ