81:ロドニー・デュー視点38
ビートンのダンジョンへと潜り出して気付いたのは
魔物の出現数が増えて冒険者の危険度が上がったのに対して
「魔石やドロップ品が安っぽい」
という点だった。
(…これじゃダンジョンの人気が衰えてビートンに滞在する冒険者数も減る筈だよな)
と思った。
国内のダンジョンの一番人気は言わずと知れたクレーバーン公爵領の最新ダンジョンだ。
ダンジョンは
「内部で冒険者が魔力を使ってくれる」
「内部で人が死んでくれる」
事で養分を得る一方で、魔石やドロップ品や宝箱にも養分を使用している。
ダンジョンにとっての養分をカネに擬えるなら、ダンジョンはカネを使って客を誘致し、客からカネを回収して成り立つ賭博場のようなものだ。
客への還元率が低く
搾取率の高い賭博場からは
客は遠ざかる。
そういった意味でビートンのダンジョンは客足の遠のいたインチキ賭博場のようなものだった。
分娩のために、通常よりも多くの養分を必要とする状況があり
「冒険者誘致のために工夫する必要性」
も生じていた。
そのお陰でダンジョン自身が意志を持つ状態となり
「スタンピードが起こる」
という噂で微妙に冒険者離れが続いた事もあり
「焦った」
のだろう。
手っ取り早く養分を得ようとして
「還元率が低く搾取率が高い」
状態を生み出し
そのせいで益々冒険者離れが進んだといった所なのだろう。
以前よりも露骨に冒険者の数が減っている…。
「…随分と魔石もドロップ品もチャチですね。ダンジョンは冒険者を誘致する作戦を放棄したんでしょうか?」
と俺が疑問に思った事をそのまま口にすると
「魔石やドロップ品を豪華にしようにも余力が無ければできないんじゃないのか?或いは備蓄養分が充分なので冒険者を誘致する必要が無いか、だろうな」
とデール・フレッカーが答えてくれた。
エセル・アボットもデールと同意見らしく
「余力が尽きてくれてる事を祈るよ」
と宣うた。
ドミニク王子は護衛官達の希望的観測をクスッと笑い
「最善を望みつつも最悪にも備える、のが我々の今回の使命だよ、諸君。
『最善を望む』ほうの役目は今エセルが果たしてくれた事でもあるし、これより後は最悪に備える事に集中するとしようか」
と気を引き締めてくれたので
皆が
「「「了解」」」
とハモって返事をした。
今回は魔物を倒す際の大振りのフリをして壁や床(地面)を傷付けるなどといった事はせずに
「無理しない範囲で潜れる所まで潜る」
のが目的だ。
魔物を倒す動きも洗練された武器の一振りで急所を攻めていくので体力が無駄に削られる事もない。
ドミニク王子も年々身体が出来上がってきているので、少々の事では息切れもせずにこなせる程に体力が付いている。
ドミニク王子は俺の知る人間の中でも桁違いに魔力が多い。
だがダンジョンでは攻撃魔法を使って魔力を空中に放出すればダンジョンへの養分提供になってしまう事もあり、魔力を身体に纏って身体強化したり武器や防具に魔力を纏わせて強度を強化する使い道になる。
なのでドミニク王子の地の体力が俺達と同等にまで鍛えられてしまうと魔力量の差で、ドミニク王子がダンジョン内で誰よりもタフになってしまいかねない。
そしてその兆候がこの所、時折見られる…。
この世界、ゲームのように経験値やらがステータスボードに表示される仕組みは無いものの
「強い魔物を多く倒した方が戦闘力が伸びる」
という原理はゲームと同じだ。
最小の動きで魔物の攻撃をかわして
最小の動きで魔物の息の根を止める。
そう意図するなら
突然大量の魔物が一斉に襲いかかってきた時には複数の魔物の動きを勘定に入れた効率の戦闘動作を瞬時に割り出さなければならない。
そうした戦闘センスがドミニク王子はズバ抜けているので、並んでダンジョンに潜ってもドミニク王子の討伐数が一番多くなる。
そのせいもあり戦闘力の伸びも凄まじい。
魔物を倒して得られる魔石も小さくドロップ品の出現頻度も低く、しかもドロップ品が安っぽい事もあり、魔石とドロップ品をキッチリ回収していっても、ダンジョンの備蓄養分をそこまで削れるとは思えないが…
それでもコツコツ削るのが俺達の役目。
それでいてスタンピードが起きてしまいダンジョンコアを破壊する必要が生じた時にはすぐさまダンジョンコアの元へ辿り着けるように攻略手順に慣れておく必要があるので、進める限りは進む。
そんな感じで進んでゆき、このダンジョンの最下層11階のボス部屋のラスボスを倒した後、ボスが死ぬと共に現れた魔石とドロップ品を回収すると共に発動する転移魔法でダンジョン入り口に転送された。
さすがにラスボスを倒した際のドロップ品だけは豪華だった。
何せ
「ラスボスを倒した際の魔石とドロップ品を回収せずにおく」
事こそが
「ダンジョンコアの元へ辿り着く通路が拓ける条件」
だというのが、この世界のダンジョン事情の定番。
「冒険者が必ず手を伸ばしてしまう豪華なドロップ品を用意しておかないとダンジョンコアのある隠し部屋への通路が現れる」
仕掛けとなっている。
なのでダンジョン自身に備蓄養分が充分に有ろうが無かろうが
「ラスボスが倒されて出現させる魔石とドロップ品だけはケチってはいけない」。
そこはさすがにこのケチなダンジョンもわきまえていたらしく、レアな魔道具になっている宝飾品がドロップしたので、それはすかさず回収した。
ダンジョンのラスボスは基本的に竜。
竜は光り物が好きで宝物を溜め込む習性があるので、ダンジョン外の山奥などに棲む竜も巣には財宝を溜め込んでいるというのが定説だ。
ブレス攻撃で致命的な攻撃を浴びせる他は魔法攻撃耐性・物理攻撃耐性が高くて人間側の攻撃が入りにくいといった点が竜という魔物の厄介な所。
だが騎士(騎士資格取得試験合格者)4〜5人で低位竜なら倒せるので、魔力持ちの貴族が大勢いて騎士になっているこの世界では竜は単体ならそこまで恐れられてはいない。
ここビートンのダンジョンのラスボスも低位竜。
フォレストドラゴン。
ダンジョンの規模が小さくて11階層までしかないので攻略の難易度も決して高くない。
平民の冒険者の中にも魔力持ちは居て、高ランク冒険者はほぼ全員が魔力持ち。
戦闘スタイルは我流だがBランク冒険者ともなると準騎士に、Aランク冒険者ともなると騎士に匹敵する戦闘力。
ここビートンのダンジョン攻略者記録を見れば、Aランク冒険者5人組以上の人数のパーティーがズラリと名を連ねている。
今回俺達は騎士三人+ドミニク王子の4人で倒したので、ドミニク王子の戦闘力は軽く騎士1人分を上回りそうだ…。
冬休み期間中、何度となくダンジョンに潜っては攻略してしまったので、ほぼ合計8回フォレストドラゴンを倒した。
8回倒して8回宝飾品型魔道具をドロップしたので4人で二つずつ山分け…。
身につけているだけで体力が回復する腕輪が二つ。
身につけているだけで魔力が回復する腕輪が二つ。
致命的な攻撃を3回まで身代わりに引き受けてくれるペンダントが一つ。
身につけているだけで状態異常耐性をもたらす指輪二つ。
身につけているだけで幸運値を引き上げる指輪一つ。
致命的な攻撃を3回まで身代わりに引き受けてくれるペンダントは当然、俺達の護衛対象であるドミニク王子に譲った。
ドミニク王子はもう一つを体力が回復する腕輪を選んだので、俺達は残りを分け合った。
俺は魔力が回復する腕輪と幸運値を引き上げる指輪を選んだ。
エセルは魔力回復の腕輪と状態異常耐性の指輪。
デールは体力回復の腕輪と状態異常耐性の指輪。
いずれも買えば相当ボラれる高級魔道具。
仕事のついでにゲットしたものなので壊れるのを極端に怖がる必要もなく普段使いで使えるのが嬉しいところ。
冬休みが終わる前に王都に戻る帰りの旅の間中も高級魔道具の効果をバッチリ実感した。
「運が悪かったか?一足遅れだったな…」
と思うような事態に遭遇してもーー
実は逆に運が良かったりするパターンでいい買い物ができたのだ。




