42:ロドニー・デュー視点19
ドミニク王子は気晴らしのようにグロリア・ケンジット嬢の相手をしていたのだが…
そうした女誑し行為の原因としては
「ダンジョン従魔術の開発が暗礁に乗り上げていた」
事によるストレスも関係していたと思う。
従魔術は秘匿されている技術で
「素養がある者しか理解できない」
ものだと言われている。
一般に知られている情報は余りにも少ない。
王城図書館の禁書コーナーを漁って調べ上げてやっと分かったのが
「特殊個体の魔物しかテイムできない」
「特殊個体の魔物は自我の奥深くに人間の魂が眠っているものをいう」
といった事くらい。
ただもうその時点で
「テイムできる個体は限られている」
とハッキリしている。
現役のテイマーを呼んで話を訊いてみても
禁書コーナーで仕入れた知識と同じ事しか言わない。
テイム魔法陣の図象を絵に描いて見せてくれたので
王子も俺もテイム魔法陣を展開できるようにはなったが…
「ダンジョン内では魔法陣を展開できない」
という事実も後日明らかになった。
ダンジョン内で魔法陣を展開できないのだからダンジョンコアに近づいてテイムを仕掛ける事は不可能…。
「ダンジョンコアをダンジョンの外へ持ち出せばテイム魔法陣を展開できるのではないか?」
という仮説を立ててみたが
「ダンジョンコアは常にダンジョンの中心に位置する。ダンジョンコアを動かした事でダンジョン自体が移動した」
という過去の実例がある事を知った。
ダンジョンを従えるのは実質的に不可能だと言わざるを得なかった。
それならそれでスタンピードを起こさせないように別の手を打たねばならない。
ダンジョンは人間がダンジョン内で消費する魔力を吸収しているし、人間がダンジョン内で死んでくれたら肉体も残存魔力も吸収する。
人間がダンジョン内で活動もしくは死んでくれれば延々と養分が得られるのである。
ダンジョンが『分娩』を起こさないようにするには
「誰もダンジョンに入らず養分を与えずにおく」
のが一番良いのだが…
ダンジョンが在ってダンジョン内から魔石やドロップ品や宝物が出る限り法的に立ち入り禁止にしようとも違法にダンジョンに侵入するトレジャーハンター達が湧いてくる。
人間の欲は凄まじいのである。
実際にスタンピードが起きない限り
「ダンジョンコアを破壊してダンジョンを消失させる事に賛成する者が居ない」
くらいに、ダンジョン利権にぶら下がって身を立てている者達にとって人間の命は軽い。
冒険者達のように日々命のやりとりをしている者達は自分自身の命さえも軽んじているので、彼らにとって人間の命が軽く感じられるのは仕方ない面もあるのかも知れないが…
ダンジョン産の商品で儲けを上げる商人や領主にとっての人間の命の軽さはあくまでも
「自分と関係ない他人の命だから」
こそ軽く感じられる類の軽さだ。
仕方ないと割り切れるものではない。
自分自身の命を軽んじている者達が他人の命まで軽んじる必然と
自分自身の命は重んじながら他人の命は軽んじるダブルスタンダード。
それは似て非なるモノである。
ドミニク王子は
「…内部で極力魔力を消費せずに戦って、魔石やドロップ品や宝物を確実に回収。ダンジョンには養分を得る以上に養分を消費させ『採算が合わない』ようにしてやれば、分娩用の養分を少しでも削ってやるしかないんじゃないか?」
と言っている。
人間達の凄まじい欲に関して知り尽くしている彼は
立ち入り禁止策は必ず裏目に出ると確信しているのだろう。
「…ダンジョン内の壁や床は傷付けてもすぐに修復するだろう?ああいう修復作業にもダンジョンは養分を消費している筈だ。
地道にダンジョンに潜ってこちらは魔力消費を抑えながらダンジョンの養分を削っていく事で『分娩』を『死産』に近づけてやる事はできる筈だ」
と溜息つきつつ今後のダンジョン対策を示してくれた。
****************
グロリア嬢はドミニク王子が学院内にいる間中ベッタリと張り付いてくるが、長期間の休みに入れば距離を置いてくれるだろうと思った。
なので俺達は休暇期間中ビートンのダンジョンに潜って過ごす計画を立てた。
目的が
「ダンジョン自体の備蓄養分を削るだけ削る」
といったものなので…
「魔法を使わなくても物理的武器だけで相応にダンジョンを傷付けられる戦闘力の確保が必要だ」
という話になり、今回のお供は俺だけでなくエセル・アボットとデール・フレッカーも付いてくる事になった。
ビートンの宿屋にチェックイン後。
早速ダンジョンに潜るのかと思いきや…
ドミニク王子は俺達護衛を自分の部屋に集めて
「初めに言っておくが、ダンジョンの壁を傷付けるという作業には危険が伴うと思う」
と注意事項を説明し出した。
「内部空間拡張魔法の掛かった収納袋などといった魔道具も存在していて、我々人間は空間魔法を使いこなせているかのように錯覚しているが…。
実際の所、空間というモノに関して人間はそれを具体的に認識するという事さえできていない。
しかし『空間』というモノに対して無知であったとしても生きられる間は生きる事が出来る。
生き物にとって空気が必要でありながら空気を特別だと感じる生き物が殆どいないように、生き物にとって空間は空気同様に必要なものでありながら空間を特別だと思う者はやはり殆どいないだろう。
だが空間魔法属性の魔物に攻撃を仕掛けるからには空間というモノに関する概念が曖昧なままだと困った事になるかも知れない。
なので少し私の持っている空間概念について説明して君達にも理解できる分は理解できるように努力してもらう事にする」
ドミニク王子がそう告げる声を聞きながら不意にーー
『時空の虚無神』
という言葉が脳裏に浮かんだ。
ハッとして自分の中の記憶の引き出しが開くがままに任せると
『時空の虚無神』という言葉から
『アカオト3』という言葉が引き出され
(…そうだ!この世界の下敷きになってる乙女ゲームタイトルの略称が『アカオト3』だったんだ!)
と気がついた。
ダンジョンのスタンピードから立て続けに起こる災難。
ランドル王国の滅亡もしくは世界自体の消滅。
そういったストーリーに『時空』『虚無神』などといったモノがどう関係してくるのか不思議に思っていた。
それで一度
「『時空の虚無神』ってのは何?ソイツがラスボスな訳?」
と前世で妹に訊いた事があった。
返事は当然
「私がネタバレするような女に見えるの?知りたかったら自分でプレイしてみれば?」
というニヤニヤ笑いだった。
「はぁ?男の俺に乙女ゲームをプレイしてみろだと?アホか!」
と一刀両断にしてやったので、結局『時空の虚無神』が何なのかは分からずじまいだったのだ。
だが今思えば気になる…。
自分がロドニー・デューとしてこの世界に転生する事が分かっていたなら何が何でも『時空の虚無神』の正体を突き止めてやったのに!
と今更ながら後悔が起こる…。
「…どうした?ロドニー。大丈夫か?それともまた何かの『未来視』か?」
とドミニク王子から問われて
「…えっ?『未来視』?…と言えば『未来視』にあたるのかも知れません。
急に『時空の虚無神』というキーワードが浮かんで、それがこの世界の存亡に関わる事態と関連がある存在だという事が分かったのですが…。
それ以上の事が分からなくて自分の不甲斐なさを実感してた所です…」
と答えた。
言葉通り自分の不甲斐なさに打ちのめされながら…。




