家族
「……今日は本当にありがとうございます、皆さん。あの、ぼくはそろそろ……」
それから、一時間ほど経て。
そう、ゆっくりと立ち上がり伝えるぼく。食事を終えてまだ間もないので、これでは厚かましくご飯だけいただきに来た感じで少し気が引けるけど……でも、あんまり長々といるとご迷惑になっちゃうだろうし、やっぱりこの辺りで――
「なに言ってるの? ハイノ。さっき言ったよね、これからは一緒に暮らそうって。もしかして、忘れちゃったの?」
「……いや、覚えてるよ。もちろん、覚えてるけど……でも、流石にそれは……」
「……それとも、ほんとは嫌なの? わたし達と一緒に暮らすのが」
「……っ!! そんなわけない! その、お父さまもお母さまも、エルナもみんなほんとに優しくて、すっごく暖かくて……だから、今日はほんとに楽しくて、すっごく心地好くて、ずっと一緒にいたいくらいで……あっ、いやその……」
言ってから、ハッと気づく。もちろん、嫌なわけなんてない。だから、そこは明確に否定しなきゃダメなんだけど……でも、最後の部分は口にしちゃダメだった。こんなことを言ったら、ご両親にお気を――
「――ああ、僕らのことなら少しも気にしなくていいからね、ハイノくん」
「…………へっ?」
すると、ぼくの思考を読んだようにそう口にするお父さま。彼の隣を見ると、お母さまもまた同じような表情で。……いや、でも流石にそこまでご迷惑は――
「……ねえ、ハイノくん。何も知らずにこう言っては失礼だと思うけど……君は、ご家庭の環境に恵まれなかったんじゃないかな」
「……っ!! ……あの、どうして……」
「……食事の時、涙を流していたよね。それで、察したんだよ。きっと、この子はひどく辛い環境で育ってきたのだろうと」
「…………」
そう、真剣な表情で話すお父さま。……さっきのだけで、そこまで――
「……それに、何より……さっき、君は言ってくれたよね。ずっと一緒にいたい、と。エルナの命の恩人である君から、そんな言葉を言ってもらえたことが本当に嬉しくてね。だから……もし良かったら、ここにいてくれないかな? ハイノくん」
「ええ、私からもお願いするわ。私達のことは、本当の家族だと……ううん、この言い方はおかしいわよね。本当の家族だなんて、そもそも意識することでもないんだし。とにかく、遠慮なんてしないでね、ハイノくん。貴方はもう、私達の家族なんだから」
「……お父さま、お母さま……」
すると、柔らかな笑顔でそう口にするお父さまとお母さま。隣を見ると、ほらね、と言うような明るい笑顔を見せるエルナ。そして、思いがけない状況に一人戸惑うぼく。だけど、少しの間があった後――
「……その、ふつつか者ですが、どうぞよろしくお願いします」
「ふふっ、なにそれ」
そう、頭を下げ伝える。すると、隣から、そして前からもおかしそうな声が届く。……正直、まだほとんど頭が追いついてない。いない、けれど……それでも、この期に及んでお断りするなんて選択は流石にできなくて。
そして、未だ困惑したこの頭でもはっきりと分かることは――今、ぼくの人生は確実に変わり始めたということで。




