二人だけの演奏会?
「……ん、どうかしたハイノ?」
「……あ、うん。その、素敵なピアノだなぁって」
「……っ!! うん、だよね! パパもママも音楽が大好きで、結婚してすぐ買ったらしいんだけど、わたしも大好きなんだ、このピアノ! まあ、わたしは弾けないんだけどね」
「……へえ、そうなんだ」
それから、しばらくして。
ぼくの視線が気になったのか、ちょこんと首をかしげ尋ねるエルナ。そして、ぼくの返答にパッと顔を輝かせ説明をしてくれる。……そっか、ご両し……いや、パパとママが。うん、本当に素敵な――
「――もしかして、ピアノ弾けるの? ハイノ」
「……へっ? あ、うん、少しくらいは……」
「すごい! じゃあ、さっそく弾いてみてよ!」
「……へっ? ……えっと、いいの?」
「うん、もちろん! ほら、早く!」
すると、キラキラとした笑顔でそう口にする可憐な少女。……えっと、いいの? でも……うん、エルナがこう言ってくれてるんだし、本当にいいのだろう。そういうわけで、深く頭を下げピアノの前へと座るぼく。そして――
「…………へぇ、すっごいねハイノ。うん、ほんとに感動した」
「……そ、そう?」
それから、数分経て。
そう、目を見開き拍手をしてくれるエルナ。言葉の通り、その綺麗な瞳からポツポツと透明な雫がこぼれ落ちていて……そ、そうかな? その……うん、ありがとうございます。
さて、何に対しての拍手かというと……うん、この流れだと言うまでもないよね。たった今終わった、僕の演奏に対しての拍手でして。
「ねえ、それって何ていう曲? なんか、どこかで聞いたことがある気はするんだけど……」
「うん、これは『カノン』っていうんだ。17世紀に、ドイツの作曲家のパッヘルベルという人が作ったクラシックの曲なんだ」
「……へぇ、そうなんだ……うん、すっごく素敵。なんて言うのかな……こう、安心するっていうか、心が暖かくなるっていうか……とにかく、すっごく好き」
「……そっか。うん、ありがとうエルナ。ぼくも大好きだよ」
「……へっ!? ……あっ、きょく、きょくがってことだよね! もう、びっくりさせないでよハイノ!」
「……へっ? いや、びっくりさせたつもりは……」
すると、和やかな雰囲気だったのに、最後に怒った顔を見せるエルナ。まあ、本気で怒ってるわけじゃないのは分かるけど……でも、急にどうしたんだろ?
まあ、それはそうと……そっか、エルナもそう思ってくれるんだ。この曲をすっごく好きだって、そう思ってくれるんだ。それは、なんというか……うん、すっごく嬉しい。
「――ねえねえハイノ、他にもなんか弾けるの? わたし、ハイノの曲もっと聴きたい!」
「……まあ、ぼくの曲じゃないんだけどね。でも、ありがとエルナ。うん、それなら次は…………へっ?」
「ん、どうしたのハイノ?」
「……あ、いや……」
すると、キラキラと輝く笑顔でそう言ってくれるエルナ。うん、それはありがたい。本当にありがたいんだけど……でも、突然ぼくの隣に来てくっついて座っているので、それがなんとも恥ずかしくて……うん、まあいっか。




