再会
「…………ふぅ」
それから、数日経て。
和やかな雰囲気の中、パステルカラーの街並みを眺めながら歩いていく。今日もみんな笑顔で、ほっと微笑ましくなる。……まあ、それでもみんな何かを抱えているんだろうけど。どんなに幸せそうな人でも、何の悩みも痛みもなく生きている人なんてきっといないから。……まあ、ぼくがそう思いたいだけかもしれないけれど。
……ただ、それはそれとして――
「……これから、どうしようかな」
立ち止まり、ポツリと呟く。もう、お金もほとんどない。こんなぼくでも出来るお仕事で、どうにか少しずつ稼いだなけなしのお金も、もうほとんど……でも、きっともう雇ってくれるところなんて――
「――あっ、いた!」
「…………へっ?」
そんな沈んだ思考の最中、不意に後方から届いた大きな声。驚き振り返ってみると、そこには――
「――この前は、助けてくれてほんとにありがと! わたしはエルナ、よろしくね!」
そう、太陽のような笑顔で告げる赤い髪の少女の姿があって。
「……あっ、ううん……あっ、ぼくはハイノです」
「……ハイノ……うん、素敵な名前! よろしくね、ハイノ!」
「……あ、うん……その、よろしく」
ややあって、茫然としつつ答えるぼく。すると、続けて満面の笑顔でそう口にする女の子、エルナ。改めてだけど、彼女はあの日の――綺麗な赤い髪に、ぱっちりとしたつぶらな瞳の可愛い女の子で。
「……でもさ、なんで知らないうちにどっか行っちゃうの? ちゃんとお礼も言えなかったし、パパとママにも紹介できなかったし」
「……へっ? ああ、いや気にしなくて――」
「わたしは気にするの!」
すると、さっきとは一転、むすっと不満そうな表情で告げるエルナ。怒っているところ申し訳ないけれど、なんとも表情が豊かだなあと少し微笑ましくなる。
さて、何のお話かというと――川からエルナを助けたあの後、ほどなく駆け寄ってきた彼女のご両親がぎゅっとエルナを抱擁。そして、エルナも二人を抱きしめ返し喜びを分かち合って……そんな素敵な光景に沁み沁みとしつつ、ぼくはそれ以上そこに留まる理由もないので何も告げず去っていったわけだけど、どうやらそれがご立腹のようで……ほんとに、気にしなくていいのに。
「……まあ、それはもういいや。ううん、よくはないけど……それでも、助けてもらった子にあんまり文句を言うのもよくないし。わたし、大人な子どもだから」
「……あ、ありがとう……?」
すると、ややあって誇らしげに胸を張りそう口にするエルナ。……いや、うん、大人というのなら最初から文句を言わないでいただけると……あと、大人な子どもってなに?
「それでさ、ハイノ。あなた、どこの学校? わたしの学校は、この道を曲がって――」
すると、ニコッと微笑み尋ねるエルナ。言うまでもないけど、彼女に悪意なんて全くない。ただ知りたいという純粋な気持ちが真っすぐに伝わるだけ。だから、本当に申し訳ないのだけど――
「……その、ごめん。今は、学校には行ってなくて」
「……へっ? ……あっ、その……こっちこそ、ごめんなさい」
「ううん、気にしないで」
「……それで、パパやママはなんて言ってるの?」
「……うん、いないんだ。二人とも、ぼくが小さい頃にどこかに行っちゃったから……」
「……ハイノを、おいて?」
「……うん」
「……ひどい」
そう伝えると、その綺麗な瞳に悲しみ――そして怒りを滲ませ口にするエルナ。ここまででも十分に分かってはいたけど、本当に優しい子なのだというのが改めて分かって。だけど、彼女が気にすることなんて何も――
「……ねえ、ハイノ。だったら、ハイノに帰る場所はあるの?」
「……へっ? えっと、それはこれから……」
すると、突然そう問いかけるエルナ。……いや、今の話の流れだと自然なのかも。ともあれ、帰る場所なんてどこにもない。なので、ひとまずでも泊まれる場所をこれから探しに――
「――それじゃあ、これからは一緒に暮らそうよ! わたしの家で、一緒に!」
「…………へっ?」




