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この世界はゲームのシナリオや世界観設定が下敷きになって居るとは言え、やはりゲームそのままではない。
ゲーム内ではアラン・チャニングは故人であり
クラリッサ・チャニングはクレーバーン公爵バーナード・レイ・ブラックフォード・チャニングの「ただ一人の子供」だった。
なので
「貴族のマナーが身につくまでクレーバーン公爵家令嬢を名乗る事は許さん」
と釘を刺されていても…
結局は半端なマナーしか身についてない状態で
「クレーバーン公爵家令嬢として社交界デビュー」
していた。
だがこの世界では
「貴族のマナーが身につこうが身につくまいがクレーバーン公爵家令嬢と名乗る事は許さん」
と通告されているようだ。
(アラン情報)
アランは今では料理の腕がプロ並みに上がっていて尚且つ刺繍も得意。
女子力高めの友人となっている。
シナリオ強制力が働いて死なれれば悲しい。
友人の少ないレベッカにとって無事に生き延びて欲しい人物である。
一方、クラリッサが学院に入学してきたのは
「学院在学中にコネを作って歌姫として活動する時の支援者を多数確保しておく」
という目的らしい。
(アランを亡き者にして公爵家の後継になろうという野心は無さそうだと思いたい)
ゲームでは攻略対象者達はメジャールートの攻略対象とマイナールートの攻略対象に分かれていたが…
その格差は
「ランドル王国の既存権力図を塗り替える大きな影響を与えるか否か」
といった点にある。
クラリッサが
「今をときめくクレーバーン公爵家の(認知された)令嬢だった」
ゲーム内では
「王子達や高位貴族との婚姻は既存権力を揺るがす新興勢力の誕生」
に繋がるのだ。
だがアランが生きているこの世界ではーー
既存権力を揺るがす新興勢力を生み出す可能性のある婚姻といえば
むしろ
「アランが誰と結婚するか」
という問題の方が該当する。
アランがレベッカに自己申告した内容によるとーー
クレーバーン公爵はアランの婚約者には「自国の王女を」と望んでいる。
クレーバーン公爵夫人はアランの婚約者には「隣国の王女を」と望んでいる。
ランドル王国の王女は側妃の生んだ王女しかいない。
クレーバーン公爵は今現在の
「王妃と隣国と隣国ルーツの王妃の血族が蔓延ってる既存権力」
に対して
「このまま増長させ続けてはいけないもの」
と見做している。
クレーバーン公爵夫人は
「長いものに巻かれろ」
精神で王妃と隣国に媚びる流れに乗った方が無難だと考えている。
アラン本人に言わせれば
「…結婚には元々夢も希望も持って無かったけど、今では考えるだけで辟易する」
ものらしい。
領内でダンジョンが発生してボロ儲けして潤っていて、なおかつ家格も公爵家。
結婚相手次第でこの国の権力図に大きな影響を与えてしまうのだ。
レベッカとしては
「公爵の言うようにアランは側妃の生んだ王女と結婚して隣国系の権力の増長に歯止めをかける要素の一つになった方が良い」
と思っている。
学年が上だし部活も異なるため
レベッカとアランが学院内で顔を合わせる機会は少ない。
アランに料理を教えに公爵邸の厨房へ通っていた頃とは違う…。
(攻略対象者達だけでなく多くのモブキャラもクラリッサの虜になってるみたいだけどアランは大丈夫なのかな?)
とレベッカも心配はしている。
兄妹なので結婚はできないが
「シスコン・溺愛」
のキーワードが浮かびそうになって思わずムカつく…。
レベッカ自身も自分の心理を訝しくは思う。
(なんで婚約者のエリアルがクラリッサに惹かれても何とも思わないのに、アランがクラリッサに好意を持つと思うとムカつくんだろ?)
と内省してみた結果。
「ゲームキャラがゲーム通りの感情を体験するのは仕方ない」
と思ってしまってる事を自覚した。
エリアルはゲームキャラ。
だけどアランはゲームキャラから逸脱した存在。
ゲームキャラじゃないアランには
「ヒロインを溺愛して王国滅亡を招くバカ男達」
と同じような低次元には堕ちて欲しくない。
そう思ってしまってる自分自身を発見してしまった…。
(…そうか。…私はゲームキャラ達をどこか愛玩動物レベルの生き物みたいに見下してるからゲームキャラ達に対して同じ土俵に立たずに公平で寛容な見方を出来るんだな)
と気がついた。
恋愛脳に堕ちて、物の道理を悟る事にすら困難を極める下等動物レベルにまで堕ちる攻略対象者達。
そのくせ社会的立場は同等か上位。
そんなダメダメなゲームキャラ達に対して
何の期待もせず
甘える事もせず
依存する事もしない。
なのにアランにはどこかで期待をかけてる。
ゲームでは既に故人となっていてーー
どんな愚かさも
どんな悲しみも
何も体験せずに
何も知らずに死んでた人だけど…
だからこそ染まらないで欲しいと願ってしまう。
俗世に溢れる無駄な錯覚と無駄な虚構心理には染まって欲しくない…。
***************
学院長が魔道具研究部の新顧問に抜擢したのはーー
バートランド・ブロデリック。
この学院の講師でマイナールートの攻略対象者の一人だった。
コンクウェスト侯爵家の令息ではあるが、庶子なので侯爵夫人とその実家の親戚達の目の黒いうちは跡継ぎにはなれない。
だが頭脳明晰という事は認知されていて研究者として
「我が道をいく」
姿勢を貫けるご身分。
バートランド・ブロデリックの婚約者はドローレス・ラングリッジ。
ウエストブルック子爵家令嬢。
因みにグレッグ王子の護衛である近衛騎士のダスティン・フェアフィールドはエルギン伯爵家令息。
これまた後継ではない。
ダスティン・フェアフィールドの婚約者はレイラ・ノーランド。
シーモア男爵家令嬢。
マイナールートの攻略対象者達との恋愛結婚は
「権力に影響を与えない」
ので気楽ではある。
レベッカから見て
研究バカのバートランドも
脳筋のダスティンも
魅力的とは言い難いキャラだったので…
殆ど注目していなかった。
よく知らないのだ。
レベッカが知る
「マイナールートに入る条件」
はネットで語られていたもの。
そういった情報によるとーー
マイナールートの攻略対象者というのは
「ヒロインがメジャールートの攻略対象者と上手くいっていて好感度が高い時には殆ど登場しない」
「ヒロインがメジャールートの攻略対象者との間の好感度をなかなか上げる事ができない状況の中でやっと登場してくる」
キャラらしい。
なのでマイナールートで攻略を進める場合には
「メジャールートの攻略対象者達に対してあえて厳しい指摘をして好感度を下げる」
必要がある。
恋愛という
「好意の返報性がしばしば無視される現象」
の本質はダブルスタンダード。
ダブルスタンダードな価値観の持ち主というのは
法の適用でさえもダブルスタンダードに行ってしまう。
ヒロインのようなキャラは存在自体が「お騒がせキャラ」。
隠された滅亡要因があれば、それが具体化してしまう。
「お騒がせキャラ」は自己愛が強い。
「他人の婚約者を誑かして略奪する事に罪悪感を持たないから」
自分の魅力を躊躇いも遠慮もなく振りまく事が出来るのだ。
それが
(ゲームや小説などのフィクションではなく)
実際に起きてしまえば
「国が滅ぶレベルの社会指針の堕落」
と直結している…。
非リア充の喪女が
「現実逃避のフィクション」
として
「モテモテ体験の快感」
を楽しむのは
「あくまでも現実逃避コンテンツだと割り切っておくべき」
である。
現実で
「国が滅ぶレベルの社会指針の堕落」
と引き換えに
「モテモテ体験の快感を味わおう」
と望むほどの自己中心主義者が
社会人口のどの程度の比率を占めているのかは謎だが…
レベッカはそんな自己中心主義者にはなりきれない人間だった…。




