48:ロドニー・デュー視点25
俺のフルネームはロドニー・バルフォア・デュー・グレイという。
だが…
「グレイ」
というファミリーネームは
「庶子である立場に引け目を感じている事を父の正妻やその実家や異母兄達に示すために」
自分から名乗る事はほぼない。
セカンドネームも普段名乗らない事もあり
冒険者登録はバルフォア・ジョーンズという名で行っている。
デューは母の姓であり、ジョーンズは母方の祖母の実家の姓だ。
ビートンのダンジョンに冒険者のフリをして潜った時にも
ドミニク王子からの勧めに従ってカツラを付けていたため
「ロドニー・デューとバルフォア・ジョーンズは別人だ」
と言い張る事は可能だと思う。
「いつか自分ではない別人として市井にまぎれて生きる日が来るのかも知れない…」
と思う事に全く恐怖はない。
騎士として戦闘訓練を積んだ日々は
冒険者というフリーランスの戦闘職に転向しても
無駄にはならない筈だと信じられるからだ。
ドミニク王子もロビンという旅芸人一座のナイフ投げ少年キャラの方では…
「冒険者登録して冒険者になった」
という肩書きに変更済みなので、いつか二人でパーティーを組んで本物の冒険者になって身を立てる日が来てもおかしくはない。
ドミニク王子がこの国の王子ではなくなってしまう事態は
この国にとって大きな損失だとは思うが…
それでも
「二人で冒険者になりきって暮らす」
のは楽しいかも知れないと思う。
冒険者という戦闘職は魔物や盗賊などといった
「人間にとって悪だと丸分かりの標的」
を屠る仕事なので敵を殺す事に良心の呵責を感じる事もなく
善悪判断を深く考える必要もない。
魔物や盗賊がいる事で困る無辜の市民達が
「排除理由を提供してくれる後ろ盾」
なので逆恨みを恐れる必要もない。
だが権力闘争・政争・アングラ侵略の攻防に関しては…
無辜の市民達が後ろ盾となって特定権力の排除理由を提供してくれる、などといった事はない。
もちろん大衆操作で操れば
「何が何でも排除せねばならない我々の敵だ」
と排除理由を提供してくれるだろうが…
そういうのはやってはならない詐欺。
本当に必要な場合以外は絶対に使ってはならない欺きだ。
俺はできる限りそんな悪事には手を染めたくはない…。
いつか権力闘争・政争・アングラ侵略の攻防から手を引き
ただの冒険者として生きられる日が来る前にーー
俺も王子も自分のできる事を
「後悔だけはせずに済むように」
やっておくべきなのだろうと思う…。
****************
「自分自身で手を汚して他人を殺す」
という行為には人間の精神を壊す破壊力があるのかも知れない…。
どうしてもそう思ってしまう。
俺はドミニク王子の護衛として常時付き従うようになって
(乙女ゲームのヒロインとやらが現れた所でこの王子様が女如きに本気で惚れるなんて事はあり得ないんじゃないか?)
と乙女ゲームのシナリオ自体に疑問を持つようになっていた…。
この王子。他人への感情がクール過ぎるのだ。
余程精神的に不安定になっていたとしたら
例外的に誰かに縋りたくなるのかも知れないが…
そういった揺さぶりが無ければ取り付く島が無さそうな御仁ではある。
と、そう安心していたのだが…
王城から学院へ通う道の途中ーー
「反権力・反王家思想」
をバッチリ洗脳されたような暴徒100名程に馬車を囲まれ
馬にも馬車にも火矢を射かけられた事件が起きてしまった…。
事前に情報を掴んでいない想定外の襲撃だったので
俺もドミニク王子も無我夢中で自らの手を汚して生き残った。
戦闘訓練などとは無縁そうな武装しただけの暴徒を手ずから何十人も斬り伏せて殺したのだ…。
おかしな思想を植え付けられた暴徒は
自分達が何を仕出かしても罪悪感すら持たない。
それでいて
反撃されて痛い目に遭えば執拗かつ粘着に逆恨みする…。
殺さずに捕縛できる余裕があれば
殺さずに捕縛して
公的な裁きの元に処刑理由を宣告して処刑できた筈だが…
そんな余裕がなければ
自分が殺されないためにも武装した敵を殺すしかない。
そんな当たり前の事に
俺は内心激しく動揺したし
ドミニク王子もそうだったのだと思う…。
ドミニク王子は暗い顔で
「国家は国益を守り国民の命と生活を守る責任があると私は思うのだが、そもそも『国民』とは何なんだろうな…とたまに迷いそうになるよ」
と呟いた…。
「…それに関しては俺も死ぬほど悩んだ事があります」
(前世での悩みだけどな)
と俺が答えると
王子は
「…ロドニーは意外に哲学的だったのか?君が綺麗な女の子を視姦してヨダレを垂らしてる所を私は何度も目にしてしまったから、君の内面がなかなかに偉大だという事実をついつい忘れそうになるのだけど…」
と失礼な本音を宣うてくれた。
「…殿下。ロリコンも買春も謂わば趣味ですよ。俺の本質はいたって真面目で自分でも嫌になるくらいに重いんです。
その辺の美少女や美女がドン退きして裸足で逃げ出すくらいに俺は本当は重いヤツなんです。
だけどそういう重い自分のままで居続けたら自分自身の重さで潰れてしまうから、真面目過ぎる自分自身に対して『付き合いきれない』と切り捨てて、度々趣味に走り、自分自身の重さから一時なりとも逃避するんですよ。
『国家君主の庇護下で守られるべき国民』というモノに対する定義で死ぬほど悩んだ時も自分自身の重さで潰れかけました。
『誰を切り捨ててしまった場合に俺は罪悪感を感じなければならないんだろうか?』って悩み続けました。
…その結果、俺は『ルールを守る者達はルールによって守られなければならない』という結論に達したんです。
つまり『万人は自己信念に従って殉死する存在であるべき』と、そう思ったんです。
誠実である者が他人からも誠実さを受け取るべきなんです。自国にアイデンティティを置いた目線で自国の国益を望み、自国民を運命共同体と見做して自国民の安全と幸福を願う一途さを持つ。
そんな一途な者達こそが『国家君主の庇護下で守られるべき国民』なんですよ。
他所の国から入ってきて『在住国の福祉にフリーライドしてやろう』と目論む異邦人や、それを依怙贔屓する売国奴達を『国民』の枠に入れて考えると…
誠実な国民ほど何も知らずに誠実さや善意を資産と共に超過搾取されてジワジワ殺されてしまいます。
そんな事にだけは、絶対にさせてはならないから…『国家』の側に属する人間は寄生侵略者や売国奴に逆恨みされて呪われようとも、連中を牽制し続け、いよいよ共生不可だとハッキリしたなら連中を粛清していかなければならないんです。
国民自身が盲目で寄生侵略者や売国奴を排除する必要性を理解できていなくて、連中からの逆恨みから俺達を守ってくれなくても、それでも俺達は『国家』側の人間なのだから、自分の存在意義を全うするしかないと思ってます」
前世で悩み抜いた末に出した答えを話しながら
(…そうだ。結論は出ていたんだ)
と改めて思った。
イデオロギーカルトでラジカル化した連中の
迷いの無い悪意や逆恨みは強烈だ。
どんなに
「それ以上狂うな」
「それ以上堕ちるな」
と願ってみても彼らはどこまでも堕ちる。
どんなに
「止めてやらなければ」
と必死になっても
「正義だと錯覚しながら悪をなす」
連中は、自分達を報復者ポジションに固定して
こちらの正気と善意を全て悪意的に歪曲解釈して
狂って
狂って
狂って
憎悪の闇に堕ちて
こちらを呪い倒そうとしてくる。
一緒に狂ってしまえる程にこちらも愚かなら
もっと楽だったかも知れないのに…
それができないから苦しい。
それができなかったから苦しかった…。
ずっとーー。




