34:ロドニー・デュー視点15
「人間を内弁慶へと育てる」
暗示の一つに
「反戦教育」
というものがある。
終戦直後の悲惨な絵や生々しい描写。
戦争体験者達の苦労話。
そういったものをひたすら見せつけられながら
「戦争をすればお前達は必ず負ける」
「戦争をすればお前達は必ず悲惨な目に遭う」
と繰り返し暗示を施す手口。
「本当に全く勝算が無かった」
と言い切れるものでは無かった当時の状況を
「全く勝算など無かったのに人海戦術と精神輪で勝てると踏んだのが当時の上層部の実態だった」
と上手にフィクションをノンフィクションに見せかける史実の自虐的捏造。
そんな工作を上手に行える歴史学者や小説家が
「戦勝国の息がかりのコネで持ち上げられ」
インテリ風を吹かせて踏ん反り返る。
そういった
「自国嘲弄で甘い汁が啜れる」
という環境が用意されれば
「思想誘導」
が自分達に仕掛けられたとも知らずに
大衆はそれに流れる。盲目的に。
その繰り返し反復で
「戦争をすれば必ず負ける」
という刷り込みが強化されていくので
国ぐるみ国民ぐるみ
「戦争を(他国との諍いを)過剰に避けようとする」
奇妙な強迫観念に罹患していくのである。
「対立交渉の失敗を異常に恐れて必死に対立自体を回避しようとしてしまい、自虐的抑制に甘んじながら欺瞞に耽り平和主義だと歪曲美化する」
そんな病んだ心理状態のせいで
他国や外国人が強気で押してくると、すぐに言いなりになる。
民族的自虐利他主義。
「そういうのを人工的に生み出すのってホント悪質だよな…」
と、しみじみ思う。
普通に生きてても
「諜報工作・人心操作術への耐性」
など付かないのだから仕方ない。
必然なのだろう。
俺のような人間のほうが異常だ。
つまりーー
「暗示耐性があって暗示に気が付いてしまう」
「人心操作する側の意図に気が付いてしまう」
そんな人間のほうが常に少数派で異常なのだ。
転生した先であるこのゲーム世界では
現実世界ほどの大規模洗脳は存在しない。
だが恐らく
「正常さ」
は勝手に保たれるものではない。
ドミニク王子のような強固な意志を持つ人間がいる事で
「当たり前」が「当たり前」であれるのだ。
病んだ世界観が降りかけられて
等価交換の通用しない隷属が強いられる時…
それをレジストするのは
「自分自身の自尊心」
だけじゃ足りない。
絶対足りない。
誰かが「当たり前が当たり前であれるフェアな空間」を望むから…
それだけをひたすらに強く望むから…
ようやく「当たり前が当たり前であれる」のだ。
空間魔法属性の魔物であるダンジョンをすら「従える対象」として見る王子…。
長期休暇の度にダンジョンで魔物の間引きをすると約束してくれた王子…。
(…俺は貴方に着いて行きますよ…)
と内心で忠誠を誓わずにはいられなかった…。
****************
ドミニク王子は精力的に
「ダンジョン従魔術式」
の開発に取り組むと同時に
ダンジョンの分娩を止められなかった場合の保険として
「ダンジョン依存度軽減事業」
にも力を入れてくれた。
勿論、王立魔法学院に在籍している限りは学生でもある。
学業面でも武術面でも常にトップの成績を維持しながらの取り組みなので
「休憩ですらも健康維持という作業に過ぎない」
という機械的なまでの効率化で生きている状態だ。
機械的なまでの効率化というものは…
人間をどこか非人間的にしていく。
少し心配はしているものの…
それじゃ俺に何か手伝えるのか?
というと俺にできる事は少ない。
俺ができる事はあくまでも護衛し続けることと
「ドミニク王子の行為も存在も全肯定すること」
くらいだった。
手伝える事も少ないまま…
それでも王子は日々成長していくーー。
12歳から13歳になり
13歳から14歳となり
14歳から15歳となった。
忙しさにかまけて心荒む事も多い生活だが…
レベッカ・ルース嬢を学院内で見かける事があるのが俺の密やかな心の慰めだ。
それでいて彼女の事では不審に思った点もある。
王子が15歳の誕生日を迎えた日には王城で祝賀会が開かれたわけだが…
レベッカ嬢は欠席だった。
(高位貴族の侯爵令嬢が祝賀会に招待されてない筈も無いし…学院では様子も普通だったから病欠という事でも無いだろうし…何故なんだろう?)
と疑問に思ってから
(あっ!外国からの貴賓も参加するんだった)
と気が付いた。
レベッカ嬢の容姿から何か勘付かれると面倒な事になる。
だから招待状自体が出されてないか
手元に届く前に握りつぶされている可能性が高い。
グレッグ王子付きの近衛となったイーサンが仕入れた情報では
「レベッカ嬢は王城での祝賀会には一度も参加した事がないらしい。病弱で気鬱の病を患っており躾も行き届いていない為、人前に出られる状態ではないという名目で毎回断りの返事が寄越されているそうだ」
との事だった。
(言うにことかいて酷え言い草だな…)
返信内容を書いたヤツ(恐らくはグラインディー侯爵本人)に対して
俺がドン退きしたのは言うまでもない…。




