衝動
「……うん、やっぱり最高だよハイノ」
「……そ、そう?」
「うん、もちろん! それに、今のは今日のより良……あっ、ごめんハイノ! その……」
「……ううん、気にしないで。ありがとう、エルナ」
それから、二時間ほど経過して。
そう、隣で微笑み告げるエルナ。さて、今の状況はというと……いや、説明するまでもないかな。いつものように、ぼくがピアノを弾いて、それをエルナが聴いてくれているという状況で。
……ただ、それにしても……うん、エルナが言おうとしていたことは正しくて。今の演奏は今日のより――そして、これまでの練習の時より遥かに良いと自分でも分かって。そして、これはあの時……コンクールに向け練習を始める以前に弾いていた、あの時に近い感覚で――
「――ねえ、ハイノ。また出ようよ! 初めてであんなに惜しいところまでいったんだもん、今度は絶対に優勝できるから!」
すると、ぎゅっとぼくの手を取り告げるエルナ。その瞳は水面に映る光のようにキラキラと輝いていて、言葉の通りぼくが優勝できると少しも疑っていないことがひしひしと伝わって……なので――
「……うん、そうだね。ありがとエルナ」
そう、瞳を見て告げる。この衝動を――その綺麗な瞳から、ついさっと逸らしたくなる衝動をどうにか抑えながら。




