再びの
「…………ふぅ」
「ふふっ、やっぱり今日も緊張してるんだねハイノ。ほら、リラックスリラックス」
「……うん、ありがとエルナ」
それから、およそ一ヶ月後。
そう、隣からからかうように言うエルナ。そんな彼女に感謝を伝え、再び呼吸を整えるぼく。ここに来る度に交わしている、もうお馴染みのやり取りで。
さて、そんなぼくらのすぐ前には大きくてオシャレな木造の劇場――再びコンクールに挑戦すべく、例のこの場所に立っているわけで。……ふぅ、リラックスリラックス。
「…………ふぅ」
それから、しばらくして。
美しい音色が響く中、静かに呼吸を整える。今、23番目の演奏者――華やかな顔立ちの女の子が優雅に音を奏でているわけで。……うん、上手い。十分にレベルの高いこれまでの演奏者の中でも、ひときわ上手い。審査員の方々も、みんなうっとりとした表情で……うん、間違いなく優勝候補だよね。言うまでもなく、彼女より良い演奏をしなければ優勝なんてないわけで。
「――続いて、エントリーナンバー34番。ハイノくん」
「……はい!」
それから、およそ一時間後。
司会の方の言葉を受け、さっと立ち上がり返事をするぼく。そして、以前よりは落ち着いて壇上を進みピアノの前へ。そして、ゆっくりと腰を下ろし――
「…………ふぅ」
そう、深く呼吸を整える。そして、広い観客席へと視線を移す。すると、そのほとんど真ん中に暖かな微笑でぼくを見つめる男の人と女の人――ぼくの大好きなパパとママで。そして、二人の間には花のような笑顔でぼくをじっと見つめる可憐な少女の姿が。
……うん、大丈夫。彼女が……エルナがいてくれるなら、ぼくは絶対に大丈夫。だから――
「…………ふぅ」
再度、呼吸を整える。そして、ゆっくりと鍵盤に手を添える。そして、そっと目を瞑り第一音を――
「――すごいよ、ハイノ! もう、ほんとにすごくて感動しちゃった! パパもママもすっごい喜んでた」
それから、数時間後。
黄昏に染まる帰り道にて、キラキラと目を輝かせそう告げてくれるエルナ。結果は……なんと、優勝。……うん、僕自身、未だに信じられない。……だけど――
「……でも、それはパパとママ……そして、エルナが支えてくれたお陰だよ。だから……本当にありがとう」
「うん、どういたしまして!」
そう、微笑み告げる。すると、満面の笑みで答えてくれるエルナ。優勝なんて、未だに信じられない。信じられない、けれど……それでも、これまでのコンクールの時よりも格段に出来が良かったのは自分でもはっきりと分かって。……そして、その理由は――
「…………へっ?」
刹那、思考が……いや、呼吸が止まる。そして、ほどなくハッと呼吸を取り戻し――
「……っ!! エルナ!! エルナ!! エルナ!!!!」




