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挿絵(By みてみん)


エリアルはレベッカの顔を直視できなかった。


それは

「クラリッサ・チャニングとラブラブになっているから…」

などといった不義理な理由からではなく


単に

「自分の婚約者の美しさにウットリして間抜け面を晒すのが怖かった」

からである。


思えばーー


エリアル・ベニントンは父親から一方的に押し付けられたレベッカとの婚約を初めから喜んでいた。


その頃にはすでにエリアルはレベッカに対して

「キレイだ…(好みだ)」

と思っていたのだ。


単純に容姿が好みだった事もあるが…


騎士団見習い志願者用研修会、二週間野営コースの参加で

レベッカと面識を持っていた事も彼女への好意に一役買っていた。


レベッカはその野営宿泊会に参加した事で

「男好き」

と陰口を叩かれているのだが…


レベッカが自覚しているよりもずっと

一緒に野営宿泊会に参加した少年達はレベッカを気にかけていた。


戦闘訓練班の少年達がレベッカが近くにいる時に

ことさら自分の武勇伝を大袈裟に語っていたのも

紅一点のレベッカの気を引きたかったからだ。


野営宿泊会が終わって自宅に帰った少年達が

家族にやたらとレベッカの事を話し続け


「…すっぱいな…。初恋だな…」

と生温かい目で見られるようになった事が


「男好き」

と影でレベッカが罵られている現状と関連している。


モテる人間は事務所に守られるアイドルさながらに

「守られつつ安全な所から綺麗事を囁き人々に夢を見せる」

ような神秘のヴェールを纏った存在でいなければならない。


そうしないと確実にねたそねみで袋叩きに遭うのが必定。


レベッカはクラリッサが話し声や歌声に魔力を乗せて精神干渉していると見抜いているが…

自分が美味しい料理を作ってしまうのにも魔力による干渉が介在している事を失念している。


クラリッサは

「自分が皆の人気者になってチヤホヤされてる」

イメージを思い浮かべながら声を出し、周囲を自分のイメージの世界に引き摺り込む精神干渉を引き起こしているのに対して…


レベッカは

「自分がかつて食べた事のある美味しいもののイメージ」

を思い浮かべながら調理し

「食べる側の人間にも美味しさが感じられるように」

精神干渉を引き起こしてしまっている。


対人関係で自分を利するために行う精神干渉と

自分が感じた喜びを他人にも感じさせるために行う精神干渉は

モチベーションの部分が大きく異なる。


だからこそレベッカの料理を食べ彼女に恋心を抱いた者は

潜在的にそうした違いに違和感を感じてしまう。


クラリッサに対し気になる点を感じ

「要観察だな」

と思うものの、恋心を感じる事はない。


エリアルはレベッカからも周囲の者達からも

「クラリッサの事ばかり見てる」

と思われていて


「クラリッサに惹かれているのだろう」

と見做されている事に気付いていない。


レベッカが他の人にも自分に対しても素っ気なくて

ずっと好意を打ち明ける機会が無かった。


レベッカからも周りからも

「親が決めた婚約に対して内心不服なのだろう」

と誤解されていても、時が来ればレベッカは自分の花嫁になる。


それに安心しきって好かれる努力を怠ってきている。


(ベッキー…今日も綺麗だ…誰よりも麗しい…)

と、内心の呟きでレベッカを勝手に愛称で呼ぶくらいレベッカを

「脳内彼女」として位置付けているのに…


表面的には気まずそうに顔を背ける態度になってしまう。


エリアルは本命の前でだけ挙動不審になり本命にだけモテない男だった。


どうでも良い相手からモテて付き纏われてしまうので

余計にレベッカにはエリアルの想いは伝わらないのだという…。



*****************



グラインディー侯爵イーデン・ルースが夜会に集まった客達にお礼と挨拶をしてからレベッカとエリアルを紹介してソツなく夜会を進行していった。


レベッカはイーデンにも

「魔法攻撃無効化魔道具を見せびらかしてコンクウェスト侯爵派を牽制するつもりでいる」

という旨を伝えているので、夜会に集まったルース家の親族達もこぞって

「レベッカ嬢が」

「独りで」

「自作した」

のだと強調しつつ褒めそやして回った。


夜会に集まった人達にもちゃんと

「レベッカが製作した魔法攻撃無効化魔道具の試作品はレベッカ独りで作ったものだ」

と印象付けられた筈だ。


こうやって自分の手柄を

「自分のものだ」

といち早く公表しておかないと


バートランドとの合作のように見做されて、ふと気付けば

「手伝いをした助手」

のようなポジションに貶められてしまう可能性もあるのだから世の中は世知辛い。


「まだ満足のいく出来じゃなかったんだろう?なのにもう発表して良かったのかい?」

とエリアルが不思議がるので


「私の手柄をブロデリック先生の手柄に仕立てあげようとする人達が動き出す前に釘を刺しておきたかったの」

とレベッカは正直に話した。


「…それは知的財産権とか開発者の名誉が掠め取られる心配をしなきゃならないくらいにブロデリック先生が実は狡い人だってことかな?」


エリアルは面くらいながらも

(…ブロデリック先生とは放課後いつも一緒にいたみたいだから、実は少し心配してたんだけど。…もっと別の方面で心配を共有してやるべきだったのかも知れないな)

と気がついた。


それとともに

(…ベッキーはハンサムな講師と何時間一緒に過ごしても恋愛的関心に振り回されず、実利的損得勘定を優先して考える事ができる落ち着いた子なんだな…)

と安心した。


「先生自身がズル賢いかどうかは分からないけど…。先生の居る陣営の権力基盤はそれなりにしたたかなんじゃない?」


「…何かされたのか?」


「…何かされたと言えるほど直接的な動きはまだ無いと思うけど。…それでも先生の婚約者令嬢から露骨な偏見を向けられて侮辱された、とは言えるかな?」


「…?どうしてそこで先生の婚約者が出てくるんだい?」


「…私も不思議なんだけど。先生の婚約者令嬢は私が先生を誑かしたと思い込んでたみたいで…。わざわざ呼び出されて『男好き』呼ばわりされたわ」


「…そりゃまた。…何故彼女はそんな妄想を?」


「それは人間という生き物が自分の見たいものだけ見て聞きたいものだけ聞く生き物だからなんじゃない?

仲良しさんから聞かせられる噂話や偏見を鵜呑みにして辻褄の合わない現実認識をしてしまう人達は被害者ぶる妄想が大好きでしょう?」


「イケメンの婚約者が他の女に盗られるっていう被害妄想?…それって楽しいの?」


「楽しいとか楽しくないとかじゃなくて『怠惰な自己保身』の形の一つなんじゃないかな?」


「婚約者が盗られたかも知れないと妄想するのが『怠惰な自己保身』に該当する訳?」


「ううん。婚約者が盗られたかも知れないと被害者意識に浸ることが『怠惰な自己保身』なの。

自分にとって不利益になる状況が進んでいるかも知れないと予想したなら、それに見合った対策を取るのが自己保身の健全な形でしょう?

婚約が破棄される可能性があるなら婚前交渉は受け入れない、というのも対策の一つだし、男の稼ぎに頼らずに食べていけるように手に職つけたり需要のある仕事に就けるように知識や技能を身に付けるのも対策の一つ。

被害妄想に耽って勝手に恋敵認定した赤の他人にいちいち偏見丸出しの態度で失礼な対応をするのは、有効な対策も取らずに怠惰なまま自分を守ろうとしてるように見えるわ」


「…そうなのかな?…俺はもしも君を誰かに盗られるかも知れないと思ったら、先生の婚約者令嬢さんと似たような事をしでかしてしまうと思うよ。

それは『怠惰』というよりも『切り替えができてない』状況だろうね。

平穏な日々が続く日常から、平穏が脅かされる非日常へと変化してるのに、日常時の感性や感情のままで過ごそうとする往生際の悪さなんだよ。

魔物を前にして『殺らなきゃ殺られる』状況に陥ってるのに、まるで近所の人に出会って挨拶したのに返事が無いと怒ってるような、そんな感じ。

日常の穏やかさに依存してればしてるほど、それ以外の環境に適応するのが難しくなるんだ。依存なんてしなければ良いんだろうけどね」


「…つまり特定の環境に依存してるから環境が変わる事態に対応もできないし対応する気もないから、とりあえず被害者ぶって他人を侮辱して鬱憤晴らししとこうって方向に流れるってこと?」


「まぁそんな感じだね」


「…でもそれって私が浮気した時には環境変化に適応できないって話でしょ?貴方自身が浮気して起こる環境変化には普通に適応してしまえるのよね?」


「…どうかな?俺は関心の幅が狭いみたいだし、君以外の子とどうこうなりたいと思う事がないから、俺が浮気して起こる環境変化云々の例えについてはちょっと考えられないんだよね」


そう告げるエリアルは

(自分の好意を上手く言葉にできた!)

と自分自身を褒めてやりたいと思っているのに…


(…嘘つき!)

とレベッカは内心でムッとした。


「………」


ーーそれでも


返事をしないレベッカの顔を覗き込みながら

「…クラスも違うし、同じ学院に通っててもあまり話す事も無いけど。…その分、一緒に社交の場に出る時には側に居てくれないか?」

とエリアルが不安そうに尋ねるので


ついついレベッカの方でもほだされて

「…ええ。貴方が本心からそう望むのなら、喜んで」

と答えてしまったのだった…。



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