37:ロドニー・デュー視点18
ともかくーー
王立魔法学院の中等部三年生というのは婚約者のいる男女を根本的に変えてしまうターニングポイントな訳である。
「甘い言葉で婚約者令嬢に股を開かせるテクに長けた男子達」
というのはスクールカーストの上位ランカーだ。
ドミニク王子の文武両道・才色兼備ぶりに心酔していたグロリア・ケンジット嬢が自ら据え膳を整えて自分の身体を差し出すのは分かりきっていた。
ドミニク王子は二次創作における
「…本当の想い人は同性…(自分自身の本音を偽るのはツライ)」
などといったアホな嗜好は持たないので
やっぱり普通に据え膳を食ってしまった…。
(うわぁ〜…。グロリア嬢の未来の悪役令嬢ぶりはハンパないものになりそうだなぁ…)
と思った俺の不吉な予感などお構いなしに、傍目にも丸分かりな露骨さでグロリア嬢はドミニク王子に溺れていった…。
しかもそうした少年少女達の
サカリのついた猿状態は中等部三年生ではアチコチで見られた。
「推し」の一人であった美少女マライア・リヴィングストン嬢も婚約者であるロードリック・クロックフォードとそういう雰囲気になったので俺の機嫌は日に日に悪くなっていった。
(…決してお子ちゃま達の不純異性交遊が羨ましいという訳じゃない!)
ダウズウェル公爵家令息ロードリック・クロックフォードは攻略対象者の一人。
そのうちヒロインが現れてヒロインがロードリックルートを選べば美少女のマライア嬢が悪役令嬢化して泥沼で悪足掻きする醜態を晒すかも知れないのだ。
良識ある年長者の俺が
「美少女の未来の苦労を憂慮する」
のは当然の事である。
「最推し」のレベッカ・ルース嬢はドミニク王子よりも一学年下。
彼女がターニングポイントを迎えるのは翌年。
ドミニク王子が高等部に進学した後となるので、ドミニク王子の護衛である俺はレベッカ嬢のターニングポイントを見届ける事はできない…。
ーーと言ってもレベッカ嬢はかなりの有名人。
中等部と高等部といった具合に
学部と敷地が別々になっても噂話は入り続ける可能性が高い。
レベッカ嬢は調理部に入部していて料理の腕を見込まれて下級生達に慕われているらしい。
「餌付けする気もなく餌付けしてしまった」
という状態。
無表情・無関心な人形じみたレベッカ嬢から表情を引きずり出してしまう餌付けされた無邪気な後輩達のお陰で、レベッカ嬢の人情味に触れる機会が増えている。
レベッカ嬢の楽しそうな笑みは男女問わず次々に周囲を撃沈してしまっているようだ。
「婚約者のエリアル・ベニントンは気が気じゃないだろう」
と俺的には密かに同情していたりもする。
「美人の嫁を持つ男は何故か寿命が短い」
という不思議な法則は地球世界だけでなくこの世界でも有効な気がするのだ。
エリアルも攻略対象者の一人なのでドミニク王子やロードリック同様にイケメンではあるが…
エリアルはドミニク王子やロードリックのような病んだ雰囲気がない。
権力という泥沼ではネチネチドロドロと罪を重ね詭弁を重ねて自己正当化する気持ちの悪い生き者が蔓延っていて…
そうした気持ち悪い生き者達が撒き散らす瘴気は権力の恩恵に連なる者達に対しても呪いのように影響を及ぼしているものだが…
エリアルはそういったものに毒されている感じはしない。
エリアルはブライトウェル辺境伯家の嫡男。
ブライトウェル辺境伯家の正妻が産んだ息子はエリアルだけ。
一粒種の嫡男だという事もあり、幼い頃から英才教育を受けていたと思われる。
エリアルの人間性にドミニク王子やロードリックのような病んだ雰囲気が無いのはエリアルの受けた英才教育が「辺境流」だった事と関係している筈だ。
辺境は王都と比べて自然が豊富。
常態的に自然の脅威に晒されている。
「倒錯した卑怯な生き方で甘い汁を啜ろう、などと思うくらいなら貴族などやめて平民として弱者として生きれば良い」
という
「人間らしい当たり前の感覚」
が当たり前に通用するのが素朴な辺境の価値観だ。
ブライトウェル辺境伯家嫡男のエリアル・ベニントンは辺境の素朴な価値観に適応していて、ひたすら自分を磨いて生きている純粋な坊やだという気がする。
辺境伯家は辺境を守護する一族。
ベニントン家では「武」と「合理性」を重んずる潔癖な生き方が代々積み重ねられている。
ネチネチドロドロの渦中で誣告や裏切りで甘い汁を啜る卑怯な無能が量産される詐術権力とは無縁の「民の生存権を保証する実存的権力」が辺境伯家。
その御曹司は潔癖で善良。
エリアルは恐らくは
「甘い言葉で婚約者令嬢に股を開かせるテクに長けた男子達」
が獲得するスクールカースト上位ランカーのポジションに興味は持たない。
なので俺は
「レベッカ嬢の純潔は結婚まで守られる可能性が高い」
と予想している。
だがーー
エリアルは婚約者を堕とすテク云々には無関心でも
「レベッカ嬢に対して粘着な欲望を持っている視線」
を注いでいる事がある。
自覚しているのかどうかは不明だが…
エリアルは自分の婚約者であるレベッカ嬢に惚れている。
政略結婚が当たり前の貴族社会では
「自分が誰に惚れているのかを自覚できてないアホ」
は案外多いのだが、エリアルもその一人っぽい気がする。
クレーバーン公爵家嫡男のアラン・チャニングなどは
レベッカ嬢が入学してきた時には既に
「レベッカ嬢は特別だ」
と思ってることが周りにバレバレの態度だったが…
何故か当人は恋をしている自覚が全くない様子だった。
(アホ過ぎる)
俺自身にいたっては
「レベッカ嬢が尊すぎて目が合っただけで心臓に悪い」
という状態。
俺の場合は恋などといった
「手の届く範囲の相手に寄せる想い」
とは無縁のまま、ほぼ信仰と化している。
妹が自分の作品に女を一切登場させない心理の説明のために
「…お兄ちゃん。…お兄ちゃんなら自分という卑しい存在を神々と同列のモノとして扱ってしまえるの?
…神にも等しい尊い推し達を自分と同じ属性の『女』という存在と絡ませて愚弄するなど…あってはならないのよっ!?」
と意味不明な妄言を叫んでいた気持ちが今ではよく分かる…。
尊い最推しが1分1秒でも長く
「男というゲスな生き物」
から穢される事なく純潔を保ってくれるようにと…
心から祈りを捧げるのみである…。




