46:ロドニー・デュー視点23
ビートンのダンジョンに潜り続け、ダンジョンの備蓄養分を削る事に日々を費やした過酷な夏期休暇…。
それが何とか無事に終了し
俺達は再び王都レンジリーへ戻った。
ホッと息を吐きながら俺達は
ダンジョンの壁を傷付け続けた事でダンジョン自体から
「死ね死ね死ね死ね死ね死ね」
と殺意を向けられ続けていたのだという事を理解していた。
「自分達を呑み込んでいる空間それ自体から向けられる悪意」
によって降りかかる負荷は回りくどい。
それこそ呪いやデバフのように婉曲的で分かりにくい。
だが何とも言えずにキツい。
シンドイ。
社会的弱者の生きづらさが何故か理解できた…。
社会的弱者はおそらくこの世という空間そのものから
「死ね死ね死ね死ね死ね死ね」
と殺意を向けられ続けている者達であり
人類にとっての盾だ。
社会的強者が必然的に発生するように
社会的弱者も必然的に発生する。
王族やら騎士などといった人種が空間属性の魔物であるダンジョンからの憎悪を一身に集めながら心身共に疲弊する経験は…
「社会的弱者が味わっている生きづらさを仮初めに体験する事」
でもあるのだろう。
社会的弱者の場合はーー
空間そのものの悪意がもっと婉曲的で不透明なため
負荷の存在にさえ気づく事もなく
生きてる間中延々と疲弊させられていく。
特に盾たる弱者に何の益ももたらさない寄生侵略者達が
盾に守られる側に紛れ込んでのさばっている場合にはなおさら
弱者が味わう苦労は何の有益さも生み出さず
寄生者達を余計に増長させて愚かにしていくだけ…。
そうなるとーー
無駄に弱者は心折られ
頑張る事さえできずに絶望で潰れていく…。
(近衛は王族を守るものであり、騎士は国を守るものだが…「いざ本当に守るべきもの」に関しては優先順位や脅威対象が曖昧だった気がするな…)
と自分でも思う。
「死ね死ね死ね死ね死ね死ね」
と延々殺意を向けられ続けたお陰で
「絶望から心を守る」
事もまた守るべき人々の中にある
「守るべきもの」
なのだと気がついた…。
弱者達は
「二度と生まれてきたくない」
とまで思いながら死に追いやられる。
「絶望から心を守る」
事は
「二度と生まれてきたくない」
と思っている心が
「また生まれてきたいと思える世の中になって欲しい」
という
【本当の願い】
へと辿り着けるように手を尽くす事でもあるのだ。
それを見失って一体何を守れるというのか…。
俺は前世で公務員では無かった。
特殊な家系に生まれ落ちた事でコネには恵まれていたが
特に金持ちでもなく顔も普通で才能に恵まれていた訳でもない。
「自分には何もできない」
と分かっていたから…
何もできなかったし何もしなかった。
だけど俺は本当はずっと心の底では
「二度と生まれてきたくない」
とまで思いながら死に追いやられていた人達に対して
「絶望から心を守りたい」
と思っていた。
烏滸がましいし
厚かましいし
偽善的ですらあるのだろうが…
それでもそれが俺の本心だった。
自分が本当にやりたい事が余りにも偽善的で
余りにも
「どうすれば叶うのか」
見当すらつかず
俺は自分の本心を隠し続けた。
自分に嘘をつき続けて
「俺は善人でも悪人でもない」
と鉄面皮で嘯いていた。
「日本人を卑しめ貶めていないと死ぬ病」
に罹っていた連中が掘り続けた落とし穴を自分だけ避けて
落とし穴を掘り続ける連中を止める事もせず
連中からの逆恨みを恐れて
自分だけの安寧を優先した。
本当はどんなに逆恨みされてでも俺は
「絶望から心を守りたい」
と思っていたのに…勇気がなかった。
自分の本心に気づく勇気も
切り捨てられた人達からの恨みに気づく勇気も
俺の中には足りなかった…。
「二度と生まれてきたくない」
という絶望の本当の姿は
「また生まれてきたいと思える世の中になって欲しい」
という願いなのだが…
そうした正解を
「俺が知っていても何の力にもならない」
のだ。
切り捨てられて深く絶望した人達が
自分で見つけなければならない答えだ。
それこそが「力」になる。
「また生まれてきたいと思える世の中になって欲しい」
という想いによる風が起きた時に
勇気がなかった卑怯な俺も
「二度と卑怯になりたくない」
という戒めを自分に科して動き出せるのだと思う…。
自分自身の本心のままにーー。
****************
王立魔法学院高等部ーー。
俺自身が通ったのは中等部までだったので高等部の男女比率が女子多めだという話は俺の認識の中であくまでも噂話の域を出なかった。
だが実際ーー
ドミニク王子が高等部に進級し護衛として付き添って辺りを見回して見ると…
やはり野郎は少なく女子が多かった。
(…天国だなぁ…)
と、しみじみ思う。
しかし一年後には乙女ゲームが始まる可能性があるので…
色んなタイプの美少女がその辺の花壇の花のように、ふんだんに咲いているのを見ても浮かれてはいられない。
高等部ともなると発育の良い女子も多い。
15〜17・18程度の少女がケシカラン身体付きで俺の煩悩をくすぐるが…
ロリコンはあくまでも「花を愛でる」感覚で美少女を愛でるもの。
「食う」事を考えてはイカンのである。
そう考えては独り煩悩に煩悶する俺を置き去りにしながら
国際社会間の陰湿な暗躍者達は
各国のアチコチで暴動の火種をばら撒いているらしかった。
隣国で起こった暴動はかなり過激だったらしく
「ランドル系貴族やランドル系金持ちを粛清して我がアザール王国を軍事大国化すべきだ」
という、この国に対する搾取根性丸出しのアザール系移民のデモから発展したものらしかった。
(随分と狂ってるなぁ…)
と、現実世界を思い出して懐かしくさえ思う。
「噛みついてもやり返さない平和的な相手を一方的に悪者に仕立て上げる」
虚構の事実認識や歴史認識を捏造して
「みんなで標的を憎悪する事で団結する」
という求心力を生み出す。
無視しておけば良いとか
関わらずにおけば良いとか
そんな甘い事を言っている間に悪意に囲い込まれる。
ランドル王国のマトモな貴族はそれを分かっているからこそ
「自国に関する濡衣捏造」
を放置したりなどしない。
(普通の国はそうだ)
「対抗すれば国内のアザール系勢力が本性を剥き出しにして活性化する」
事が判っている分…
「面倒だな…」
と誰もが内心では思ってしまうのだろうが…
それでも多くの国民が貴族も平民も
「ランドル王国の富はランドル王国のものだ」
「言い掛かりを付ける隣国に尻尾を振ってやる筋合いはない」
と事実を事実として理解できているのは頼もしい。
だが専守防衛は「侵略を仕掛ける側」よりも後手に回るし
倫理的で公正であればあるほど旨味が少ない。
マトモな人間にとって専守防衛の戦いは
「人災による不条理な消耗戦」
以外の何物でもない…。
組織的カルト集団の相手は
本当に何の得にもならない人災であり
不条理な消耗戦なのである…。




