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研究発表会ーー。
魔道具研究部のような部も研究成果を発表するイベントだが
各クラスからも代表が選ばれて研究課題を決めて実行委員会へ提出し、内容が被らないように調整が入った後で課題通りの研究が進められ、その成果が発表される。
因みに研究課題は「何でも良い」。
オタクが自分の趣味を学院の用意してくれる予算を使って追求するのにモッテコイのイベントだ。
なので腐女子な趣味の女生徒達が「男性同士のア◯ルse×」を研究課題に選んでオカマバーで豪遊したり…そういうツワモノも過去には実際に存在した。
そういった「我が道を行く!(学院のカネを使って!)」姿勢の独自な(恥ずかしい)研究の発表は寛容に受け止められている。
そうーー
所詮は学生が楽しむためのイベント。
真面目に研究成果を発表するのはレベッカのような「無目的で居ると不安を感じる」奇特な令嬢のみである。
それでも外部から視察に来る来賓の大人達は真面目な研究成果を見に来るので無駄足を踏ませないためには誰か一人、大人達を満足させる発表をしておく必要があった。
クラリッサの取り巻き男子達がレベッカが発表する順番が回ってきた時に
「嘘をつくな!」
「魔法攻撃無効化魔道具だなんて誤魔化すな!」
「精神干渉魔道具で一斉に洗脳する気だろう!」
「こんな大勢を洗脳するなんて犯罪だ!」
と騒ぎ出してくれたので
「そのようにこの魔法攻撃無効化魔道具に不信感をお持ちなら、その場所から魔法攻撃でこの魔道具を破壊しようと試みてください」
と唆してやったところ…案の定魔法攻撃は不発。
その途端にーー
クラリッサのエンチャントも解けてキョトンとなってくれたので…
「我こそは!と思う方は魔法攻撃で魔法攻撃無効化魔道具を攻撃してみてください」
と会場全体にチャレンジャーを募ったら
魔力攻撃に自信のある面々が名乗りを上げてくれ
見事に、次々と失敗してくれた…。
「魔法は魔力の指向性波動で成り立つ物なので、魔力の指向性を散乱させる作用を魔道具で発生させれば魔法は不発に終わるか、或いは魔道具の有効範囲領域に入った時点で霧散します」
といった理論を説明すると来賓の大人達が満足そうに頷いていた。
その後は
「次にーーこちらが退魔結界魔道具です」
と退魔結界魔道具を紹介した。
退魔結界魔道具の開発も
スキルを使って結界を張る魔物のスキル作用の再現だ。
基本的にエキドナやハーピーやアラクネのような上半身が人間の女性型をしている魔物は成体は高ランク魔物でありかなり強いが幼生はかなり弱い。魔物の中でも最弱レベル。
なので子孫を途絶えさせぬよう成体は幼生の体に結界の印を刻んで餌と一緒に閉じ込める。
退魔結界なので結界内に瘴気をまとう魔物は入って来れない。
幼生が亜成体となる時に亜成体が体内で魔力と瘴気を生成するので結界は内から壊れ結界の印も消える。
と、まぁ。
そういった魔物の退魔結界スキルに関して説明した。
だがどんな素材をどんな風に使って、その作用を再現したのかに関しては
「企業秘密です」
と言ってさすがに無料での公表は控えた。
(学院長の許可も得て)
退魔結界魔道具が有効に稼働しているかどうかを見せるパフォーマンスとして学院長が従魔術師を三人招いてくれていた。
普段は従魔術師から離れようとしない従魔(人に慣れた魔物)が会場に入って来れない事で魔道具の有効性を証明しようとしてくれたが
「やらせじゃないのか?」
という疑いの声はしぶとく存在していた。
クラリッサのエンチャントは先程無効化して
新たにエンチャントにかかる暇は無かった筈なので
単に疑い深い人達が多いという事なのだろう。
(…製品に疑いを持つ人達は単に使わなければ良いだけの話だわ。売り物として押し付けてる訳でもない。私はお金を得る手段としては知的財産のような盗まれやすい水物には頼らず、もっと手堅く稼げる道を選びたい)
そう思いつつ
レベッカは疑い深い人達の批判を不快に思った。
(…「頑張った事の成果を発表する」って行為はいつも虚しいな。どんなに苦労があっても「消費者根性に根差した値踏み」で無駄に辛辣に叩こうとする人達が湧いてくるし、人の気も知らずに傷付けて萎えさせて潰そうとするんだから…)
(…それならいっそ発表などせずにコッソリ自分で実用して、自分だけ魔道具のアドバンテージで得できるようにしてた方が良いのかも…)
内心で
「魔道具研究部は退部して今後の魔道具開発は自室で自費でやろう」
「二度と人前で成果の発表なんてしない」
と決意しながら…
顔には作り笑顔を貼り付け
何とか体面を取り繕って自分の発表時間を終えた…。
****************
本来なら誰でも分かる筈の事だが
「権力というものは呪われている」
「不自由ない豊かな生活は呪われている」
ものだ。
労働というものの価値は詐術によって操られ
他人の労力を安く買い叩く詐欺師の罪は隠蔽される。
そうして権力というものは
罪の隠蔽と欺瞞とを積み重ねていく。
既得権益層・特権階級層の存在意義など本来なら
「有事の際の生贄、飢饉の際に開放させる備蓄庫」
程度のものでしかないというのに。
本来ならーー
「社会の複雑化が役割分担の分業で成り立つもの」
である以上
社会の複雑化による旨味を啜る者達は
「存在意義の達成」
という責務を背負う筈。
存在意義を達成せずに
ただ犠牲を弱者に強いただけの強者は
「ただ生きているだけで国に社会に厄災招き続ける作用」
を纏ってしまう。
それが「呪い」。
権力というものは文字通り呪われたものであるーー。
だからこそ人々は潜在的に
「自分達全体に降りかかっている呪いを何処か一箇所に擦りつけて集約させ、それを倒す事で罪の贖いの代わりとしよう」
とするスケープゴート正当化心理を抱える。
そんな中で人類は、非人類に対して
「お前達では我々人間に成り代わる事はできない」
という事を示す必要性がある。
しかし多くの人々が魂を欺瞞で曇らせてしまう。
欺瞞で曇った魂の人間達は
「下等動物でも成り代り可能な程度の霊性しか持てない」
ままになる。
だからこそ人類の絆には亀裂が走る。
国を滅ぼしかねない程にまで
人心分断が溢れた社会では
社会奉仕的でマトモな人間は胡散臭がられ攻撃される。
そんな不条理に満ちた国でーー
社会奉仕精神を持つマトモな貴族令嬢のレベッカが
「無目的で居ると不安になる」
「常に目的意識に従って行動しなければならない」
という強迫観念に囚われるのは、実は当然の反応なのだった…。




