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レベッカは15歳になった。
ランドル王国もその他の周辺国でも
「成人は15歳」
と定められている。
実質的に15歳はまだ成長期で子供だが
その歳で社会人として一人前に働いている(働かされている)者も多い。
「子供扱いで特別扱いせずに犯罪を裁く」
という趣旨によって15歳が成人とされている。
なので保護者の承認があれば15歳から結婚はできる。
一方で保護者の承認なしに結婚できるのは18歳から。
実質的成人は18歳なのだが…
過去に一時期「成人は18歳」と決めたところ
「15歳以上18歳未満の犯罪が激増した」
というデーターが出ている。
「法律上、子供だと見做してもらえて刑罰に情状酌量がつく」
などといった甘やかしが悪魔の誘惑のように裏目に出るのが
「15歳以上18歳未満」
という大人になりきれていない年代の特徴なのである。
甘やかしが悪魔の誘惑として降りかかれば誘惑に堕ちて堕落。
世間からの当然の批判でさえも
「不当な批判だ」
と逆恨み。
反省もせずに悪事を繰り返す。
そんな悪質な人間性へと誘導されやすい年代…。
それを無難に乗り切るには悪魔の誘惑など少ない方が良い。
のだがーー
どんなに一部の保護者達が甘やかしを廃して
子供達に堅実さを植え付けようとしても
「締め付けは可哀想だ。子供達に自由を!」
だのと、おかしな甘やかしを行い
子供達を堕落させていく大人も湧いてくる。
人は一旦「自分自身を甘やかす」方向へ流れると
どこまでも身勝手さへ流れていける…。
「自由を!」
「平等を!」
だのといった綺麗事を振りかざす思想は
ゲーム内空間でも
「認知力弱者を誑かし堕落させる悪魔の誘惑」
として作用していた。
「身勝手さ」を「自由」という美名で飾って誠実な人々を蝕む生き方。
いわゆる自由主義カルト。
王立魔法学院のような王都のお膝元にある「魔力持ちしか通えない選民学校」でさえも、そうしたカルトとは無縁ではいられない。
生徒間の問題も自分自身を甘やかす方向へ流れる者達によって引き起こされていた。
貴族の令息・令嬢の多くが学院在学中に婚約者を定めるが…
中等部在学中に婚約した者達にとって
「15歳で成人した時には既に結婚相手がいる」
という状態なので
「婚前交渉して、もしも子供ができてもどうせ結婚するんだ」
と考えてしまう。
そういった環境はーー
実はかなり深刻な修羅場を創り出していた。
結婚を前提に付き合ってる婚約者同士が婚前交渉で純潔を失い
その後、男が心変わりして別の令嬢に乗り換えて婚約が解消された場合…
傷物にされた令嬢の価値は本来のレベルから著しく下がってしまう。
「結婚を前提にした付き合いだと思い性行為を拒まずにいた」
という判断ミスのせいで
「身勝手な男に価値を下落させられてしまう」
のだから令嬢側の親からすれば堪ったものじゃない。
だがそうした悲劇は学院内で(特に高等部で)何度も繰り返されている…。
『暁の乙女と時空の虚無神〜革命前夜〜』の中でも
「悪役令嬢がヒロイン殺害を目論むほどにヒロインを憎悪する理由」
として
「攻略対象が既に婚約者である令嬢と肉体関係を持っている」
事が説明されている。
既に傷物なのだから…
捨てられれば価値下落によって次にはロクな縁談も来ない。
後がない状態だからこそ婚約者を寝取られた側の令嬢は
悪役令嬢と化してヒロインを排除するしかないのだ。
レベッカはそうしたアカオト悪役令嬢事情を予め知っている事もあり
「エリアルとの婚約はあくまでも親が勝手に決めたもの」
という態度を貫いていて、エリアルと親しくする事はない。
「いずれ夫婦になるのだから打ち解けておきたい」
だのといった甘言に騙されて身を許すとトンデモナイ目に遭う…。
「後輩に手作り菓子を振る舞って餌付けしてしまう」
状況以外ではレベッカは基本的に他人との関係は淡白。
エリアルにだけ特別距離を置いているという訳でもないので
エリアルも特に避けられていると感じる事は無かった。
ただ男子の間では
「自分と婚約者が15歳を過ぎた後は、上手に愛を囁いて誑かせばさせてもらえる」
という認識が一般化していて
「婚約者と肉体関係を持ってる」
という事が一種のステータスのように思われている。
身持ちの固い婚約者を持つ男は
「女を堕とすテクが低い」
と貶めた位置付けに置かれる訳である。
スクールカーストは大人達の社交界の下位互換版なのだ…。
家格や財力などといったものだけでなく
自分の都合に応じて他人を操る人心操作術の習熟もまた
「周りから一目置かれる」
材料となる。
乙女ゲーム的に
「婚約者令嬢を悪役に仕立て上げて断罪する浮気な婚約者令息」
も不誠実な価値観の中では
「人身操作術に長けている」
と評価される。
「自分が浮気して婚約者令嬢を追い詰めたくせに、上手く白と黒を入れ替えている。自己保身能力は充分。その調子で社会のアングラ面も上手く掌握していけるだろう」
と評価され重用される事すらある。
上流階級や裏社会での秘密結社的繋がりは
「共に罪を犯す」
という黒い絆で結ばれているものも多いからだ。
そうした黒い絆が蔓延る社会空間では
誣告犯罪者達は批判されるどころか
「上面しか見えない愚衆を自在に踊らせる人心掌握力を持つ」
と褒められる。
(万人の中に人倫がある、などと錯覚すると痛い目に遭う…)
と警戒しておくしかない…。




