Fランク冒険者、初めての遠征へ
◆旅立ちの朝と、ティナの言葉
Fランク昇格から三日後。
ユージンは荷物を背負い、エルド村の東門に立っていた。
今日はついに――
“隣街ルベール”へ向けての初遠征だ。
「ユージン!」
朝焼けの中、ティナが走ってくる。
「ほんとはね、アタシも一緒に行きたかったけど……ギルドに別の依頼入っちゃってさ」
「大丈夫だよ。またすぐ戻ってくるから」
「絶対だよ?
ほら、アタシがいないと危なっかしいし!」
その言葉が、妙に心強い。
「……気をつけてね、ユージン」
「ティナも。無茶しないでね」
軽口を交わして、二人は手を軽く合わせた。
そしてユージンは東の街道へ向かう。
(よし……Fランクの最初の仕事、頑張ろう!)
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◆初遠征依頼「街道の護衛任務」
今回ユージンが受けたのは、
“荷馬車の護衛”という堅実かつ初心者向けの依頼だ。
荷主は織物商の初老の男性・モラン。
「若いのに、ひとりで護衛とは大したもんだな」
「任せてください。道中の警戒は得意なので!」
(索敵も気配隠蔽も上達してるし、今回は試験より落ち着いて動けそうだ)
道はおだやかで、しばらくは平和な旅路が続いた。
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◆地味スキル《軽歩》を獲得
護衛中、ユージンはあることに気づいた。
(……荷馬車の横について歩くと、足音が意外とうるさいな)
獣避けとしてはいいが、不意打ち対策には向かない。
そこでユージンは歩幅や重心の置き方を微調整していった。
(こうやって……つま先から静かに……)
数時間、微細な歩き方の調整を繰り返していると――
──《軽歩Lv1》を習得しました。
移動時の音を軽減し、疲労が軽くなる効果があります。
(おお、これは便利! 地味だけど、長時間の護衛任務にはもってこいだ)
ユージンは思わず小さくガッツポーズをしてしまった。
「おや? なんかいいことでも?」
「はい! 歩き方が上手くなりました!」
「……なんかよく分からんが、頼もしいのぉ」
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◆ルベール街道の異変
昼すぎ。
森沿いの街道へ入ったとき、ユージンの背筋に冷たいものが走った。
(なんだ……? 空気が変だ)
《索敵》を広げる。
しかし――妙に反応が弱い。
(……魔物がいない? この辺りって、ウルフ系がよく出るはずなのに)
静かすぎる。
不自然な“空白”。
だが次の瞬間、ユージンの《解析の目》が勝手に反応した。
【空間歪曲の残滓】
【誰かが意図的に、魔物の行動域をずらしている可能性あり】
(……魔物の行動範囲をずらす? そんな魔法、聞いたことない)
ただの護衛依頼のはずが、嫌な予感が膨らんでいく。
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◆荷馬車を狙う“盗賊の罠”
さらに進んだとき――
カラカラカラ……
荷馬車の前輪が妙に傾いた。
(……道路に穴だ!)
ユージンは跳ぶように前へ。
「止まってください!」
商人が慌てて手綱を引く。
ユージンは周囲の草むらに視線を走らせた。
(……踏み固めた跡、細いロープの痕。
これは……盗賊の罠だ!)
次の瞬間――
「動くなよ、旅人」
草むらから3人の男が飛び出してきた。
「荷を置いていきな。命までは取らねぇよ」
(くっ……やっぱり魔物の活動域をずらしたのは、盗賊の偽装だったか)
ユージンは棒を握り締めた。
だが、今は護衛任務中。
後ろには荷馬車の商人、逃げ場はない。
「……やるしかない!」
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◆盗賊戦! 地味スキルの真価
盗賊たちは短剣と棍棒で距離を詰めてくる。
ユージンは一気に心を静めた。
「《気配隠蔽》……《軽歩》!」
ふっと足音が消える。
盗賊たちの目が一瞬泳ぐ。
「なんだ、どこ行きやがった!?」
(よし……動きが鈍った!)
ユージンは草陰に身を滑らせ、
《棒術》で足元を狙って一撃。
「うぐっ!?」
盗賊が転倒する。
続けて《精神統一》で集中を保ちながら――
(次の位置……ここ!)
《索敵》が示す相手の足音へ踏み込み、棒を突き込む。
――ドッ!
「ぐああっ!」
そして最後の一人。
ユージンは深く息を吸ってから、
棒を手の甲に持ち替え、
盗賊の背後へ静かに回る。
軽歩の効果で足音はほぼゼロ。
「後ろ……!?」
「遅い!」
棒の峰で肩を叩き落とすように一撃。
「ぐっ……!」
3人が地面に倒れた。
ユージンは汗を拭いながら、
静かに息を整えた。
(……勝った。単独で3人相手に、正面から勝てた!)
胸の奥が熱くなる。
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◆商人の言葉と、新しい街の灯り
「助かったよ、本当に……!」
モラン商人が何度も頭を下げた。
「謝礼はギルドを通して増額しておこう。
君は優秀な冒険者だ!」
ユージンは照れつつも、心から嬉しかった。
(ティナだったら“ほらねー!やっぱユージンはすごいんだってば!”とか言いそうだな)
そんなことを思いながら歩き続けると――
遠くに大きな門と灯りが見えてきた。
「……あれが、ルベールの街」
エルドより大きく、人も多そうだ。
胸が高鳴る。




