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魔法攻撃無効化魔道具の小型化はパーツ自体の小型化である程度まで上手くいったものの
「形をどうするのか」
で相当に悩んだ。
一目で魔道具だと見破られるようなら
「言い掛かりを付けられた時に壊されるだろうから」
小型化して常態的に持ち歩けるようにする意味がない。
なので考えた末に
「色石型の御守り」
を装ったペンダントにする事にした。
昆虫型魔物の目は表面が硬質の膜に覆われているので半透明のドーム型の素材として流通している。
通常は同じ大きさのものを二つ合わせて球を作り、接合部に金具を取り付けて内部に物を入れる球形の小物入れとして利用される。
それをそのまま使うと半透明なので魔道具の内部構造は丸見えになってしまう。
なので内側からマーブル模様に色付けして半球状にして磨いた色石に見せかけるのだ。
石は御守りとしてポピュラーなのでアクセサリー化して持ち歩くのは不自然じゃないし、御守りである以上わざわざ他人に見せて回らずに服の中に隠し込んでいても良い。
市販の魔道具の中にも画期的なものがあれば購入後にバラして構造把握した後に、小型化して同じようにアクセサリー化する事が出来そうだ。
そう考えてレベッカは内心でほくそ笑んだ。
心配事の多い令嬢生活である。
心から安心しきる事などできない。
それでも
「保険代わり」
に出来る事を探して着実にミッションをコンプリートしていけば、そこに充足感は生まれる。
心理戦が得意な人達の場合だと
「保険代わり」のミッションは
「他人を誑かして言質を取る」ようなものになるので
その手の人達に充足感を与えたりほくそ笑ませてはいけないと思うものの…
レベッカとしては
(今は私はほくそ笑んでいい時だ)
と思った…。
そして早速、守り石に見せかけた魔道具に魔力を注いでみる。
魔力を注ぐと注いだ魔力量に見合った時間だけ
指向性のある魔力の働きを抑制する作用を引き起こす。
魔物の中にも魔力攻撃耐性を持つモノや、魔法攻撃無効化スキルを持つモノがいるので、魔物の体内のエネルギーの流れやエネルギーが具体化使用される変換の仕組みを推測する事が魔道具研究の肝である。
少し背筋がぞわぞわするような生温かい何かに包まれているかのような錯覚が起こる事で、魔道具の効果が場を満たしている事を実感。
魔道具に向けて風刃で攻撃しようとするが、風刃を創り出す魔力が指先から体外へ放出した途端に指向性を無くして霧散した。
(…小型化しても、ちゃんと作動してる)
そう確認してから紐の部分を首から掛け、本体部分は上着の内ポケットに入れた。
(今日からやっと無自覚なまま魔力を使った精神干渉波を使ってる人達のアドバンテージを削ってやれる)
と思い、しみじみ今までの自分が一方的に冤罪捏造され放題だった事を痛感する。
「…無自覚のまま魔力を使った精神干渉をしてた人達は、急に周りが自分の妄言に賛同しなくなれば、逆に周りが精神干渉されて自分に歯向かい出したと被害者意識を持つのかも知れないのよね…」
とレベッカは想定済みの心配事について考える。
(何故クラリッサが魔法攻撃無効化魔道具を開発した私に対して精神干渉魔道具を開発したと言って陥れようとしたのか…。ただバカなだけかと思ってたけど、もしかしたら違うのかも知れない…)
『レベッカの精神干渉魔道具を壊せ』
と周りにけしかけて魔法攻撃無効化魔道具を破壊させる目的で、防御系魔道具を攻撃系魔道具だとすり替えて認識させる嘘を確信犯でついたのなら…
クラリッサはそれなりにズル賢い。
だがクラリッサはセフレ感覚で王子達に弄ばれてるのにハーレム感覚でモテてると錯覚してるバカ女でもある。
「クラリッサ自体が誰かに操られてる?という可能性について心配しなきゃいけないのかも知れないわね…」
そう呟くと、途端にギシッとどこかで木材が軋む音がした。
気圧の変化で建築材として使われている古い木材は度々軋んだ音を立てる。
自然に鳴る時もあれば誰かが潜んでいる場合もある。
もちろん寮に越してきた初日に天井裏を確認して誰も入り込めない構造である事は確認済みだ。
それでも気にはなる。
「ラップ音」
と言われる心霊現象はインチキとしてお馴染みだが
「霊体が気圧の変化をもたらして古い木材の軋みを引き起こす」
という現象は実在する。
この場合は
「然り」
(クラリッサは操られている)
というメッセージなのだが…
さすがにレベッカはそれには気づかない。
それでも自分のやるべき事は理解できている。
クラリッサを始めとする
「魔力を使って周りに精神干渉し、己れを利するように操ってしまっている人達」
のアドバンテージを削いで
「本体なら対人関係はこうあるべき」
というフェアな環境へと作り替えるのだ…。
ーーそれにしてもおかしなものだ。
精神干渉という魔力を使った魔法攻撃がそこにあるのに
誰もそれに気づきもせずにいる場合
気付いてしまった者が
(フェアな環境を求めるならば)
「自分の魔力を使って魔法が無効化される公平な空間を創造する事に着手する」
事になる。
陰湿な冤罪捏造や諜報工作をしてる人達がいなければ
「自分の魔力を自分のためだけに使って好きに生きられる」
のに…
社会は外道な精神干渉で満ちているのだ。
だからフェアな環境を求める聡き者達は自分の魔力を
「魔法が無効化される公平な空間の創造に使う」
しかなくなってしまう。
「自分の魔力を自分のためだけに使って好きに生きる事ができない」
状態になってしまう。
それは
「罪人である自覚のない罪人達を止める」
という形で
「罪人達の尻拭いをしてる」
事になるのだが…
そうした社会貢献は感謝される事がない。
それどころか認識される事すらない。
だから普通は誰もやろうとしない…。
報われない社会貢献の為に自分の魔力を使えば、その分
自分の欲を満たすために魔力を使う事が出来なくなるのだから。
だけどーー
愛って何だろう?
贅沢って何だろう?
権益って何だろう?
裁量権って何だろう?
私は他人を操ってまで何か欲しいものが有るんだろうか?
そう考えた時にーー
「私が本当に渇望していたのは真実だけだった…」
と
「自分自身の空っぽさに気がついてしまう」
ような者もいる。
アンフェア空間では不条理が起こるので
不条理に押し潰され
心を殺され
絆を壊され
欲しいものが何かも分からなくなり
自分自身が虚無になってしまう。
だからこそ
「白を白に、黒を黒に、真実を真実たらしめなければならない」
と想う以外のどんな気持ちも起こらなくなる…。
人類の先人達の中には
そう想った人達がいたのだ。
知性が人間に宿る限り
そう想う人達がいるのだ。
人間が人間である限り
人間はフェアな空間を望む。
それだけをひたすらにーー。
そうしてフェアな空間を望んだ人達が
「フェアな空間を作る」
という社会貢献のために
自分の魔力を
自分の魂を
使ってくれた。
誰に褒められるでもなく
誰に感謝されるでもなく
人間が人間であり続けるのに必要な真実を望んだ。
だから人間社会は集合意識の聖域とも呼べる公平な空間を内包できる。
そこには知られざる貢献があった。
そこには認識されもしない貢献が確かにあった。
なのに余りにも人間の意識には格差がある。
意識の格差ゆえに
同じ国の同じ言語を話していても
何故か話が通じないという事も多々ある。
まるで並行世界に住んでいる者同士のよう。
意識の次元の異なる存在の言葉はすれ違い続ける…。
(…まぁ、ともかく私がやるのは放出系の魔力の指向性を散乱させて、社交の場を魔力攻撃無効化状態にするだけの事)
レベッカは自分が行う事が
「特定の人達のアドバンテージ奪ってしまう」
「特定の人達を激昂させる」
可能性を理解している。
ーー精神干渉が行えないフェアな空間を作り出すーー
たったそれだけの事に対して怒る人達は
精神干渉を悪用するアドバンテージに盲目的に依存している。
「本来なら精神干渉は使えないのが当たり前だ」
という状態になって
それに納得する人も出れば
それに納得しない人も出る。
そうした分岐点が起こる。
そうした分岐点には大きな意義がある。
無自覚のまま外道行為を行なう人達は
「それは外道行為だから止めるように」
と勧告される事で外道行為を止める可能性もある。
逆に
外道行為を続ける事を選択する可能性もある。
それは分岐点だ。
分岐点を迎えてもいない時点で盲目の罪人達を罰するのは適切ではない。
だから盲目の罪人達には分岐点を迎えさせるべきなのだ。
運命が次へ次へと流れていくのは
選択の連続とその選択の結果。
選択肢を与えるためにーー
運命の輪を回すためにーー
「罪人であり続ける事を選ぶ者達を炙り出す」ためにーー
人は皆、自分のなすべき事をなすだけ。
それはレベッカも同様なのだった…。




