30:ロドニー・デュー視点11
「護衛を常時同行させられるのは基本的には王族に限られるのだけど、クレーバーン公爵家嫡男ともなると王族並みの警戒が必要だという事は公爵自身が訴えて特別に許可を得る事はできなくも無いと思うよ。
私の方でもアランに声をかけて護衛の常時同行許可を申請するように勧めてみよう」
とドミニク王子が言ってくれたので一安心した。
(これでアラン少年の死亡フラグは折れた筈…)
と思う事にしてアランの事は脳裏から消す事にしたのだが…
「アラン・チャニングがレベッカ・ルース嬢から料理を教わっているらしい」
という噂を耳にした事で再びアランに注目する事となった。
レベッカ嬢の婚約者候補として名が上がっているジェフリー・バンクロフトとゴドフリー・トレントにしても…
妹のジューン・バンクロフトとチェルシー・トレントがレベッカ嬢に懐いているのをダシにして交流を持っているようだ。
(なんてズル賢いヤツらなんだ…)
と俺の中ではアラン、ジェフリー、ゴドフリーの三人に対する評価は確実に地に落ちた。
「ジェフリー・バンクロフトはエリン・トレント嬢と婚約話が挙がった事もあるんだし、そのままくっ付けば良かったのにな」
「グラインディー侯爵家令嬢を狙うなんて身の程知らずめ」
「高嶺の花が簡単にゲットできるとでも思ってるのか」
というジェフリー下げの評価が聞けた事で
(みんな考える事は一緒なんだな)
と少し安心した。
『推しを愛でる心理』
という敬虔なる信仰心。
それを誰もが内心で培っているのだろう。
レベッカ嬢と面識のない連中には何の事か分かるまいが…
サマーキャンプで彼女と面識を持ち
「これまでの人生の中で一番美しいと思った美少女だ」
と思ってしまった者達にとって
レベッカ嬢は
「誰も手折ってはいけない、皆で愛でるべき高嶺の花」
なのであった。
非現実的ではあるがせめて妄想の中だけでは
彼女には永遠に処女で独身であって欲しい。
寂しさゆえに人肌が恋しいのであれば
「美少女同士で睦み合って欲しい」。
男というゲスな生き物に組み敷かれる事なく
男というゲスな生き物とは無縁に生きて欲しい。
ーーと
そう思った時に俺は
「何故、妹の脳内物語劇場にはイケメンしか登場しないのか」
を理解してしまっていた…。
(…転生というものは何気に恐ろしいな…)
と感じてしまう。
何故なら前世で
「理解できないし、理解したくもない!」
と思っていた狂信者的な心理を
いつの間にやら自分自身が体現してしまい
「あれ?理解したくなかったのに同じ轍を踏む事で理解しちゃってる」
と気がついてしまうのだから…
色々と混乱しそうになる。
まるで
「理解できないし、理解したくもない!」
と思っていた相手から
「ケケケケ。お前も同じ轍を踏んでしまえ。我々を理解せよ!同じ穴のムジナとなれ!」
と呪われてでもいたかのような気がしてくるのだ…。
妹やそのお仲間の腐女子軍団ならフツーにその手の呪いをかけそうだ…
と容易く想像がつく分、何とも恐ろしい…。
(あの魔女どもならやりかねん…。クソ。呪いとは「倒錯した心理への理解・共感の強要」というパターンもあったのだな…)
と思うと
「腐界という魔界は呪いで満たされている」
ように思えて…
今更ながらーー
(どんな人間も侮れない)
と感じたのであった…。
***************
「…ロドニー。じきに冬休みだね…。私は君の言ってた『スタンピードが起こる未来』に関しては実の所『ありえる』と思ってるんだ」
というドミニク王子の言葉で俺はハッと我に返った。
(…冬休みに入ればイイ女でいっぱいの王宮で日がな一日ムンムンに熟れた美女達を視姦できるぞ。ゲヘッ)
と脳内ハーレムに耽っていた時に
急に話しかけられてスタンピードネタがかまされたのだ。
嫌な予感しかしない…。
「…何というか。君の口から『スタンピードが起こる未来』の話を聞いた時には少し『運命的だな』と思ったよ。
君の実家のバーネット伯爵家の領地には古いダンジョンがあるだろう?
君も知っての通り、ダンジョンはアレ自体が巨大な空間魔法属性の魔物だ。
早め早めにコアを破壊して消滅させてしまわないと人界に魔物の絶対数を急増させる『分娩』を起こす事は古い文献でも広く知られている所だ。
ダンジョンが引き起こすスタンピードこそが古い文献の言う『分娩』である事も認知されつつある。
私としてはバーネット伯爵領に在る古いダンジョンこそがスタンピードを起こしそうだと危惧していた」
ドミニク王子が語る話は実家にいた頃も度々耳にしてはいたが…
ダンジョンがスタンピードを起こす条件というものは
実は正確には解明されていない。
古いダンジョンだからといってスタンピードが起こると断言はできない。
世界最古のダンジョンがスタンピードを引き起こすでもなく人外境と化している大陸東北部の大樹海の只中に存在していると言われている。
ダンジョンがスタンピードを起こす事を『分娩』に擬えるなら、そのキッカケである『懐妊』の要因が解明されていない。
ダンジョンの『懐妊』に関しては数多の仮説があるが…
様々な仮説の中で共通する点が
「出来てから150年以上450年未満のダンジョンが懐妊する」
「懐妊して分娩まで約8〜9年」
という点だ。
この世界の人間の女性の妊娠可能期間が
「15歳から45歳まで」
で
「妊娠して出産まで約9ヶ月」
というのを真似てでもいるかのような数字だと思う。
統計データー的な数字だから
様々な仮説の中でも引用されているのだろう。
俺としては
(ダンジョンが女性の子宮のような性質を持つのなら、『懐妊』に該当する要素さえ加わらなければ『分娩』はーースタンピードはーー起きずに済むんじゃないのか?)
と思っていたりする。
つまり男が女に対して
「妊娠さえさせなければヤリ逃げOK」
と思う感覚でダンジョンをキープしておける。
何せダンジョンはカネになる。
ウチの実家がバカ揃いの割りに金回りが良いのは全てダンジョン利権のおかげ。
経済を回してゆける知性に恵まれていなくても次々とダンジョン内から持ち替えられるダンジョン産の魔石やドロップ品のお陰で危なげなく領地経営ができるのだ。
「本当にスタンピードが起こる」
という確信が無い限りダンジョンコアを破壊してダンジョンを消滅させるような決断はできないのが人情。
だがーー
確かにバーネット伯爵領のダンジョンに関しては
気になる事は気になる。
何故なら前世の妹の二次創作品の中には…
俺がーー
ロドニー・デューがーー
捕縛から逃れようとしている話があった。
今よりもっと成長しているドミニク王子がロドニーに対して
「君を死なせたりしないっ!」
と抱き寄せるシーンやら
同じ近衛のエセルが
「一緒に亡命しようっ!」
とロドニーを連れて逃避行するシーンやら
そういう逃避行ネタがロドニーには付き纏っていた…。
今にして思えばーー
(…スタンピードってバーネット伯爵領のダンジョンで起こるの?)
という疑惑がムクムクと湧き起こる…。
思わず
「…殿下。…バーネット伯爵領のダンジョンがスタンピードを起こした場合、俺の身はどうなるんでしょう?」
と尋ねてしまったところ
「…そうだね。過去の歴史を踏襲した裁きが下される場合には一族郎党赤子から老人に至るまで公開処刑という事になるだろうね…」
と告げられ
涙目になりながら
「なんとかならないんですかね?」
と縋ると
「…なんとかする道を見つけるために、バーネット伯爵領のダンジョンに行ってみようと思ってるんだ。君もお供してくれるんだよね?」
と言ってもらえたので
(勿論!)
の意を込めて首を縦にコクコクと振って頷いて見せたのだった…。




