20
無事にお茶会を終えた後でイーデンから
「どう思った?」
と感想を尋ねられたので
「正直、まだ11歳なので、今の時点で将来長く連れ添う事になる相手を決めるのは難しいと思います。人を見る目や時勢を読む能力が今の自分に備わってるとは思えませんし」
と答えた。
「…そうだろうな」
とイーデンは頷いてから
「今の時点では保留にして互いに『二年以内に結論を出す』という事で良いだろう。その間に互いにもっと条件の良い相手が見つかるかも知れないからな」
と結論を述べた。
ゲーム内のイーデンはブライトウェル辺境伯家からの婚約申し入れをレベッカに何の相談もなく勝手に受けている。
辺境伯家の軍事力は王家に次ぐものがあるので(王家をも凌ぐとも言われている)、ついつい欲に目が眩んで飛びついたという事なのかも知れないが…
そのせいでレベッカには破滅フラグが立ってしまうのである。
エリアルがヒロインに恋した先には
レベッカが浮気され侮られ濡れ衣を着せられて破滅させられる未来が迫る。
(シナリオの大幅改竄という事になるかも知れないけど…エリアル以外の人と婚約しておく方が安全ではあるのかも知れない。「幸せになれる」のかどうかは謎だけど…)
婚約を受けるという約束はしてないまでもーー
バンクロフト家・トレント家の子供達との交流はお茶会後も続く事になった。
ジューンとチェルシーは特に
「「レベッカの手料理が食べたい!」」
と無邪気に要求してきたので
「包丁さばきを見せるのは学院に入学してから」
などという、まどろっこしい事にはならず
「それじゃ週末にでもそちらのお屋敷の厨房をお借りして手料理を振る舞いますね」
と返事を送ったため
今週末はバンクロフト家で手料理を作って昼食会、来週末はトレント家で手料理を作って昼食会、という予定が立った。
これまでレベッカは自宅の使用人達へは「味見」程度に試食を頼んだ事はあっても手料理を丸々振る舞うような事はした事が無かったのだが
「昼食会の予行演習をしたいので舌の肥えた使用人達を集めて欲しい」
と執事に頼み込んで
厨房スタッフを始めとするグルメな使用人を10名かき集めた。
その中には執事も使用人頭も女中頭もイーデンの侍従もエリザベス付きの侍女も含まれる。
毒見役は案外、舌が肥えていて、料理に使われている食材が原型を留めていなくても使用食材を粗方当てる事ができる人種だ。
そういった面々を満足させてやれるメニューなら昼食会も上手く行くだろうと思ったのだ。
ただ料理用の献立を検討する際に
「子供舌の者達が嫌がる食材は外した方が無難」
というアドバイスはされた。
言われてみれば、その通りだ。
昼食会は子供達だけでなく、その両親も参加する。
それなら大人も楽しめる食事を、と思ってしまうが…
昼食会自体は食いしん坊の末っ子がレベッカにねだって実現する運びになったもの。
お菓子大好きの子供舌に合わせたものにするのが道理。
お子様が喜んで食べて、大人も食べられるもの…と考えると
「…ハンバーグ…」
が浮かんだので、バンクロフト家での昼食会はハンバーグをメインとしたメニューに決めた。
トレント家での昼食会のメインは
「カツレツもしくはフライドチキンにしよう」
と思うが、とりあえずは使用人達の意見も取り入れたい。
そう思って週末を迎えるまでの間ーー
使用人達のために毎日、日替わりランチ感覚で昼食を作ってみたところ
「どれも美味しい!」
「お嬢様の料理にケチをつけるヤツがいたら俺がぶっ飛ばします!」
「こんな美味しいもの生まれて初めて食べました!」
と絶賛してくれるばかりで、誰も改善案を出してくれなかった…。
(…このままでも充分通用する、という事だと思う事にしよう)
お陰で半ば不安なままバンクロフト家での昼食会の日になった…。
********************
学院の新学期は始まっていて、ジェフリーは寮で生活している筈だが、週末は度々実家に帰ってくる。
今回の休日も前日の夕方から帰省。
プレスコット伯爵邸で寝泊まりしていた。
夜更かししていたらしくて、レベッカが昼前に訪ねた時も眠そうな顔をしていたが
「何か手伝える事はない?」
と訊いてくれたので
「ジェフリー様は私やルシアンが参加した野営研修会に参加して雑用班に割り振られた事はありますか?」
と訊き返した。
研修会の戦闘訓練班は調理はもちろん諸々の雑用を免除されていたが…
雑用班は否が応でも調理を覚えさせられていた。
雑用班を経験済みなら多少は手伝いとして使える筈、と思ったのだ。
ジェフリーの返事は
「うん。雑用班はやったよ。翌年には戦闘訓練班もやったから、調理はできる事はできる」
との事なので、遠慮なく任せられる所は任せる事にした。
フードプロセッサーもなければミートミンサーもない。
ハンバーグのタネは肉も野菜も包丁で切って細かくする。
レベッカの手付きを見てーー
ジェフリーもプレスコット伯爵邸の厨房スタッフ達も
「「「「「「マジで神技…」」」」」」
と納得した。
レベッカの料理の評価が高いのは、何も当人の手際が良いだけではなく、味にある。
美味しさの秘訣は
「包丁に魔力を纏わせて切れ味補正しながら食材を切る」
事と
「食材を切りながら食材の良さを充分に引き出した料理の味を連想している」
にある。
「イメージを乗せて魔力を使う」
と、良質の魔力に裏打ちされたイメージが物質に付着してイメージ通りの効果を発揮してしまうのだ。
昼食会の料理はそうした作用もあって完璧な出来に仕上がった。
レベッカ自身も自分の料理を
(美味しい)
と思い
(魔力を包丁に纏わせながら美味しさを連想して調理する事に効果がある?のかも知れない…)
という可能性について考えた。
思えばーー
地球にも魔力に該当するモノは存在していた。
「イメージが具現化する」
という現象を
「魔力持ち」
に該当する人々は引き起こしていた。
本来なら投影魔術師もしくは付与魔術師と呼ばれるべき人々。
しかしその大半が
自分が投影魔術師である事に気付いていない投影魔術師。
自分が付与魔術師である事に気付いていない付与魔術師。
自分の力を自覚せず
自分の力を使いこなせない存在は
意識を低次元状態に留め置かれて利用される。
地球では浅ましく集団我田引水している綺麗事詐欺師達が
「他人を騙す前に先ず自分自身を騙す」
べくナルシスティックな自己像で自分自身の心をさえ粉飾していたが…
そういった虚飾の目的こそが
自覚なき投影魔術師や
自覚なき付与魔術師を
釣ることにあるのだ。
人々は騙されやすい。
「流行ってるモノは皆がコレを安全で良質だと認めてるから流行ってるのだろう」
「嘘が大々的に流される筈がない。公的なものは信頼できる筈」
などといった周りに倣え心理のせいで
大規模な詐欺、大規模な欺きにこそ騙されやすい。
そして騙された人達の誤認識が具現化して
安全でも誠実でもないものが安全と誠実のシンボルのように誤認・美化された社会認識が共有される。
五月もまた
「自分が投影魔術師である事を自覚できていなかった投影魔術師」
だった。
だからこそ「魔法が存在する世界」において魔力の有効利用に関して開眼が起こると…魔力という力の持つ万能さに対する理解も深まる。
その結果ーー
五月として生きていた頃に魂にまで刻まれ続けた
「無力感と劣等感」
が徐々に薄れつつあった…。




