27:ロドニー・デュー視点8
前世の記憶が戻った事で起きた変化。
それは幾つもあるが…
そうした変化の一つとして
「相手が美少年であれば初対面であっても何故か名前と性癖が浮かんできてしまう」
といった事がある。
イケメンキャラをオカズにして欲望を満たしていた妹の執念は
「シナリオライターしか知り得ないような端役の名前と役柄すら把握する」
という所まで及んでいたらしく
俺の中に内蔵されている
「イケメン達に関する予備知識のストレージ」
は意外に深かったようなのだ。
ドミニク王子の護衛として背後霊の如く付き添って回ってみて
「あ!こいつ知ってる!」
と思ったイケメン予備軍の美少年達の数は既に十指に余る。
一方で美少女達に関する予備知識はない…。
ドミニク王子が王立魔法学院中等部に入学して一・二ヶ月経過した頃にドミニク王子は子爵家令嬢のグロリア・ケンジット嬢と婚約した。
それによってグロリア嬢に対して
(この女の子がドミニクルートでの悪役令嬢か…)
と分かったのだが…
ジックリ顔を見ても
(うん。知らない顔だ…)
と断定できた。
何せ前世の妹の脳内物語劇場には女は登場しない。
出てくるキャラ全てイケメン。
小説にも挿絵にも漫画にも一度も女が出てきてない…。
「…お前、まさかとは思うけど、女描けねぇの?」
と尋ねた俺に向かって
「…お兄ちゃん。…お兄ちゃんなら自分という卑しい存在を神々と同列のモノとして扱ってしまえるの?
…神にも等しい尊い推し達を自分と同じ属性の『女』という存在と絡ませて愚弄するなど…あってはならないのよっ!?」
と意味不明な妄言を叫んでくれた…。
どうやら妹は宗教上の理由が有って
「イケメンしか登場しない物語作り」
に拘っていたらしい。
そういった奇妙な宗教上の理由の影響により、俺の対人知識には
「イケメンにだけ詳しい」
という奇妙なバイアスが掛かっているのである…。
自分の内面など口にさえ出さねば誰にもバレないとは思うが…
イケメン達に関してはーー
性癖から裸体の筋肉の付き方からアレの形やサイズや微妙な色合いまで知ってるのに…
御令嬢方に関してはーー
名前もろくに知らずにいるのだという…。
この知識格差が周りにバレようものなら
「ホモ!ホモ!」
と後ろ指刺される人生真っしぐらである事間違いなしである。
(…周りにバレる前にこの知識の偏りを何とかせねば…)
と思った俺が考えた妙案というのが
(この世界の美少女・美女に関する情報を集めよう!)
という無邪気なストーキング欲求だった…。
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「この世界の美少女・美女に関する情報を集める」
という目的を持ったは良いが…
この世界は全般的に顔面偏差値が高い。
日本にいた頃に美少女だと思ってた女の子など、その辺の雑草レベル。
こういっちゃなんだがドミニク王子の婚約者のグロリア嬢も
日本基準では美少女だが
この世界基準では
「そこそこ」
といった程度の女の子でしかなく…
この世界基準に慣れた審美眼では全く食指が動かない。
むしろドミニク王子の親友ポジションにあるロードリック・クロックフォードの婚約者である侯爵家令嬢マライア・リヴィングストン嬢の方がグロリア嬢よりも数倍美少女だ…。
この世界では魔力とスペックの高さは密接に関連しているらしく
「魔力の無い平民よりも魔力の有る下位貴族の方がスペックが高い」
「魔力の質の低い下位貴族よりも魔力の質の高い上位貴族の方がスペックが高い」
といった法則が働いている。
勿論、色々な例外もある。
平民でも魔力持ちが生まれる事があるし
下位貴族でも魔力の質が高い場合もあるし
上位貴族でも魔力の質が低い場合もある。
魔力の質が高い上位貴族よりも魔力量の多い下位貴族の方がスペックが高い事だってある。
スペックの高さには能力各種のみならず容姿や運も含まれる。
平民や下位貴族の中にもハイスペックな美少女・美女が生まれる余地はあるものの…
この世界では圧倒的にハイスペックな美少女・美女は王族や上位貴族から生み出される確率が高いのである。
よって俺の中の推し美少女リストの中にマライア嬢の名前がきっちり書き込まれた訳だが…
今の所
「これまでの人生の中で一番美しいと思った美少女」
は、やはりレベッカ・ルース嬢。
現時点での最推しである…。
ーーそのレベッカ嬢の名前が不意に学院生達の間で挙がる事もあった。
プレスコット伯爵家嫡男のジェフリー・バンクロフトと
レディング伯爵家嫡男のゴドフリー・トレントが
レベッカ嬢の婚約者候補に挙がっているらしい…。
それでルース家の親戚筋に当たる連中がジェフリーとゴドフリーの情報を集めようとサマーキャンプ参加者だった少年達がルース家の親戚筋とグルになって嗅ぎ回った様子…。
レベッカ嬢は「近寄り難い」と感じさせる孤高オーラが出てる深窓の令嬢。
気安く「好みだ」などと口にするヤツはいないが、俺と同様に
「これまでの人生の中で一番美しいと思った美少女だ」
と思ったヤツは多い筈。
ジェフリーとゴドフリーの情報を集める連中の元には
山ほどジェフリーとゴドフリーの悪口が集まったようだった…。
ドミニク王子はそういった騒ぎに対して無表情無関心を貫いていたが…
ある日ポツリと忌々しげに
「…あの程度のヤツらにレベッカはやれないな…」
と呟いてくれた…。
一瞬聞き間違いかと思って
「へ?」
と俺がマヌケな声を漏らしてしまったものだから
ドミニク王子の方でも
「自分の内心の呟きが声に出てしまっていた」
事に気付いたらしく…
「あっゴメン。声に出してたね」
とお茶を濁すようにニッコリ微笑み、数秒沈黙が流れた後に
ハァァーッと盛大に溜息を吐いてくれた…。
(…ドミニク王子は実はレベッカ嬢に惚れてるとか?そういう事なのか?)
とお子様達の初恋模様を思わず勘繰ってしまったものだが…
その日の夕刻ーー
ドミニク王子に連れ添って歴代の王族の絵姿がズラリと飾られた王城の一画へと足を向ける事になった。
「ここに来たのは初めてかな?」
とドミニク王子に問われて
「いえ、初登城した日に一通り城内を巡って説明を受けましたから、その時にここにも寄りました」
と答えると、ドミニク王子が意地悪そうな笑顔を浮かべた。
「…そうか。…ロドニーも薄々気付いてはいると思うが、権力というものは本来は呪われたものだよ。
呪いは色んな形で降りかかり、ややもすると血が途絶える事態も降りかかるものだから、君主一族は門外不出の禁忌の技を代々引き継いでいる事も多い。
そうやって禁忌が繰り返されて不自然な美貌や才能が保たれるイビツな権力の中で、人は我知らず破滅の種を蒔いてしまう事もあるものらしい。
権力の持つ負の面を何も知らずにのほほんと過ごす美姫は特にね」
ドミニク王子が意味有り気に唇の端だけ上げたまま
美男美女の絵姿が並ぶ中で一枚の絵を指差して…
「バルシュミーデ皇国に嫁がれたリリー・リサ王妹殿下。叔母上だ。…彼女がまだ王宮にいらっしゃった頃の事は私は赤ん坊だった事もあって何も覚えていないが…それでも誰かに良く似ていると思わないか?」
と問いかけたことで俺はドミニク王子の言いたい事が分かった。
バルシュミーデ皇国に嫁いだ王妹殿下の容姿はーー
髪の色と瞳の色が違うもののレベッカ・ルース嬢にそっくりだった…。
ランドル王国の王族特有の蜜色の金髪とアメジストのような瞳。
一流の芸術家が天上の美を映し取って人形にしたかのような不自然なまでの美貌。
王の娘として生まれた彼女を見て、誰もが素直にこう思った事だろう
「これまでの人生の中で一番美しいと思った美少女だ」
と…。




