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「情報収集はこちら側の専売特許」
という訳では無かったらしく…
お茶会にやってきたバンクロフト家の子供達もトレント家の子供達も
「グラインディー侯爵家の家庭事情」
に関して予め知っていた。
どうやら父のイーデンが、レベッカの母であるマリオンが生きていた頃から王宮勤めの侍女だったエリザベスと「デキていた」事は有名な醜聞だったらしい。
正妻のマリオンがレベッカを産んだあと産褥で命を落とすと…
これ幸いと喪も明けぬうちからエリザベスの元に通い詰めて自宅にも戻らずに過ごした。
挙句ウォルター懐妊と同時にエリザベスを後妻に迎えた。
エリザベスは騎士の娘。イーデンとは立場が違う。
玉の輿に乗ったは良いものの、当然のように社交界では爪弾きとなった。
ウォルターに万が一の事があれば親戚達のゴリ押しで容易く侯爵夫人の座も降ろされる。
そういった諸々の心労のために…
エリザベスは屋敷内の一画に引きこもって過ごしている。
お陰でエリザベスもウォルターも
レベッカの存在を丸っと無視している。
父のイーデンにしても子煩悩とは程遠い。
エリザベスに溺れて判断力が狂ってた頃ならいざ知らず、基本的に薄情な性格。
レベッカは良く言えば
「干渉されずに自由に育った」
と言えるし
悪く言えば
「誰からも顧みられずにネグレクトされて育った」
とも言える。
なのでレベッカのお茶会に異母弟のウォルターが参加していない事も周りから見れば想定済みだった。
「「…やっぱりね」」
と目配せし合うルシアンとハーモンを見て
「我が家の家族関係に関しては筒抜けだったりするのね?」
と声をかけてやると神妙な顔で頷かれた…。
ルシアンが
「レベッカは弟がいる事になってても実質的には一人っ子みたいなもんだし、ずっと寂しかったでしょう?
もしもウチの兄さんと結婚すれば僕みたいな可愛い義理の弟とジューンみたいな素直な妹ができるし、お買い得だと思うよ。
ウチのジューンは口うるさい小姑みたいなのにはならないボンヤリさんだしね」
とジェフリーを売り込みにかかったので
ハーモンが
「…お前のそういう言い方って、ウチのエリン姉さんが口うるさい小姑になるって貶してるように聞こえるんだが…」
と眉間に皺を寄せた。
どうやらバンクロフト家とトレント家は元々子供同士の行き来がある家同士だったらしい。
ルシアンがエリンに対して口うるさい小姑になりそうだと思う程度には。
「全く、ジェフリーったらルシアンに一体どんな悪口を吹き込んだの?私はこんなにか弱くて大人しくて眉目秀麗な完璧な淑女なのに!」
とエリンが大人しい女の子なら言わないような自画自賛を口にしたところ
ジェフリーがちょっと困ったような顔で
「…うーん。こう言っちゃなんだけど。僕は事実しか口にできない体質なんだ。すまないね、正直者で」
とエリンをやんわりと貶した。
(…どういう人間関係なんだろ?)
とレベッカが呆気に取られてると
「…どうせいずれバレる事だから言っておくけど。ジェフリー兄さんとエリン嬢は一時期は婚約話が上がった仲なんだ。ご覧の通り性格の不一致が原因で纏まらなかったんだけどね」
とルシアンが苦笑した。
「貴族の結婚なんて嫡男は特に政略結婚しか出来ないって決まりきってるんだから、性格の不一致だなんて幼稚な理由で『無理!絶対無理!』とか互いに拒否る時点でジェフリーさんとエリン姉さんの人間性が判るよね?
それに引き換えゴドフリー兄さんは他人に対してあまり好き嫌いもしないし、大抵の人間と友好関係を結べるし優良物件だと思うよ」
とハーモンがゴドフリーを売り込むと
ゴドフリー自身が
「こらこら」
とハーモンの頭を軽くはたいた。
トレント家末っ子のチェルシーが待ちきれない様子で
「お菓子食べたーい!」
と催促したことで侍女がハッとしたように菓子を取り分けて配った。
グラインディー侯爵家の使用人達は侍女も含めてレベッカに対して親近感を感じた事がなく、指示された事に従うのみで余計な干渉をしない。
それでもレベッカの婚約話に興味はあったらしく思わず聞き耳を立てていたようだった。
ジューンとチェルシーが
「「美味しい!!」」
と声を揃えて菓子を頬張るのを皆が微笑ましく見つめる。
レベッカも
(可愛いなぁ)
と頬が緩んでしまう。
(…そうか。結婚すれば、結婚相手の兄弟姉妹が自分にとっても家族になるんだよな…。それならやっぱり可愛い妹がいる人と結婚するのがお買い得かもね…)
と食いしん坊のジューンとチェルシーを眺めてホッコリした。
「…レベッカ嬢の包丁さばきというものを僕はじかに見たわけじゃないけど、ルシアンに言わせると『神技』らしいね…。一度見てみたい気がするんだけど…」
とジェフリーが興味津々といった様子で話を振ってきたので
「学院に入学すれば、調理部に入るつもりですので、機会があればお見せできる事も有るかと思います」
と答えつつ
(…そう言えばゴドフリーは3学年上だから私が中等部に入学する時には高等部に上がってるから、敷地が別になるし会う機会も無いんだろうな…)
と思ったら
レベッカの思った事を代弁するかのようにゴドフリーが
「それだと俺はレベッカ嬢の神技を目にする機会に恵まれなさそうだ。残念だよ」
と苦笑した。
「中等部と高等部は敷地が別になってるけど、隣り合ってるし行事次第では行き来も有るんじゃない?」
とハーモンが尋ねると
「…そうねぇ。高等部の剣術大会とか研究発表会とか音楽祭なんかも見学自由だから年に数回は高等部の敷地内に堂々と侵入できるわよね…」
エリンが思い当たる節が有るらしくボソッと呟き
「…なるほど。エリン姉さんの片思いの相手は高等部の先輩だったのか…」
とハーモンがシレッと指摘した。
「はぁぁぁぁ?」
とエリンが動揺してるのには目もくれずに
ゴドフリーが急に思い出したように
「舞踏会!」
と声を上げた。
「ん?舞踏会って高等部の恒例行事の?」
とジェフリーは腑に落ちないように首を傾げたが
「高等部主催の学院内舞踏会は出席者は高等部の生徒に限られるけど、料理や会場での給仕には中等部のボランティアに任される。
中等部の調理部員達は料理作りでも給仕でも駆り出されてたから、レベッカ嬢が調理部に入るなら、冬休み前の学院内舞踏会の裏方として高等部に出入り自由になるよ」
とゴドフリーが説明した事で納得できたようにウンウンと頷いた。
「…高等部主催の学院内舞踏会って、楽師も中等部の音楽部員を使ったりとかするんじゃ…」
とレベッカが疑いの視線を向けると
「よく分かったね」
とゴドフリーにニッコリ微笑まれてしまった…。




