65:ロドニー・デュー視点30
ドミニク王子の勧めに従って
最近の俺は特殊な魔力操作を訓練している。
名付けて「賽の目コントロール!」
表面的には
「サイコロの目を自在に操作しましょう」
という一種の手品だが…
ドミニク王子に言わせれば
「こうした魔力を使ったイレギュラーな物理操作は『現象遺伝子の再生産』をただひたすら繰り返しているだけの現象具現化因子を不意に騙して楽しませる聖なる詐術なんだよ」
という事らしい。
目的は現象具現化因子に無邪気な娯楽要素を紛れ込ませて
「楽しませる」
事にあるらしい。
つまり
「機械的に働いている現象具現化因子は退屈している」
だから
「楽しませるべく偶に無邪気な娯楽要素を加えてやらねばならない」
という不思議な世界観が根底にはある。
この世というものが「質量の伴うVR」だとするなら
ナノマシンが無線LAN(Wi-Fi)ルーター。
原子・分子が端末のような位置付け。
原子・分子は何処からか来る指令に従って定められた振る舞いをする。
それが俺達人間の目には「物理法則の安定」として映る。
「賽の目コントロール」の訓練は簡単。
自分の呼気に魔力を乗せて魔力を放出。
自分の居る場所を自分の魔力の乗った呼気で満たす。
その上で自分が行う所定の所作を
「(行う前に)強くイメージし続ける」
のだ。
所定の所作は
「臨・兵・闘・者・皆・陣・列・在・前」
と唱えながら手で九字印を結ぶようなイタイ厨二病チックな行動もありだ。
自分の魔力を乗せた呼気で満たした場の中で
所定の所作行っている場面を克明にイメージしながら
所定の所作を行う。
それを繰り返し続ける。
そうして繰り返された所定の所作が
「自分自身の場」
と深く結びつく事で
「現象具現化因子と同調する基礎」
が作られた事になる。
現象具現化因子に「意識」というものが有ると断定はできないものの、現象具現化因子に「意識」が有るとするなら、その「意識」は「スキーマ領域」(所謂、現象遺伝子領域)にあると考えられている。
スキーマとはこの世界では「展開図」という意味を持ち、予測錯視作用によってセットで具現化される一連のシナリオのようなもの。
そして予測錯視作用は
教科書の端に少しずつ形を変えたイラストを描いてゆき
パラパラ捲る事でイラストが動いているように見える誤認作用と同じ。
(パラパラ漫画・アニメーションを成り立たせる作用と同じ)
自分の魔力を乗せた呼気で満たした場の中で
いつも通りに
所定の所作を行っているイメージを描きながら
所定の所作を行い
現象具現化因子と同調してしまえるなら
現象再現領域を(現象遺伝子領域を)一部乗っ取る事ができる。
(自分のオーラの影響下の範囲で)
そうすれば
「特定の目が出たイメージを思い描きながらサイコロを振る」
と、怖いくらいに狙い通りの目が出るのだという。
「今では失われた魔法」
らしいので王立魔法学院高等部でも習わない魔法だ。
ドミニク王子は王城図書館の禁書コーナーで発掘した魔導書に従って、その魔法を復活させている。
(禁書コーナーには「この国が魔道王国だった頃の魔法技術・魔道具技術の名残りがある」との事で、ドミニク王子のお気に入りの場所だ)
サイコロの目や
カード遊びの切り札
運がモノを言うゲームでの現象操作は百発百中。
ーーだが
不思議な事にドミニク王子に訓練法を教えられて真面目に訓練しているグレッグ王子は一向にできるようにならない。
「魔法属性としては空間魔法属性に該当するから適性が関係するのかも知れないね」
と首を傾げ、その後ドミニク王子は護衛の俺やエセルにもやり方を詳しく教えてくれたのだった。
不思議な事にビートンのダンジョンにドミニク王子と一緒に潜ってダンジョン内の空間自体から
「死ね死ね死ね死ね死ね死ね」
という殺意を向けられた経験を経た
俺
エセル
デール
の三人は何回かに一回の割り合いで「賽の目コントロール」が成功する。
空間自体から悪意を向けられて全方位が敵だらけ、というダンジョン空間の本質を理解すると、人間、ダンジョン以外の場でも悪意に敏感になるものなのだろう。
俺もエセル達も悪夢にうなされる夜が増えた。
それに関しては
「それは潜在的に察知した他人からの悪意を潜在的解釈で夢に見ている」
というのがドミニク王子の解釈だ。
つまり悪意に囲い込まれ、悪意に気付いた経験が微妙に俺達に覚醒を促しているという事だ。
そうした事柄も踏まえて
「…やはり『空間』というものの作用を実感し『空間』に対する認識が実感を伴っている者のほうが空間魔法に適性ができるのだろう」
とドミニク王子は暫定的結論を出した。
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空気中の水分から水を生み出す「水生成」。
静電気の火花から火を生み出す「火生成」。
気圧変化から風を生み出す「風生成」。
空気中の塵から土を生み出す「土生成」。
そういった魔法は「形式化されている魔法」であり王立魔法学院の中等部で習うものだった。
王立魔法学院は魔力を有する者が通う学院なので
学生は理論上は全員魔法が使える筈なのだが…
魔力には質の違いがあるので
魔力の質が低い生徒は「水生成」をほんの一口分行っただけで
自分の全身の魔力を全て使い果たしてしまう。
日常的に使うのには、かなり無理があるのだ。
王家・公爵家・侯爵家・辺境伯家レベルの高位貴族だと
魔力の質が良い者も多いので
中等部で習う「水生成」「火生成」「風生成」「土生成」を行っても余力が残る。
「水刃」「風刃」「火球」「石弾」も出せる。
「窮した時の切り札」として利用可能。
(地中の鉱石を取り出す「鉱石生成」は多くの魔力を必要とするので高等部でザッと理論だけ習うものらしい)
学院で習う形式化された魔法も賽の目コントロールのようなイレギュラーな魔法も自在に使えて実用できる人間など俺の知る限りドミニク王子くらいなものだ。
むしろ騎士団で日常的に使われる「魔力を身に纏う身体強化」「魔力を武器や防具に纏わせた切れ味や強度の強化」の方が身近な魔力の使い方ではある。
そうした強化魔法でさえも魔力のない只人と比べるなら圧倒的なアドバンテージではある。
俺の魔力は伯爵家の庶子としてはかなり質が良いほうである。
なので身体や武器や防具に魔力を纏わせて強化する強化魔法も、他の者達よりも長時間行えるし強度も高い。
魔力の質が低い者達は強化強度も低くて強化時間も短いため物理的に肉体を鍛えて地力をつけて頑張っている。
俺が一見ヒョロいのに強いのには
「魔力の質というアドバンテージがあるが故」
なのだった。
不思議な事に魔力の質の高さは
「騙されにくさ」
と関連している節がある。
魔物の中には声に魔力を乗せて精神干渉してくるモノや
匂いに魔力を乗せて精神干渉してくるモノがある。
俺は他の者達よりも騙されにくい。
それに精神干渉系の魔物との遭遇経験がある。
だからこそ精神干渉系の魔物と遭遇した事のない御坊ちゃま達と違って、無自覚のまま魅了魔法を仕掛けてくる女に対しては
「気持ち悪い」
と感じる事ができたのだと思う…。




