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グラインディー侯爵やルース家の親戚達がその場にいたなら
(レベッカを散々放置してきたくせに)
「お引き受けしろ!」
と圧力をかけてきた可能性が高い。
だがそういった圧力をかけられるまでもなく…
レベッカは
(…もしもアラン・チャニングが四年後も生きていたとしたら、この世界はどうなるんだろう?…私自身、エリアル・ベニントン以外と婚約する選択肢もできてて既にシナリオは変化し始めてるのだろうし…。このままシナリオを壊し続ければ、もしかして私の知らないハッピーエンドに近づける可能性もあるのかな?)
と興味を持った。
幸いな事にクレーバーン公爵夫人の意向は
「アランに料理を教えてあげて欲しい」
といったものだ。
「アランの栄養失調状態を改善して欲しい」
と言われていれば
「無理です」
と即答できたが…
料理を教える事自体には問題はない。
技術を教えて栄養面や味に配慮するよう指摘する事自体は
レベッカでなくとも誰にでもできる。
だがアランが大人の料理人に対して
「相手は大人だ。自分は子供だ。自分はできなくて当たり前」
という姿勢でいて年齢差を引き合いにして、何も学ぼうとしていない可能性がある。
それなら
「年下の子供ができている所を見せる」
事はアランの意識改善に役立つかも知れない。
なので
「アラン様の体質改善に結びつくかどうかは分かりませんが、料理を教えるだけなら私にもできますし、喜んでご協力させていただきますわ」
と公爵夫人の願いを受け入れる返事をした。
(…シナリオを壊しても構わない。「自分の良心のままに、自分のできる事を頑張る」なら、その結果が悪いことになど為りようが無いって、何故か今の私には信じられる…)
そう思いながらアラン・チャニングの方を見遣るとーー
グニャリと空間自体が奇妙に歪んだような…
奇妙な錯覚が起きた。
と同時にーー
噛み合って回り続けていた歯車同士が
別の歯車へと噛み合う相手を変えて
動力の注がれる先が変更されたかのような
不思議なイメージが脳裏に浮かんだ。
(…ああ、そうか。「運命を変える」っていうのはこういう感じなんだ。…「自分の良心のままに、自分のできる事を頑張る」「その先には必ず予定調和的がある筈」と信じることこそが運命の歯車を操作する鍵だったのか…)
と不意に悟りながら
「よろしくお願いします」
と心からの笑みが浮かんだ…。
**************
レベッカが「運命が変わった」と感じた感覚が
錯覚ではなく真実であったと証明するかのように…
アランはレベッカの指摘・指導を素直に受け入れて、自分自身の栄養失調状態を改善していった。
最初は毎週末。
後に月に二回。
徐々に月に一回へと切り替えた料理指導。
それはレベッカが王立魔法学院に入学した後も続いた。
アランはレベッカよりも一つ歳上だというのに、まるで歳下の友人のように「懐いた」。
ジューン・バンクロフトやチェルシー・トレントのような歳下の友人を可愛がり、好物のオヤツを与えるのと同じ感覚の癒しをレベッカに感じさせていた。
そうしてレベッカが王立魔法学院中等部に入学して半年ほどが経過した
初春頃ーー
ゲーム内のシナリオ通りに、ブライトウェル辺境伯がエリアルとレベッカの婚約を申し込んできて、これまたシナリオ通りにイーデンがレベッカの意見を聞かずに勝手に了承したのだった…。
イーデンが気に留めたのは
「クレーバーン公爵がアランとレベッカの婚約を申し込んでくれるなら、その方がエリアルとレベッカを婚約させるより良い」
という点のみ。
なので
「クレーバーン公爵家がレベッカを嫡男の婚約者に望んでいるのかどうか?」
クレーバーン公爵夫妻の動向を探らせた。
アランとレベッカは親しくなったが恋愛的な部分での進展は見られない。
アランの内心はどうあれ、公爵夫人はレベッカに対し
「恩人として好意を向けている」
ものの、次の公爵夫人に迎える気は皆無。
クレーバーン公爵家は引くて数多。
そうした事実を把握して
「引くて数多のクレーバーン公爵家との縁故関係は、こちらが物欲しげに待てば待つほど得られそうにない」
と結論を出したのだ。
クレーバーン家に縁付ける以外ではブライトウェル辺境伯家に縁付くのがレベッカに寄せられる婚約話の中で最も両家共に都合の良い良縁。
政略結婚はそもそもが
「娘をオークションに出品する」
のにも似た損得勘定で結ばれるもの。
イーデンは
「グラインディー侯爵家にとって最良と思われる相手にレベッカを落札させた」
のだ…。
そして運命はーー
「変わった部分」と「変わらない部分」が混ざり合って進んでいく…。




