解析の目の少年、初めてのギルド
◆冒険者ギルド《黄昏の角灯》──雑踏と熱気の地
夕暮れ時のギルド《黄昏の角灯》は、今日も喧騒の渦だった。
戦利品の魔核がカウンターに叩きつけられる音、冒険者たちの怒鳴り笑い、酒場スペースから漂う獣肉の香ばしい匂い。
乱雑な雰囲気だが、それが“冒険者の巣”という空気を作っていた。
そんな中に、ユージンは緊張した面持ちで立っていた。
(……やっぱ、デカい。というか、怖い)
拳がじんと汗ばむ。
それでも胸の奥には、棒術の鍛錬で育てた芯のようなものがあった。
「……よし、いこう」
気を奮い立たせ、カウンターへ歩み寄る。
⸻
◆受付嬢リラ──揺れた視線
「初登録の方かしら?」
優しい声が耳に届く。
栗色の髪を一つ結びにした受付嬢・リラが、柔らかく微笑んでいた。
「……はい。ユージンです。ソロで冒険者登録をしたいんですが」
「ふふ、緊張してる顔ね。でも大丈夫よ。
うちは初心者にもちゃんと目を配るギルドだから」
励ましを含んだ声に、少し肩の力が抜けた。
リラは書類を準備しながら、何気なく尋ねた。
「それで……ユージンくんのスキルは?」
ユージンは深呼吸をひとつして答えた。
「《習熟加速》と、《解析の目》です。
あと、棒術を少し……いえ、けっこう練習してます」
途端、リラの手が止まった。
「……《解析の目》持ち? しかも習熟加速と両方?」
周囲の冒険者数名が、こちらに視線を向ける。
好奇、興味、そして“計算”の光が混じったような視線だった。
「珍しいわね。その組み合わせ……才能がある人ほど輝くタイプよ」
リラの声には、驚きよりも“期待”の色が濃かった。
⸻
◆掲示板の前──初依頼の影
登録を終え、依頼掲示板の前に立つと、そこは冒険者同士の熱気でむんむんしていた。
「雑用依頼か……。いや、まず素材集めだよな」
ユージンが手を伸ばそうとした瞬間、
「おい、初心者。ぶつかるぞ!」
「悪いな、坊主。スライム狩りぁ俺らの朝飯前だ」
大柄の冒険者たちに押され、ユージンは一歩下がる。
だが、目に留まった一枚があった。
《スライムコア収集・王都廃水路》
・危険度:低
・報酬:安定
・初心者推奨
(……これなら棒術の練習も活かせる。行ける)
そう思った瞬間、
「ちょっと、ユージンくん!」
受付嬢のリラが小走りで近づいてきた。
「その依頼……本気でソロで行くつもり?」
「はい。僕には《解析の目》もありますし。
……棒も扱えます。大丈夫です」
だがリラの顔には心配が浮かんでいた。
「最近、廃水路のスライムに異常が出てるの。
本来、同種を“喰う”なんてしないのに、スライム同士が共食いしてる……そんな痕跡があるのよ」
「……共食い?」
ユージンは息を呑む。
だが胸の内で、別の感情が動く。
(《解析の目》で見れば、原因を突き止められるかもしれない)
「行ってみます。……僕、一歩でも進みたいんです」
その言葉に、リラの瞳が静かに揺れた。
「……わかったわ。でも必ず戻ってきて。
《解析の目》持ちを失うのは、もう……嫌なの」
最後の言葉だけ、何かを含んでいた。
⸻
◆ギルドの視線──新星へのさざめき
「今の新人、スキルが二つだってよ」
「しかも《解析の目》? あの希少系か?」
「棒術も習ってるって話じゃねえか」
「へぇ……育てがいがありそうだ」
ざわざわと噂が広がる。
ユージンの背中に、無数の視線が向けられる。
だが今の彼は、押しつぶされるほど怯えていなかった。
胸の奥で、《習熟加速》がかすかに鼓動しているような感覚があった。
(やるしかない。やってみせる)
棒を握る右手が、わずかに強くなる。
ユージンはギルドの喧騒に背を向け、廃水路へ向かう道を歩き始めた。




