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31:ロドニー・デュー視点12

挿絵(By みてみん)


バーネット伯爵領は王都レンジリーよりも遥かに南。

冬でも比較的温暖な気候の土地だ。


農耕地としてもやっていけなくもない筈なのだが

230年ほど前にダンジョンが出来てからというもの…


ダンジョンから収穫できる宝箱や魔石やドロップ品を流通させる商売へと誰もがジョブチェンジ。


食料生産をはじめとする生産業・製造業は廃れてしまっている…。


こんな状態でダンジョンを消滅させなきゃならない事態になどなったら領民の生活もバーネット伯爵家も立ち行かない…。


「君の話だとスタンピードが起こる未来は私が王立魔法学院高等部の三学年に進級してすぐぐらいの頃だったね?

それだと今から4〜5年先だ。だが『分娩』が『懐妊』の8〜9年後だとするなら、既に懐妊が起きてしまっている。

その兆候が見られるようなら私はバーネット伯爵に対して『ダンジョンに依存しない経済基盤を今のうちから作っておくように』と勧めておくつもりだ」


そう宣うドミニク王子はバーネット伯爵領がダンジョン依存の経済で回ってる実情を既に把握していた様子だ。


「恐れ入ります…」

と殊勝に頭を下げておく事にする。


何せドミニク王子は博識だ。


ダンジョンの懐妊前と懐妊後の兆候など俺には全く分からないのに、彼は既に専門家レベルの知識を有している。


彼の知識獲得欲は恐らく

「自分の頭の良さを誰かの役に立てたい」

という奉仕欲求と直結している。


(…今世では自分のためだけにダラダラ生きたかったんだけど…。何となく無理っぽいな…)

と諦めに似た想いを感じながら


「…父が素直に従うとも思えませんが」

と正直な予想を告げてみた。


「そうなんだろうね」

と言いながら冒険者用の宿屋にチェックインに向かうドミニク王子は既に変装済み。

蜜色の髪の毛が赤毛のカツラで隠されているが美少年ぶりは隠せない。


ショタっケの有りそうな男や女がすれ違った後で振り返って二度見するのが面白い。


少年冒険者風の出で立ちのドミニク王子が

「それでもこちらは調査を進めながら、いざという時のためにも、いつでもダンジョンコアを破壊できるだけの実力を身に付けておくべきだと思う。

あと『ダンジョン消失による金銭的な損失が最小で済むように』という準備を領民達が自発的に行ってくれるよう『数年のうちにスタンピードが起こるかも知れない』という風聞を流してやる必要もあるしね。

準備をしておけば誰も死なずに済むのなら、それに越した事はないだろう?」

とニッコリ微笑む姿がやけに堂に入って見える。


「…殿下。もしかしてお忍びで冒険者活動とかなさってた事があるんですか?」

と訊いてみたら


「いいや。冒険者活動はやった事はないね。だけど、そうだね…コッソリ下町に降りる為に王城の下働きに変装したら、ちゃんとそれっぽく見えてたって事なのか…衛兵に蹴りを入れられた事は何度かあるよ」

との事だった…。


側室腹の王子は何かと苦労が多いらしい…。


とりあえずは肩慣らし。


という訳で、宿屋にチェックインした後、ダンジョンに潜ってみて浅い階層の低ランク魔物を狩る事で腕慣らしをした。

宿屋では「冒険者兄弟」と偽って二人部屋に宿泊した。


「公務員はアルバイトをしてはいけない」

という原則があるのだが

「騎士資格試験に合格した騎士達は任務遂行のために様々な職業を演じなければならない」

事もある。


近衛騎士は特に

「国内で反乱が起きて王族を亡命させなければならない」

などといった事態も想定して

「商人ギルドや冒険者ギルトに登録させられている」

者が多い。


商人ギルドも冒険者ギルトも

「長期間活動実績が無いと除名される」

のだから

「騎士である事を隠して登録させられている騎士達は除名を免れるギリギリのラインで活動実績が捏造され資格剥奪を免れている」

のである。


なので俺も

「低ランク冒険者の資格」

を持ってる。


ダンジョン内でゲットした魔石やドロップ品を冒険者ギルトで買い取ってもらう事もできる。


(今日ゲットした分だけでもそこそこカネになるんだけど…。ドミニク王子は『売ってカネに替える』といった事は考えてないのかな?)

と疑問に思った。


だがーー

考えてみればドミニク王子は魔石やドロップ品を回収してはウエストポーチに収納していたが、幾ら詰めてもポーチは満杯にならなかった気がする…。


(内部空間拡張魔法の掛かった収納袋か?)

と思い当たって納得した。


このダンジョン街がビートンと呼ばれるのはダンジョン内の浅い階層には植物型魔物や虫型魔物が多く、その中でも蜜蜂型魔物の死骸は魔石か蜂蜜に変わるからだ。

蜂蜜が主な目玉商品となっていて、国内流通比率の大半を担っている。


ちなみに魔石とドロップ品は討伐した者自身が魔物の死後1分以内に触れなければ消滅してしまう。

群れで襲い掛かって来られると倒すので手一杯だという事もあり

「1分ルール」

はかなり厳しい。


討伐者自身でなくても誰か人の手が触れておけば消滅せずにいてくれるのなら

「回収係」

を連れておけば良いだろうが…


この世界のダンジョンは討伐者自身が触れなければならないという仕様。


一人一人がそれなりの強さがあって大人数パーティーで自分の狩った獲物からの収穫品を着実に回収していく方が稼げるのである。


そんな事もあって蜂蜜目当てで浅い階層に潜っているパーティーは大人数の者達が多い。


「…蜂蜜目当ての冒険者達はよく連携が取れているようだ。ドロップ品狙いの冒険者から養蜂業にジョブチェンジしても上手くやっていけるんじゃないか?…まぁ意識改革は必要になるだろうけどね」

とドミニク王子が感想を漏らすくらいに大人数でドロップ品の蜂蜜を収穫しているパーティーは連携が取れている。


「…冒険者という職業はようは『殺してゲットする』という仕事ですからね。

花を育てて蜜蜂を誘致して蜜を集めさせるといった生産業へ適応するのは難しいと思いますよ…。

対象が魔物だから誰も何も思わないんでしょうが、『殺してゲットする』という冒険者の生き方はようは『略奪』なんですよね。

それに慣れてしまった人間は『略奪』行為の血湧き肉躍る感覚が染み付いてますから、『略奪』行為から離れて刺激のない真っ当な仕事に就くのは難しいと思いますよ」

と俺が現実的問題を指摘すると


ドミニク王子はニヤリと笑って

「だから意識改革が必要だと言っている。いいか、ロドニー。養蜂という生産業は実質的には『搾取』だ。

そして『搾取』は婉曲的間接的略奪なんだ。

そしてそれと同じ事は農作物を育てて収穫する事に関しても言える。


農作物や蜜蜂は『人間から必要とされる事で種の保存を達成する』という選択を潜在的にしてしまっているから延々と搾取され続けているものと見做せる。

つまり被搾取状態を受け入れる事と『種の保存』に関する配慮とを関連付けた『無自覚の契約』を被搾取者である農作物や蜜蜂が受け入れ依存しているからこそ、人間は農作物を育てて家畜や蜜蜂を飼い搾取し続けていられるんだ。


魔物をテイムして使役する事の中にすら魔物の側に『人間に使役されて人間に近い感性と知性を自分の内部に培う』というメリットがあってこそ魔物は大人しくテイマーに従ってくれる。

冒険者達が行なっている野蛮で直接的な略奪を婉曲的間接的な略奪へ洗練させて『略奪者』ポジションから『搾取者』ポジションへ進化させてやるのは何も悪い事じゃない。


人類の先人達は『ただ略奪し食い散らかして滅ぼしていく』という無責任で粗暴な状態から『種の存続に配慮してやる代わりに搾取する』といった知性面での進化を辿って文明を築いてきている。

冒険者達にも人類の先人達が辿った意識面での進化洗練の道筋を辿らせてやるのは『自分を人間だと思っている猿を本当に人間へ変えてやる』ような貢献だと思う。


そうした貢献は『民草に対して種の存続に配慮してやる代わりに搾取する』という無自覚の契約を担保にしたものこそが『権力の基盤だ』と気づかせてやる事にも繋がる筈だ。

それによって人間に進化した民草は『施政者』と『ただただ民草を蝕むだけの寄生虫』との違いにも気がつけるようになるのかも知れない」

と語った。


ドミニク王子は容赦がない。


冒険者という名の「血湧き肉躍る刺激を求める略奪者」の事を

「自分を人間だと思っている猿」呼ばわりしている…。


俺は思わず溜息を漏らした…。



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