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32:ロドニー・デュー視点13

挿絵(By みてみん)


ドミニク王子の言うことは言葉は辛辣ではあるものの間違ってはいない。


なので俺のほうでも

「…『自分を人間だと思っている猿を本当に人間に変えてやる』といった意識改革は簡単には起きないと思いますよ。…殿下はそうした意識改革を引き起こしてやれる見込みがご自分にどの程度あると思ってらっしゃるんですか?」

と一番気になる点を訊いてみた。


するとドミニク王子は肩をすくめた。


「さてね。全ては当人次第。或いは運次第なんじゃないか?テイマーが魔物をテイムするのだってテイマーの人間性のレベルの問題だけでなく魔物次第・運次第の側面がある。

魔物が『人間から何を学びたいと思っているのか』次第でテイマーと魔物の間の親和性が限定されるんだ。

更には親和性要素と反発要素との相殺反応がカスケード式に起こり、それがスッカリ完了した暁にどちらの要素が残っているのかに関しても外界からの投影要素による影響が大きい。


我々のような社会的搾取者層の人間が『自分を人間だと思っている猿』を導いて人間へと引き上げてやろうと貢献してみた所で、『自分を人間だと思っている猿』である『略奪者』達が『こちら側』に来る事に価値を感じてくれるとは限らないんだよ。


よしんば『こちら側』に来る事に価値を感じてくれて『略奪』による血湧き肉躍る刺激を一旦は諦めてくれたとしても、知性的かつ詐術的な婉曲的間接的略奪である『保護・養育・搾取』といった洗練された術式を辛抱強く学んでくれるとも限らない。


親和性要素と反発要素との相殺反応が激烈に起これば、元々が血湧き肉躍る刺激に依存症になってた略奪者だ。欲に目が眩んで致命的な罪を犯す可能性さえある。

社会的上流層の『施政者』が実質的に社会全体を囲い込んでいるという訳じゃ無い限り、猿を人間へ進化させる意識改革が上手くいかない可能性は常にある」


ドミニク王子はそう言って苦笑した。


俺からするとドミニク王子の言わんとする事は不思議と理解できる。

だが俺以外の近衛騎士がドミニク王子の言わんとする事を反発なく聞けるとは思えなかった。


騎士という職業は所詮は戦闘職。

冒険者とは紙一重。


血湧き肉躍る刺激に対する依存症。

肉体や脳の活動は戦闘重視で活性化。


自己放射的・自己開放的に目の前の課題にだけ全力で取り組む。

自分達の行動のもたらす影響力やらに関しては認識しない事も多い。


目先の事しか見えない戦闘職の者達は

確かに「自分を人間だと思っている猿」に似ている。


だが似て非なる者達は入り混じっている。


「即物的で刺激を求める生き方にしがみつく事で本当に猿になってしまう猿」も居れば…

「必然的に囲いの中に囲い込まれて猿へと変身させられているだけの人間」も居る筈なのだ…。


前者はどんなに意識改革のチャンスが与えられても低きへ流れる。

後者は意識改革のチャンスが与えられれば本来の自分自身を取り戻す。


だからこそ選別と篩い落としは残酷なまでに欺瞞を削ぎ落とす。


そのせいで戦闘職の人間はドミニク王子のような「刷新を強いようとする者」に対して潜在的に反発を覚えてしまうだろうと思うのだ…。


(難儀な事だ…)

そう思いながらふと…


(…木下家の先祖はどうだったんだろう?)

と気にかかった。


本当に猿になってしまった猿だったのか…

猿へと変身させられているだけの人間だったのか…


それともーー

一度は人間へと引き上げられて力を授けられたのに

欲に目が眩んで裏切りに手を染め

再び猿の領域へ堕ちた外道だったのか…


真実は藪の中ーー。



**************



スタンピードの起こる兆候ーー


ダンジョンが『懐妊』している兆候は

「ダンジョンが内部へ誘致した人間を何が何でも殺して自分の養分として取り込もうとする」

といった貪欲さに反映するのだという…。


つまりトリッキーさクレバーさイレギュラーさの上昇と死亡率の上昇が

「人間を何が何でも殺して養分にする」

というダンジョン側の意志の表れなのだそうだ。


スタンピードは分娩・出産。

この世界の魔物の絶対数を増やすためのもの。


妊婦が自分自身と胎児の分の栄養を必要とするように

ダンジョンは通常よりも多くの人間の命を必要とする。


なのでここ4〜5年で死亡率並びにダンジョン内での危険度が上がっていないかどうかを調査する必要がある。


この地で長く冒険者をしている者達に訊くのが一番だ。


この街の冒険者ギルド長く勤務している職員達もまたそうした兆候があれば把握できる立場にあるが、彼らは頭脳労働者。

スタンピードの兆候が疑われてダンジョン消滅させられれば自分達が経済的に痛手を受ける事になると理解できている分、スタンピードの兆候と見做されかねない情報を隠蔽する可能性が高い。


そんな事もあり、ダンジョンが出入り口やダンジョンが内で顔を合わせる冒険者達に対して愛想良く接して会話できる機会を探していた。


冒険者という仕事は死と隣り合わせで生きてる事もあり皆が自分の欲望に正直で他人に媚びたりもしない。

知らない相手や仲良くしてメリットの無さそうな相手には基本的に無愛想な者が多い。


「世間話を振って返事をしてもらう」

という段階に漕ぎ着けるのに五日ほど掛かった…。


ビートンに滞在できる期間が六日間なので…

ギリギリ間に合ったといった形だった。


だが結果は出た。


古くからこのダンジョンに潜ってる者達は確かにここ数年で急に死者数が昔より増えたと感じていた。


と同時にダンジョン側が

「人間を一人でも多く誘致する」

と意図しているかのように『宝箱』が新規で見つかるようになってきている。


『宝箱』が発生する地点は決まっていて、既に目ぼしい宝物は出尽くしていた筈なのに…

それまでなら見られなかった場所に宝箱が発生して中身もピンからキリまでと格差をつける。


ダンジョンが自分の意思で

「人間を一人でも多く誘致する」

べく創意工夫を凝らしているかのように思えなくもない。


ドミニク王子は

「スタンピードの兆候があるという噂を流すためには『それを信じたくない人達』よりも『それを信じたい人達』に話すのが効率的だ。

バーネット伯爵家も帰属先であるコンクウェスト侯爵派もスタンピードの兆候があるという噂を流せば確実に潰そうとしてくる。

コンクウェスト侯爵派と敵対するアンチ派閥にスタンピードの兆候があると信じさせてやらなければならない。

もちろん私や君の関与を悟られぬようにね」

と今後の方針を告げてくれた。


変装して別人になりすまして噂をばら撒いて回るには根回しがいる。

新参者の言う話など誰も耳を貸しはしない。


なので必要になるのだ。

「存在していないのに存在している事になっている架空の人物を予め作り出しておいて社会的信用を生み出しておく」

という根回しが。


その点、ドミニク王子は用意周到だった。


「お忍びによる城下町での活動」

は自分自身の楽しみも兼ねていたのだろうが…


それ以上に

「架空の人物」

を上手く生み出していた。



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