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挿絵(By みてみん)


(訊いてしまっても良いのだろうか…)

と内心で不安に思いながらレベッカは


「ドミニク殿下はクラリッサ嬢の事はどうお思いでいらっしゃるのですか?」

と常々疑問に思っていた問いを発してみた。


クラリッサが声に魔力を乗せて無自覚のままにエンチャントを使っているにしても、ドミニクのようなタイプの人間がそうした邪道の魅力に屈しているのだとしたら…


それは

「自分に懐いてくれた愛玩動物を愛しく感じる」

ような類の感情が不自然に増幅されているようなものだと思うのだ。


(…本当はどう思ってるんだろう?)


レベッカがドミニクの顔を覗き込むように首を傾げると、ドミニクはそうした可愛らしい仕草に胸を突かれたかのように目を見開いて自分の胸に手を当てた。


「…君には理解し難いかも知れないが『据え膳は美味しくいただく』という価値観も世の中には存在していて、私はその価値観に適応している。

後腐れなく楽しめる相手からの誘いに乗ったからと言って、これといって特に好意を持っている訳でもないよ」

とドミニクが随分と薄情な言い草をするのを聞きながら


(…こういう人が考えていそうな事ではあるんだけど、それだとクラリッサと一緒にいる時の愛しそうな表情の説明はつかないのよね…)

と思った。


「ですが殿下がクラリッサ嬢と一緒にいらっしゃる時には、殿下は心から幸せそうですよ?」

とレベッカが指摘すると


「…レベッカ。…私はクラリッサの魅力というものは正攻法のものでは無いと思っている。

それと同じ事をこの国の我らが正妃に対しても感じた事がある。

『何故、誰も面と向かって彼女に逆らえないのか?』と。

無自覚のエンチャントで気に入った相手を複数侍らせて満足する者もいれば、同じ力を使って自分自身の社会的裁量権と影響力を拡大・維持しようとする者もいるという事なのだろう。

私は本能的にその手の女性の思惑から外れる振る舞いをすれば無駄に怒りを買う事が分かっていたからね。

彼女に飽きて魅力を感じなくなった後でも彼女に惹かれ続けているフリをし続けているよ。自己保身の為に。

その点でエリアルは下手を打ったと思う。

彼は君の事が好き過ぎて自己保身の為に自分を偽る事ができなかった。

お陰で『狙った男から袖にされる』ような状況に慣れてないクラリッサはエリアルに腹を立て、ムキになっている。

クラリッサがグロリア達からの嫌がらせを君のせいだと思い込もうとするのは、グロリア達が君の仕業に見せかける工作をしてるせいもあるが、実際にはエリアルへの怒りと執着のせいなんだ。

男を寝取られた女からの嫌がらせなどクラリッサにとっては負け犬の遠吠え程度の意味しかない。

クラリッサからしてみれば彼女の魅力に屈しない男が大切にしている君という存在の方が本気で妬ましくて陥れたい相手なんだよ」

とドミニクが、クラリッサのヒロインらしからぬプライドの高さを暴露してくれた。


「…殿下から見て彼女は自分がエンチャントを使っている自覚はあると思いますか?」


「…それは微妙だと思う。魅了チャーム魅惑魔法エンチャントの概念を学院高等部で学ぶのは一学年の末だ。

彼女が教科書を配布された時点で全ての学科の教科書に一度目を通すような学習熱心な生徒ならチャームやエンチャントに関して書かれた記述を読んで自分がしてしまってる事を自覚している可能性は高いが…。

君から見てクラリッサは学習熱心な生徒に見えるか?」


「…いえ。見えませんね…」


「…だろう?…チャームやエンチャントはごく緩やかな作用のそれを不特定多数の消費者を対象にしたマーケティングで使う以外だと風紀紊乱罪に該当する。

だからこそ無自覚でそれを使っている人間に対してそれを指摘すると『私を陥れようとしている』だのと激昂されて逆に指摘者側が悪者に仕立て上げられる可能性が高い。

チャームやエンチャントはそれを取り締まる側でさえも公平でいられなくさせる術だからね。

高い人倫と自己客観性を持つ人間しか持つべきではない術でもあるのだが…

皮肉な事に、自己中心的で自己愛の強い低次元な人間にそうした力が宿るんだ」


「クラリッサが低次元な人間だという事に、ちゃんと気づいてたんですね…」


「…それは初めから気づいてたさ。だが『低次元な女だからこそ一緒にいて心地良い』という堕落した心理がある事にも気が付いた。

『好き=善、嫌い=悪』という不公平な価値観を正当化する生き方をしながら自信満々に他人を自分の空気に巻き込む女というのは情緒主義者にとっては『聖母』のように慕わしいものなのだろう。

低次元で幼稚で不公平な保護者から何をしても褒められて育った者達というのは、それこそ『聖母に愛される愛し子』か何かのように『依怙贔屓された事実を誇りナルシシズムの糧となす』生き物だ。

一方で、低次元で幼稚で不公平な保護者から何をしても貶められ責められて育った側は矜持と自己肯定感を常に壊されるが故に『罪人から依怙贔屓される罪』に敏感になる。

憎まれ疎まれた側の壊された矜持と自己肯定感こそが、ダブルスタンダードを通して甘やかされ正当化される側の者達に矜持をくすぐる依存性のある『餌』として与えられているんだ。

私はその事に気付いた時点で『この女と関わる事で悟れる事は既に悟った』と分かったから、私の中から彼女に対する関心も好意も綺麗さっぱり消えたよ。

…だがまぁ、こういった割り切りの良さは私に限ったものだとは思う。

ロードリックもグレッグもクラリッサの低次元さや、彼女が作り出す居心地良さの性質がダブルスタンダードを下敷きにした不公平なものだという事に、流石に気付いてる筈なのに、おそらく自発的には彼女から離れられない」


「殿下は彼女から心が離れてるのに、未だ心を残してるフリをなさってるのですね?」


「ああ、そうだ」


「それは今後も続けられるのですか?いつまで?」


魅了チャーム魅惑魔法エンチャントの概念を彼女が教育課程の中で学ぶまで待つ。

彼女がそれを学んでなお自分がエンチャントを行なっていると自覚できない程に愚かなら私が自ら彼女に指摘するだろうし。

彼女が自覚してもなおエンチャントを繰り返すようなら断罪する」


「…『断罪』ですか?…こう言っては何ですが…身体を重ね続けた相手に対して情が移っていたりはなさらないのですか?」


「…レベッカ。…性欲というものは一般的には好ましい相手との間に子孫を残したいという本能的な欲求から発しているものだが、それは誰にとっても当てはまるという訳じゃない。

私の中には低次元な人間達に対して報復したいという報復欲や殺戮欲が蓄積されている。

私にとっては低次元な女を抱いて快楽堕ちさせて誰にでも股を開く淫乱に調教してやる事は低次元な人間達への報復も兼ねているんだ。

自分の中の殺戮欲を性欲に変えて発散しているだけなのだから、どんなに深い仲になろうとも低次元な人間に対して情が移るという事はあり得ないんだよ」


そう言い切るドミニクに対してギョッとしながらレベッカは

「…殺戮欲…」

と呟いた。


「…王族だのと表面的には尊重しているフリをして、それでいて瑕疵のある王族に対しては精神的汚物を捨てる便槽か何かのように位置付けて踏み付けにし続けながら、そうしたネグレクトを行なっている事すら自覚しない。

そんな連中に対して男は殺戮欲を持つものなんだよ。

君は女性だからひたすら虚無感に囚われていただけかも知れないが、私は君と違って自分自身を虚無に囚わせたりはしない。

生かしておく値打ちの無い低次元な連中に対しては、ヤツらの存在自体を消し、ヤツらの意識も丸ごと虚無へと放り捨ててやりたいと思ってしまうんだ。

そうした欲求が社会的に許容されない事は分かりきっているから、頭が弱くて股の緩い女が身を捧げてくるようなら、それを捌け口にする。

彼女達がse×無しでいられなくなるように調教されて、自ら身持ちを崩して社会的に破滅していくのは、あくまでも彼女達が淫乱でどうしようもないバカだからさ。

私のような立場の私のような生い立ちの人間がフェミニストに育つ筈が無い、という事は少し考えれば誰にでも分かる筈なんだがな?

そんな当たり前の事にさえ気付かずに自分は優しくされる値打ちがあると自惚れきった女達が擦り寄ってくるのだから、笑える…」


「…殿下にとっては女性に優しくするのも女性に快楽を与えるのも、彼女達が益々愚かになって社会的に破滅する方向へ誘導するための餌なのですね?」


「…そうだとも言えるし、そうじゃないとも言える。…相手次第だよ。…私はレベッカに優しくしたいと思っているが、その気持ちに裏は無い。

公式に認められる事は決して無かろうとも君は私の従姉妹だし、何よりも私と同じ『瑕疵のある王族』だからね。

フローレンスと同じように妹のように思ってきたよ。…ただそうした気持ちはグロリアやクラリッサには勘違いされているだろうがね。

グロリアの方は曲がりなりにも私の婚約者なので王族の肖像画が飾られている王城内の一画にも入って来れるし、そのうち君にそっくりの叔母君の肖像画を見せて、社交界の噂話の中でさえ語られざる君の血のルーツについて仄めかしておくさ。

貴族の端くれなら二つの王国の王族の血を引く君に冤罪を捏造する工作を仕掛け続ける度胸を持ち続ける事はできないだろう」


「…ありがとうございます」


「…いや。礼を言われるような事じゃない。本当はもっとずっと前から君に対するグロリアの誤解を解いても良かったんだ。だがあえて放置した。

…君は意外に思うかも知れないが、君に首ったけなのはエリアルに限らない。アラン・チャニングも『レベッカと結婚できないのなら結婚になど意味はない』と両親に噛みついている。

私はアランにはフローレンスを娶ってもらって、隣国に忖度し過ぎているこの国の権力図を改善する新勢力になって欲しいと思ってるんだ。

それには侯爵家令嬢という君の立場は邪魔だと思った。

君が冤罪をなすりつけられるがままになって断罪されれば『身分剥奪』くらいの処罰には持ち込めるだろうし、そうなるとアランも君との婚姻が絶望的だと諦めもつくだろう。

アランが側室として君を望むなら、平民落させた君を捕獲しておいてアランに与えれば良いと内心で思っていた」


「…殿下は私を妹のように思ってきた、とおっしゃったように思いますが(私の耳がおかしいのか)」


「…政争を思い通りに進める為なら王侯貴族であれば有効な駒として妹だろうが娘だろうが利用するのは当たり前だと思うが?

…そうやって利用するのだとしても、そこに微塵も愛情がない訳じゃないのは分かるだろう?」


「…そうなんですね」


「…ともかく君は簡単に冤罪を捏造される女性では無かったし、アランには君の事を諦めてもらって、その上でフローレンスと婚約してもらえるように対策を切り替えていくつもりだ」


そう言われた事で

(…そうか。…グロリア達が自分達がしたクラリッサへの嫌がらせの犯人を私に見せ掛けようとする工作は「やめさせようと思えばいつでもやめさせる事ができた立場の人があえて放置することで容認していた」から、しつこかったのか…)

と気がついた。


それはウォルターがレベッカに対して延々と逆恨みと悪意を拗らせ続けた原因に

父親イーデンによる容認」

があったのと同じ。


他人に噛み付く犬を放置し

あえて気付かぬフリをして

犬を本気で叱る事もせず罰しもしない。


むしろ

「この子は愚かなのだから」

と庇い立てして

ネグレクトしたい標的へと潜在的にけしかけ続ける。


そんな陰湿な陥れとネグレクトを

ドミニクはレベッカに対して確信犯で行っていたのだ。


アランとフローレンスを結婚させ、この国の勢力図を変えるという目的のために…。


(他人の思惑なんて案外気がつかないものだな…)

と思いながらレベッカは深々と溜息をついた…。



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