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クレーバーン公爵領内にダンジョンが発生したーー。
この事件もゲーム内で語られている環境事情にあったので
ゲームの環境設定は着々と進行しているようだった。
クレーバーン公爵ーー。
ヒロインであるクラリッサの父親…。
ダンジョンは宝箱やドロップ品などの収穫をもたらすので
「ダンジョン利権の全てを国のものとする」
といった政策が採られない限り
領主にとってダンジョンは金の卵を産むガチョウのようなもの。
お陰でクレーバーン公爵は凄まじい勢いで金持ちになっていっているし、欲にまみれた者達の思惑が急速に絡みついてもいる。
こうしている間にも消費税・関税でのボロ儲けで潤っているのだ。
ゲーム内ではクレーバーン公爵の一人息子の死因はボカされているが、実は毒殺ではないかという疑いがある。
致死量の劇薬の摂取による急死は明らかに毒殺だが
体調を崩す程度の量の毒でじわじわと蝕んでから
検死でも検出されない毒で病死に近い症状を引き起こして殺せば
病状の急性的悪化による病死として片付けられる。
(急に金持ちになって注目を集めると、一体誰に目を付けられて、一体どこから罠を仕掛けられるか分かったもんじゃないし、大変だろうなぁ…)
とレベッカは他人事のように思った。
完全に他人事だった筈なのだ…。
それなのにーー
クレーバーン公爵夫人からレベッカへお茶会のお誘いが掛かった…。
レベッカの継母であるグラインディー侯爵夫人エリザベスにではなく
「レベッカに」
だ。
「お友達になりたいわ」
といった意思表示の一環として
面識の無い相手をごく私的なお茶会に招くには…
余りにも公爵夫人とレベッカには年齢差があり過ぎる。
(考えてみたら、お義母様が社交をしなさ過ぎるせいで「仲良しの親同士が子供同士の友情を取り持つ」みたいな事も無かったし、この歳になるまで同年代の子達と遊んだ事も無かったんだよね…)
と思い至り…
継母の無能さに多少苛つくものを感じながらも
クレーバーン公爵夫人には丁寧なお断りの返事をしておいた。
それで「問題は片付いた」と思っていたのだが…
何かと、その後もクレーバーン公爵夫人からのお誘いが来る。
欲にまみれた大人であれば
ダンジョンから出た珍しい品の自慢が書かれ
「是非観に来て欲しい」
と誘われれば…
「目の前に人参をぶら下げられた馬」
さながらにすっ飛んで行くのだろうが…
レベッカはその点、欲は無い。
ルース家の商売という側面で
ある程度以上の裁量権と責任を持たされて
そこにやりがいを感じているなら
「ルース家の商売を大きくするチャンスにつながるかも知れない」
という欲が湧く事もあるかも知れないのだが…
今のところレベッカは子供。
クレーバーン領のダンジョン産の物珍しい品に興味を持ったり、今をときめくクレーバーン公爵家に取り入っておこうだのといった気にはならない。
公爵夫人の方でも
「子供の気を惹く物は大人とは違う」
という当たり前の事に思い至ったらしく…
レベッカと交流があるプレスコット伯爵家(バンクロフト家)が開く園遊会に親子共々参加するといった手段で接触を図ってきた。
お陰でレベッカが何も知らずにジューン・バンクロフトからの
「絶対来てね!」
というお誘いに乗って園遊会に顔を出すと
手ぐすね引いて待ち構えていたクレーバーン公爵夫人に初対面した。
レベッカから見てクレーバーン公爵夫人は継母のエリザベスと違って社交的なものの、どこかエリザベスと似た雰囲気があるように見えた。
つまり
「慢性的に不安を抱えていて、焦燥感に弱くてヒステリックになりやすい性質」
のようなものが雰囲気を通して感じられるのだ。
(…こういう母親から守られながら依存されるのって、どんな感じなんだろう?)
と少し自分の異母弟のウォルターを連想しつつ…
クレーバーン公爵家嫡男のアラン・チャニングの人と為りを推測しようとした。
アラン・チャニングはヒロイン・クラリッサの異母兄に当たる人物だがゲーム開始時には既に故人。
ゲームを何千回もやり込んで凡ゆるシチュエーションを引き出しているディープユーザーだけが、ゲーム開始前の設定にまつわる凡ゆる情報を握っている筈だが…
レベッカこと岡崎五月はそこまでの粘着な情熱をゲームに注ぐ事は不可能だった…。
ゆえにアラン・チャニングの事をほとんど知らない。
「初めまして、やっとお会いできましたわね。わたくしはクレーバーン公爵バーナード・チャニングの妻ジェニー・チャニングですわ」
と公爵夫人に話しかけられて
「お初にお目にかかります。グラインディー侯爵家長女のレベッカ・ルースでございます。お目にかかれて光栄です」
と返事をしたところ
「もっと早くにお会いしたかったわ」
と口元だけで笑顔を作ったような表情で言われた。
違和感を感じながらも
「貴族の中でも『自分で作った物しか食べない』ような人は少なからず存在するけど、そういった人達の多くは『食事は飢えない程度に何か胃に入れておけば良い』といった考え方で栄養面や味に拘らずに人生を損してるのよ。
…だからわたくしは貴女の生き方に対してリスペクトを感じているの」
との公爵夫人の言葉には
「ありがとうございます」
と素直にお礼を述べた。
公爵夫人はその後も
「この世には美味しいものが沢山ある」
「毒を恐れて安全のみにこだわり栄養失調になるのは人生を損してる」
といった話をし続けた。
すると耳タコだったのか
まるで痺れを切らしたように
公爵夫人のドレスの陰から顔色の悪い痩せた子が
顔を覗かせてレベッカをチラリと見遣った。
(…服は上等なのに貧相な子だな…。食べ物の好き嫌いばっかりして栄養失調なのかな?)
という印象が脳裏を過ぎって…
(まさか、この子がアラン・チャニング?)
と疑惑が起きた。
「アラン。レベッカ嬢に挨拶なさい」
と公爵夫人が貧相な男の子に指示すると
「…アラン・チャニングです」
と貧相な男の子が機械的に挨拶をした。
「…レベッカ嬢。回りくどい言い回しでこれ以上時間を無駄にすることはやめて単刀直入に言いますわ。
この子にーークレーバーン公爵家嫡男のアラン・チャニングに料理を教えてはいただけませんか?」
そう尋ねる公爵夫人の声には
「否とは言わせない」
という強い決意がみなぎっていた…。
**************
アラン・チャニングはレベッカ同様に毒を漏られて死にかけた事があり、それ以降
「自分で作ったものしか口にしない」
ようになっている。
アランがレベッカと違うのは、調理技術も味覚センスも栄養バランスを考える知識もないこと。
お陰でアランは慢性的栄養失調状態で暮らしている。
身体の成長にも影響が出ているようで…
年齢的にはレベッカよりも一つ上なのに身長も低くて体重も軽そう。
すぐに体調を崩してしまい
自分で自分の食べるものを作るどころじゃない状態になっても
他人が作ったものは食べない。
飲料水ですら自ら井戸で水汲みしている。
自分専用の水甕に井戸水を貯めて
不純物を沈殿させて上澄みを沸騰して飲む。
徹底した人間不信が如実に現れている…。
「一粒種の嫡男がそんな事で大丈夫なのか?」
という声もあってクレーバーン公爵夫人は
「もう一人子が欲しい」
と公爵に夫婦の営みを要求しているものの
「忙しい」
の一点張りで公爵は夫人の寝室に寄り付きもしない。
「子供は既に一人設けたのだから夫婦としてのノルマは果たした」
と思ってるのが丸分かりの冷たい対応をされて
「二人目を作るのは難しい」
とさすがに夫人も諦めた。
そんな中
「グラインディー侯爵家令嬢は毒を漏られて以降、自分の食事を自分で調理しているが、調理技術も味もプロ並みらしい」
という噂を耳にした。
藁にもすがる思いでことの真偽を調べ上げて
「事実だ」
という確証を得て早速レベッカに接触を図ったのだった…。




