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挿絵(By みてみん)


エリザベスの意識は朦朧としているらしく…


医師の傍らにいた女がレベッカに向き直り

「ウォルター様の乳母のドリスと申します」

と挨拶してから


「奥様がまだお言葉を話してくださっていた時にお気になさってらっしゃった事をお伝えします」

と言い出したので


(…お義母様が私に何を言いたかったというの?)

とレベッカは面食らった。


そもそもウォルターのいきなりの暴力に関して

「彼に躾を施して来なかったのかと、執事を始め、この乳母という女にも問いただしたい」

ところだ。


その上、幾ら危篤とは言えー


これまでろくに顔も合わせて来なかった義理の娘を呼びつけて何を遺言したいと言うのか…

(嫌な予感しかしない。どうせろくな話じゃないんだろうな)

と思ってしまった…。


「本邸で伸び伸びとお育ちになったレベッカ様には日陰に押しやられていた奥様とウォルター坊っちゃまのお気持ちはお分かりになられないのかも知れませんが…。これ以上、奥様とウォルター坊っちゃまを苦しめる事だけはおやめ頂きたいのです」

とドリスが抜け抜けと宣うた事で


(…あ、やっぱりろくな話じゃなかった…)

と判ってしまった。


レベッカの目が遠くを見るような目になったのに気付いた医師が

「レベッカ様…。お怪我の具合は大丈夫でしょうか?」

と尋ねてくれたので


「お見苦しい所をお見せして申し訳ありません。実はズキズキと痛んで少し気が遠くなりかけております。

ドリスさんのお話を聞くどころじゃない体調なのです。

鼻の骨が折れているかも知れませんので外科医を呼んでいただきたい所です。

いきなり暴力を振るわれたショックもありまして気も動転しておりますし、立ちくらみもしますので別室で少し休ませていただきますわ」

と自分の状態を自己申告し、部屋を出るべくドアへ向かった。


「…お、奥様はもう、意識も、あるかないかの状態なのですよっ!!」

と詰るようにドリスが急に大声を上げてレベッカに掴みかかったので


さすがにレベッカも

「私の具合が悪くなったのはウォルターの責任です。私を責めるのはお門違いですよ」

と指摘してから魔力を使った身体強化術を行い、これ以上痛手を受けずに済むように身を護る事にした。


「…奥様だけでなく、ウォルター坊っちゃままで…あ、あんなにも追い詰めてっ!…に、人間の心が無いのですか?レベッカ様はっ!」

とドリスが挑発してきたが…


相手にするとダラダラと流れ続ける鼻血が余計に止まらなくなり貧血になる気がしたので


ハァァーッ

と大きな溜息をこれ見よがしに吐いて

ドリスの手を振り払って退室した。


鏡を見ても鼻が曲がっているという事は無かったのでひとまず安心した。


だが微妙に鼻の骨を押さえると骨が動く…。

歯も微妙にグラついていて切れた唇が腫れ上がっている…。


(しばらくは人前に出られないな…)

と思った。


エリアルのほうはウォルターを縛り上げ、執事に

「警備隊に連絡を入れて婦女暴行犯を引き取りに来るように言え」

と命じた後でレベッカの元へ顔を出した。


「すまない…」

とエリアルにいきなり謝られて


「どうしたの?」

とキョトンとすると


「君を護ってやれなかった」

と落ち込んだ表情をされた。


「仕方ないわよ。私だってウォルターがどんな子なのか全く知らなかったんだもの。

興味が無かったからでもあるけど…。この家の使用人はいちいち口が固くて、私が家族の事を訊いても誰も何も教えてなんかくれなかった。

…使用人はね。私が目的意識を持って命令するとちゃんと従ってくれるけど、迷ってたり頼ろうとしても誰一人助けてくれなかった。

『弱い所を見せてナメられたらいけないんだ』ってことは小さい頃から何故かよく判ってた。

寂しいと感じそうになった事もあったけど…そう思う事自体が多分、間違ってるのよ。貴族と使用人は対等じゃないんだもの。

貴族が使用人に甘えたり依存するようじゃ貴族って無駄に威張ってる無能なのねって事になるものね…。

11歳の時に宿泊研修を終えた後くらいから魔力を自分の部屋や自分の持ち物に纏わせるようにして『テリトリー』を作ってた。

不思議と私の魔力を宿してる物に囲まれた部屋では使用人達も私に対して無礼な態度を取る事も無かったから、私室はもちろん出入りする部屋の物にも片っ端から魔力を注いでたわ。

だから段々と居心地の良さを確保出来るようになってたから…少し油断してたのね。

自分の魔力が注がれた『テリトリー』以外の場所でネチネチと勝手に悪意が掻き立てられてた所に何の準備もなくノコノコ出向くなんて」


「…君は大人だよ。この屋敷の誰よりも大人で貴族だ。子供の頃から」


「…そうかも。…ありがとう。私を正当に評価してくれて」


「…正当に評価するのは当たり前の事であって、お礼を言われるような事じゃない筈なんだけどね…」


「当たり前が当たり前じゃない状況なんて社会には幾らでもあるから。それを知ってるから、ありがたいの」


不意に涙が溢れた…。


それを見てエリアルが

「あのクズ。やっぱり両腕を折ってやれば良かった!」

と呻いたのがレベッカにはこれまたありがたくて


「…本当にありがとう」

と俯いた…。



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