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《廃水路の喰影(くらいかげ)》


王都廃水路・入口──湿った気配


 ギルドから十分ほど歩いた先に、王城下へ伸びる古い廃水路がある。

 苔むした石壁からは、水の滴る音が絶えず響き、薄暗さと冷気が足元を撫でた。


(スライムの巣なのに……なんか、変に静かだ)


 ユージンは棒を手に構えた。

 《解析のアナライズ・アイ》を発動すると、視界に淡い光が走る。


──【警告:魔物残留反応・密度増加】


(やっぱり……何かおかしい)


 慎重に中へ進む。

 足音が反響するのを嫌って、気づけばユージンは自然と呼吸を整え、体の重心を落として歩いていた。


 そのとき――


──《忍足しのびあし・Lv1を習得しました》


「え、今のが……?」


 どうやら“音を立てない歩き方”が身についたらしい。

 《習熟加速グロース・ブースト》の恩恵を感じ、ユージンは小さくガッツポーズをした。



◆異様な巣の跡──喰われたスライム


 廃水路の脇、壁の窪みに青く光る粘液が残っていた。

 ユージンが棒の先で触れると、《解析の目》が反応する。


──【種別:スライム残滓

 状態:吸収・捕食の痕】


(……スライム同士の共食い、やっぱり本当だ)


 さらに進むと、奥からぼたん、と重い音が響く。

 ユージンは身を低くし、様子をうかがった。


 そこには、通常の倍ほどのサイズに膨れた“紫色のスライム”がいた。

 周囲には小型スライムの残骸が散乱している。


──【対象:ヴァイオレット・スライム(進化種)

 危険度:中

 特性:魔力吸収・捕食強化】


(これ……初心者向けじゃない!)


 だが、逃げられない。

 依頼は果たしたいし、“何かがおかしい”原因を知りたい。


 ユージンは棒を握る手に力を込めた。



◆棒術と投擲の覚醒


戦闘開始──棒術の冴え


「まずは動きを――!」


 ユージンは低く踏み込み、棒術の基本であるなぎ払いを放つ。

 棒の軌道がきれいな円を描き、進化スライムの体を裂いた。


 しかし――


「うそ、粘り強っ!」


 紫スライムは形を崩すどころか、裂け目をすぐ閉じた。


(《魔力吸収》もちか……!普通の物理じゃ押し切れない)


 そのとき、壁際に転がる“小石”が目に入った。


(……投げてみるか?)


 先ほど覚えた《忍足》のように

“必要に応じて自然と覚える”のが今のユージンの流れだ。


 スッ、と手のひらに石を乗せ、集中する。


 投げた。


 空気を切る鋭い音が走り、石はスライムの核へ正確に吸い込まれた。


──ぐしゃっ!


 スライムが大きく跳ねる。

 《解析の目》が反応する。


──【急所命中:ダメージ増幅】


(よし……今の手応え、覚えておこう!)


 すると視界に文字が浮かぶ。


──《投擲とうてき・Lv1を習得しました》


「やっぱり来た!」


 ユージンは左手で石を、右手で棒を構える。

 進化スライムは怒りのように紫の光を放ち、巨大な触手を伸ばしてきた。



◆連携──棒と投擲、二つの武器


「もう一回!」


 ユージンは触手を棒で弾きながら、

 空いた隙へ石を投げる → 棒で叩く → 投げる

 と短い連撃を繋げた。


 《習熟加速》が働き、コツを掴む速度が異常に速い。


──《棒術・Lv2》

 《投擲・Lv2》


(上がってる……!)


 スライムが凶暴な波を立てて跳躍してきた。


「ここだッ!!」


 棒の突きを核へ一直線に叩き込み、

 さらに石を投げつけ、二重の攻撃で核を割った。


──ぱんっ!


 紫スライムは霧散し、静かな水たまりだけが残った。



◆廃水路の真実と、不穏な影


異様な魔核──進化の理由


 残された魔核を《解析の目》で調べる。


──【魔核情報:外部魔力の異常付着

 原因:不明

 危険性:低〜中】


(外部魔力……? 誰かが魔力を流し込んでた?)


 スライムの進化は自然現象ではない。

 “意図的に強化された”可能性が高い。


 ユージンの背筋に冷たいものが走る。



◆廃水路の奥から──揺れる水音


 そのとき――


 ぽちゃん……ぽちゃん……


 奥の暗闇から、不自然に規則的な水音が届いた。


(何かいる……)


 棒を握り、息を整え、《忍足》で気配を消しながら進む。


 そして、ユージンは見てしまった。


 暗がりの中、黒いローブを羽織った影が、

 まるで実験でもしているかのようにスライムへ魔力を注ぎ込んでいた。


「……あれが、原因……?」


 その瞬間――影がこちらを振り返る。


 目が合った。


赤い光だけが、闇に浮かんでいた。


「見られた、か……」


 低く、掠れた声。

 次の瞬間、影は煙のようにかき消えた。



◆帰還──新米冒険者の、最初の“秘密”


 ギルドへ戻ったユージンは、報告書を提出する。

 受付嬢リラはほっと息をついた。


「本当に……戻ってきたのね! よかった……!」


 ユージンは微笑みながらも、

 廃水路の奥で見た“あの影”のことは口に出さなかった。


(まだ言うには早い……。確証がないし……)


 だが胸の中にははっきりと残っていた。


スライムの進化は自然じゃない。

 誰かが意図してやっている。


 ユージンはギルドの喧騒を見回しながら、

 静かに決意を固める。


(もっと強くならなきゃ)


 棒術、投擲、忍足、そして二つの固有スキル。

 まだまだ強くなれる。


 その夜、ユージンは一度だけ空を仰ぎ、つぶやいた。


「よし──明日から、またコツコツ頑張るか!」

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