エルナのお家
「……あの、エルナ。やっぱり止めよ? ほら、ご両親にも申し訳ないし」
「もう、だから大丈夫だって。パパとママは絶対に歓迎してくれるから! もし嘘だったら、わたしもう一回川に飛び込んでもいいから!」
「いやそれは止めて? なんのために助けたのか分からなくなっちゃうから」
「あははっ、それもそっか」
それから、少し経過して。
彩り豊かな街の中を、ぼくの手を取りつつ軽やかな足取りで進んでいくエルナ。一体全体、どういう状況なのかというと……まあ、さっきの言葉の通り、本当にぼくと一緒に暮らすつもりのようで。……あの、やっぱり考え直そ? 絶対、迷惑になっちゃうし。……あれ? ところで今、なんか――
「――ほら、着いたよハイノ!」
「……へっ? あっ、うん……」
瞬間、隣から響く明るい声でハッと顔を上げる。彼女の示した視線の先には、まるで絵本のように可愛いカラフルなお家。まるでおとぎの国に迷い込んだ不思議な気分だけど、あいにく浮かれている場合じゃない。ここが彼女のお家なら、迷惑にならないようぼくはすぐにでも引き返さなくちゃ――
「――おかえり、エルナ。……あれ、君は……」
「――ほんとにごめんね、ハイノくん。愛娘の命の恩人だというのに、お礼の一言も言っていなくて。ほんとにありがとう、ハイノくん」
「本当にごめんなさいね、ハイノくん。エルナが無事だと分かって、つい感極まっちゃって……私からも本当にありがとう、ハイノくん」
「あっ、いえ気にしないでください! その、エルナさんが無事で、僕も本当によかったです」
それから、ほどなくして
見たこともないほど綺麗なリビングにて、ダイニングテーブルの向かいから言葉の通り申し訳なさそうに話す綺麗な男の人と女の人。ぼくの隣で楽しそうに微笑んでいる少女・エルナのお父さまとお母さまで、顔立ちも雰囲気もエルナとよく似ていて。……でも、彼女と違うのはお二人ともとても落ち着いて――
「あれ? ハイノ。ひょっとして、なにか失礼なこと考えてる?」
「……へっ? ……あっ、ううん、そんなことは……」
すると、ふと隣からニッコリと笑顔でそんなことを言うエルナ。いや、別に失礼なことなんて……うん、するどいね。




