80:ロドニー・デュー視点37
「レベッカは魔道具研究部に入部して『魔法攻撃無効化魔道具』なるものを開発しようとしているらしいね。…ロドニーは彼女の真意をどう見る?」
とドミニク王子に急に話を振られて俺はギョッとした。
話の内容もだが…
(何故、俺に訊く?)
とツッコミを入れてやりたい…。
「…可能性としては、レベッカ嬢がクラリッサ・チャニングが学院にもたらしている影響力に対して精神干渉系魔物が行う精神干渉攻撃だと看破しているか、或いはそれを疑っていて、『魔法攻撃無効化魔道具』の稼働をもって事実確認を行おうとしてると。…そういう風にも見えます」
と答えながら
(…そう言えば知的財産権とかはどうなるんだろうか?)
という点が気になった。
「私にもそう見える。何せ高位貴族の令嬢にとっては魔法攻撃だけが地力の強い魔力持ち男性からの物理的暴力に対抗できる唯一の暴力だからね。
学院の魔道具研究部での開発内容は学院自体のパトロンである国王へ報告がなされるし知的財産権も開発者当人には残らない。
なので『魔法攻撃無効化魔道具』の開発内容が公けにされて万が一にも量産されてしまえば地力の非力な高位貴族の令嬢は男の物理的暴力の前に無力になってしまう。
部活で部費で開発費用が出る分、知的財産権が自分の側に残らなくても『開発した魔道具の普及と活用が自分の不利に働かない』なら、王家の金で好きに研究できるんだから割に合わなくもないが…。
彼女の立場で『魔法攻撃無効化魔道具』を開発しようというのなら、それは精神干渉攻撃に対する対策のように見える。
それと共に学院長へ『クラリッサ・チャニングは精神干渉術師だ』と仄めかす目的も含まれているのかも知れない。
学院側でも学院始まって以来の風紀の乱れに直面して原因を特定したい所だろうから、レベッカの研究は学院長にとっても渡りに船の筈だ」
ドミニク王子が私見を述べてくれた事で
(…あ、やっぱり知的財産権は当人には残らないのか…)
と分かった。
「…開発内容の取り扱いと知的財産権に関しては父上に掛け合って慎重に取り扱ってもらう事にしたいと思う。努努この国を食い物にする正妃派の目には触れさせないようにね」
ドミニク王子が目を細めて殺意にも似た決意を漲らせているのを見て
「…王太子のサディアス殿下はどうなんでしょう?正妃陛下と常に接している訳でもなく、ドミニク殿下やグレッグ殿下とも普通に兄弟として育ってきていらっしゃるように見えますが…」
と前々から感じていた疑問を口にすると
「サディアスは未だアイデンティティが定まっていない。彼が本当に王太子の座に相応しい人間ならば自分の母も母方の親族の思惑も退けて『ランドル王国にアイデンティティを置くランドル人の一人』であるべきだが、彼はランドル人になりきれていない。
誰の目から見ても売国奴の母親や祖父が大手を振って王城内で権力を振るっているのを目にしてきているんだ。
それを断罪して切り捨てる勇気は未だサディアスの中には無いよ。だが彼は聡い子だし優しい子でもあるのは間違いないからね。
ランドル王国の王家の血を引く自分がランドル人の一人として在る事の方が正しいのだと本当は分かっている筈だし、国民へも愛情を持っている。
今後、彼が売国奴の母親を取るか自国の国民の命と生活を取るかという選択で正しい道を選ぶのなら、私は自分の全てを懸けて彼に誠心誠意仕える心づもりでいる。
逆に彼が謝った決断をした場合には何が何でも王座を奪い取らねばならない敵になる。
…その決断の時は未だ来ていないけど、いつか必ず来てしまうと思っている」
と、ドミニク王子が澄み切った透明な瞳でそう言い切るので
(…この王子の前では何もかもお見通しなんだな。…何もかもお見通しで、肉親に対してすら試金石となる事態を降かけて相手の真価を図ろうとするのだな…)
と気が付いてしまった…。
肉親への情でさえも胸深くに潜めて
「敵にならないで欲しい」
と想う縋りつきたいような愛情でさえ
「弱味になるから」
と自分自身を騙して冷静に公平であろうとする。
(真に賢くてマトモな人間が「国を背負う」という事はこんなにも大変なんだな…)
と判ってしまった…。
****************
冬休みに入ればまたダンジョン巡り…。
男女間の機微に疎い俺でも流石に
(スタンピードを防ぐ目的で長期休暇の間はダンジョンに潜ってるってグロリア嬢に伝えておかないと、「クラリッサと遊び歩いているに違いない!」と思い込んで暴走しかねないんじゃないのか?)
という事は分かった。
俺の目から見てドミニク王子は
ある日を境にクラリッサに完全に飽きていた。
元より据え膳は美味しくいただく主義らしく
誘いを受ければ応じていた人ではあるが…
クラリッサが居ない場所でクラリッサのことを話題にする際のドミニク王子の目付きは初めから侮蔑に満ちていた。
それでも「興味」は確実にあった筈なのだ。
好奇心に勝てずに依存性薬物に手を出す若者のように
好奇心に勝てずに厄介な女に惹かれる少年のように…。
なのにクラリッサに対する「興味」がドミニク王子の中から突然消えた。
それが俺から見て何とも不可解だった。
それと同時にクラリッサの身辺を探らせていた者達へは
「内情を証言できる者が口封じされないよう私のダミー商会の傘下に引き入れて、さりげなく身辺警護に当たって欲しい。
勿論、今の職場に居られなくなるように細工して構わない。元々の待遇よりも良い条件で働けるようにしてやれば良いだけのことだからね」
と指示していたので何やら物騒な案件が持ち上がっているらしい。
クラリッサ・チャニング…。
学院入学目的自体が営業にある事もあって、コネ作りに余念がない。
クラリッサが男に媚びて、身体を使って有力者の後継ぎを次々籠絡しているのは
「当人が淫乱で男好きだから」
というだけでなく
「先々便宜を図ってもらおう」
という欲が丸見えだし、隠してもいない。
そんなクラリッサの行動の背後に何やらきな臭い事情があるのだとしたら…
それはそれで面倒な事だ。
思わずといった様子で侍従の一人が
「グロリア嬢には事情は話されずにおかれますか?」
とドミニク王子に尋ねると
「ああ。脅威を取り除くまでは下手に事情を知らせると薮を突いて蛇を出す危険をグロリアに招きかねないからね。
何も知らずにいた方がグロリアも無事でいられるだろう。
…とにかくグロリアが暴走せずに済むようグロリアの監視・兼護衛と、クラリッサが言い逃れできないボロを出す瞬間を掴めるようにクラリッサの監視・兼護衛を任せる」
との事だった。
(えっ?「ボロを出す瞬間を掴めるように」って一体何?クラリッサって、そんなにヤバいの?)
と思いつつ極力無表情を心掛けて背筋を伸ばした…。




