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挿絵(By みてみん)


父親にごり押しされて

「婚前交渉を許すしかない状況」

に追い込まれたレベッカだったがーー


エリアルの対応のせいで

「現実に対して前々から感じていた違和感」

をとうとう無視できなくなってしまった。


閨教育は受けていて

「辛うじて童貞は卒業しているものの、全く慣れてない」

といった様子のエリアルの切羽詰まった有り様は演技してる風には見えなかった。

エリアルがガッツキ過ぎだったのも正直コワかった。


彼は全く余裕ある男を演じられていなかったのだ…。


レベッカからするなら…

散々な体験になったが…

お陰で思考はクリアーとなった。


(…前々から薄々感じてはいたけど…ここはゲームの世界のようでありながら私の知ってるゲームの世界じゃない。きっとアカオト世界が下敷きになったアカオトの並行世界のようなものなんだわ…)

と悟った。


エリアルの態度からしてーー

「まるで彼が心底からレベッカに恋してるかのように見える」

し…


それは多分、自惚れとかじゃない。


だとしたら

「ゲーム内の対人関係図とは全く違う心情で人物が動いてる」

と考える方が腑に落ちる。


そうなるとスタンピードや侵略が本当に起こるかどうかも怪しくなるが…


少なくとも悪役令嬢化した攻略対象者達の婚約者令嬢達はヒロインへ嫌がらせしながら、犯人をレベッカに見せかける工作をし続けている。


ただ…不自然ではある。


ゲームでは悪役令嬢達はほぼ全員がヒロインへ嫌がらせする。

それでいて、それらの嫌がらせの全責任が

「本命の攻略対象者の婚約者令嬢」

へと降りかかるのがアカオト世界の怖い所なのである。


悪役令嬢達が自分達の嫌がらせの犯人を執拗にレベッカになすりつけようとしている点からすると

「ヒロインの本命はエリアルなのかも知れない」

のに…


エリアルはレベッカと距離を置こうとするどころか距離を詰めてきて…

ついに自分から既成事実を作った。


今までだったら、少額の慰謝料を払うだけで簡単に婚約解消できたのに…

わざわざ婚約解消の難易度を自分から上げたのだ。


(ゲームとは根本的に何かが違う…)

と思わざるを得ない。


「…何が起こってるんだろう…」

と、つい疑問を口に出してしまったところ


息を整えて落ち着きを取り戻したエリアルが

耳聡くレベッカの言葉を聞きつけ

レベッカの頬にチュッと口付けた。


それから

「…深く考えると嫌になると思うよ。…他人の勝手な嫉妬羨望っていうのは相手がそれに基づいて何か仕掛けてくる場合には把握しておくべきなんだろうけどね。

他人のいやらしさにトラウマになって小康状態の時にまで身構え続けなきゃならなくなると本気で人間が嫌いになる」

と言って何かを思い出したように溜息を吐いた。


他人の勝手な嫉妬羨望ーー。


確かにレベッカもエリアルも

そういった不条理なドロドロした感情を向けられやすい。


「…私が戸惑う現実の中には、『貴方が本当に私に対して好意を持ってるように見えてしまう』っていう点も含まれてるのだけど?」

レベッカがエリアルの顔を凝視して言うと


「…正直『婚約者を愛せるように努力しましょう』と押し付けられるまでもなく、『俺は初めから君の事が好きだった』んだ。

…君の側からすれば『努力が必要』な事だろうから、君が俺の態度に対して理解が及ばないのは仕方ないと思っている…」

とエリアルが渋い表情で告白した。


「…『好きだった』って、今言うんですね…」


「…君が理解できるかどうか分からないけど。…紳士的な男は自分の事を好きじゃないと分かってる女性に迫る時に告白したりしない。

告白の返事次第では優しくしてやれなくなるのが分りきりってるからね。

相手を傷つけずに済むようにする為には、先ず自分が傷つかずに済むように、本心を出さずにおかなきゃならない。

だから好かれてない男は自分の権利を行使するだけってフリをして厚顔無恥に婚約者や妻を抱くんだよ」


「…それって男性一般の心理?」


「…いや、紳士一般の心理だろうな。…紳士じゃないゲスは『好かれてない』と実感して腹を立てた状態で乱暴に事に及ぶ訳だが、当人の中ではそうした狼藉が『情熱的』という解釈で美化されるのさ」


「…エリアル様は『自分を情熱的だと勘違いしたゲス』になりたくないから、今まで『好きだ』って言えなかったって事?」


「…そうだよ。…今は『好かれてなかろうとも、別れる事にリスクが加わったから簡単に逃げられる心配はない』と安心できて、やっと自分の気持ちを思う様口にできるんだ。

…大事な事だからこれからも何度でも言うけど、俺は君が好きなんだ。ずっと好きだったんだ…」


エリアルが

(逃がさない)

と言うかのようにギュッとレベッカを抱きしめたので…


やっとレベッカの方でもこれまでのエリアルの態度が腑に落ちた…。


互いに婚約者としての義務を果たしているだけのように淡白に見せかけていたのは、好意を表してしまって拒絶された場合に優しくできなくなるから…。

優しくありたいと思うから…。

自分の事を好いてくれない相手に対して好意を出来るだけ表現しない。


言われてみれば

そんな気遣いがいつも満ちていた。


それなのにレベッカは何も気付かずにいた…。


モテない女ーー喪女ーーというのは

モテなくて当たり前なのだと今分かった…。


自分が傷付かずに済むように自己保身ばかり優先して…

「恋愛物語」を楽しむのですら

「高みの見物」で楽しむ。


自分自身では

「好きな相手から好かれてない」

という恋愛につきものの不条理を体験してみる気がないのだ。


だから自分とは関係ない

「キャラクターの恋愛物語」

にのめり込んで


現実の人間関係に対して感じる感情を希薄化させていた…。


そう気が付いた。


それと共に

エリアルの優しさが身に染みた…。

自分の至らなさにも恥ずかしくなった…。


「愛せる努力」なんてーー

本当は優しくて素敵な人を相手には全く必要がないのだ。


単に気が付けば良いだけ。


相手の深慮な優しさに。

自分の観点の自己中心性に。


ただ気付きさえすればーー

努力なんて必要なく好きになってしまう…。


そう気が付いた…。



ーーだが


ゲームの中のエリアルは明らかにレベッカを好きじゃなかった。

性欲の捌け口にしていたクセに

「好きだ」

と口にした事もなかった。


「優しくありたいから好意が拒絶される状況自体を避けようとして、好意を表さない」

という態度と


「必要以上に纏わりつかれたくないから好意を拒絶してしまう状況自体を避けようとして、好意を表さない」

という態度は


客観的に見てソックリなのだ。


似て非なるものを区別する識別力がない。

だから好意と嫌悪を取り違えてしまう…。


周囲に他人が居ると特に互いの対面や感情の安定を優先し

凡ゆる態度や言葉が儀礼的になってしまう。


それなら二人きりでいる時に見せる態度こそが

常に本心を表しているのかと言えば…


それも恐らくは違う。


ジグゾーパズルのピースを当てはめてパズルを完成させるように

他人の視線や言葉や態度の中にある「本当の心」を読み取って

それが実際の現象との間に齟齬が無いかを確かめる。


そんな作業によって

「大切に想ってくれてる」

と互いに理解して信頼を積み立てるから…

夫婦に

家族に

本当に愛する相手に

なっていく…。


そんな簡単な事をずっと知らずにいた…。


ずっと人生を損してた…。


(…でも、今はやっと気が付いたし…。これからはエリアルが居てくれる…。だからずっと人生を損してた事に関しても他人を恨まずに済む。…過去の寂しさは「今」を大切にしたいというモチベーションになれるんだから…)


「…私の婚約者になってくれたのが貴方で本当に良かったと思う…」

とレベッカが自分の気持ちを告げると


エリアルは一瞬目を見開いた後で唇を噛んでから、ゆっくりと頷いた。

不覚にも涙が出そうになったのだ…。



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