新たな日常と、小さな異変
◆遠征帰還後のギルド ― “静かな変化”
ユージンがソロ遠征を終えてから、三日が過ぎた。
ギルドに入った瞬間──
妙な視線を感じた。
(……また見られてる?)
冒険者たちの一部がちらりとユージンを見て、ひそひそ声を交わす。
「あいつ、1人で遠征任務こなしたんだろ?」
「マジらしいぞ。しかも死傷者ゼロで戻ってきたって」
ユージンは肩をすくめた。
(……いや、本当にただの地道な旅だっただけなんだけど)
照れくささを抑えつつ受付に向かうと、ミラが笑顔で手を振る。
「ユージンさん! おはようございます!
遠征の詳細報告、ギルド本部からも評価が来ていますよ!」
「まじで……? そんな大したことしてないけど」
「いえ! 丁寧さと安定度は高評価なんです。
ソロで危険回避しながら旅を成功させるのは、特別なんですよ?」
(……そう言われると、ちょっと嬉しいな)
「今日はどうします? 軽い依頼にします?」
「うーん……索敵系のスキル、もっと鍛えたいんだよな」
「では、森の小型魔物の生態調査なんてどうです?」
ユージンはうなずき、依頼票を受け取った。
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◆森の調査依頼 ― スキルの“地味な進化”
久しぶりの森は、湿った土の匂いに満ちていた。
(ここは……やっぱり落ち着くな)
ユージンは歩きながら、
索敵・気配察知の微調整を繰り返す。
そして新スキルの練習も始めた。
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●新スキル:“気配隠蔽Lv1”
忍足と組み合わせると、足音だけでなく存在感ごと薄くすることができる。
まだレベル1なので、数秒しか持続しない。
(ふっ……っ)
ユージンの影が薄れる。
(……よし、数秒だけど成功)
地味だが、これがユージンの強みだ。
丁寧に積み上げる。
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●新スキル候補:“微弱魔力感知”
解析の目の副次効果として、
魔物の放つわずかな魔力を感知できるようになってきていた。
(魔力……反応が……小さいのが二つ……)
その瞬間、木の影から魔物が飛ぶ。
「シャアッ!!」
森ネズミ型の魔物二匹。
「数は分かってた……いく!」
ユージンは棒を構え、
忍足+気配察知で先手を取る。
風を切った棒が一匹を叩き倒し、
もう一匹は投擲で仕留めた。
(うん、動きが前よりスムーズになってる)
習熟加速は相変わらず強力だ。
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◆森の奥 ― “気配が消えている場所”
生態調査のため、普段より奥へ。
ユージンは違和感に気づいた。
(……この一帯だけ、魔物の気配が薄い?)
まるで“何かが魔物たちを遠ざけている”ような空白地帯。
ユージンは解析の目を発動。
【環境情報:魔力濃度が局地的に乱れています】
【原因:外部要因の可能性】
(外部要因って……何だ?)
木々が倒れ、草が焼けたように枯れている。
まるで“何かがここを通った”とでも言うように。
やがて小さな円形の跡を見つけた。
(……何だこれ? 地面が丸く抉れてる?)
中心に残る微細な黒い粉。
解析する。
【物質分析:魔道具残渣。属性:影】
【想定される存在:魔道具使い、または影属性魔法の使用者】
(影属性……?)
この街ではあまり聞かない属性だ。
(調査報告に追加しよう。何かの痕跡かもしれない)
ユージンはサンプルを丁寧に採取した。
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◆ギルドでの報告 ― 受付嬢ミラの表情が変わる
ギルドに戻る。
受付でユージンは森の異変を細かく報告した。
「魔力が乱れてる区域……? それに、“影属性の痕跡”……?」
ミラの顔から笑みが消える。
「ユージンさん……ちょっと奥で話せますか?」
案内されたのは、
ギルドの奥にある“相談室”。
いつもの軽い雰囲気とは違った。
「その……影属性の痕跡……
実はギルドでも調査している案件なんです」
「え? もしかして……危ない?」
「いえ、断定はできません。ただ──」
ミラは手元の資料を出す。
「最近、エルド周辺で“影の魔力痕”がいくつも見つかっていて。
本部から“注意報”が出ています。
ユージンさんの発見は……正直、かなり重要です」
ユージンの胸がざわつく。
(……小さい調査のつもりだったのに、そんな大事に?)
だがミラは続けた。
「ギルドとしては、正式に調査班を編成する予定ですが……
ユージンさんには“個別の依頼”をお願いしたいんです」
「俺に……?」
ミラは頷く。
「あなたの索敵能力と丁寧な仕事は、
本当に……信頼できますから」
その言葉に、ユージンはほんの少し照れた。
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◆依頼書に記された名前 ― “新たな人物”
ミラが差し出した依頼書。
【依頼名:影痕調査のための補助活動】
【依頼主:ギルド魔道具技師 ブラム】
【内容:影性魔力による損壊物の回収および分析補助】
【必要ランク:F〜E】
「ブラム……?」
「はい。ギルドの古株魔道具師です。
扱ってる研究が特殊で、依頼を出すのも珍しいんです」
「なんで俺を?」
「“誠実で、慎重で、観察が丁寧な冒険者をお願いしたい”と、
指定があったんですよ」
「……俺の名前、そんなとこまで届いてたのか」
「ええ。隠れて頑張っても、ちゃんと見てる人は見てますよ」
ミラの微笑みが、ほんのり暖かかった。
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◆こうしてユージンは、“ギルドの裏側”へ足を踏み入れる
依頼書を胸にしまいながら、ユージンは思う。
(影属性の痕跡……森の異変……
何かが動いているのか?)
冒険者としては、小さな一歩。
だがギルド内部の視点に触れるのは、ユージンにとって大きな転機だった。
(……よし。せっかくだし、全力でやってみるか)
夕焼けの中、ユージンは魔道具技師ブラムの部屋へ向かって歩き出した──。




